髪結い
ヒューマンモード設定
「いたっ」
突然声をあげたなまえをラチェットは顔をあげて見た。
「どうした」
「髪が絡まっちゃって…」
近寄って見ると、確かに櫛の先で髪が絡まっている。
「もうやだ…」
「無理に引っ張るな。…貸してみろ」
手を差し出すと、なまえは一瞬目を見張ったが、こくりと頷いて背を向けた。
櫛を受け取ったラチェットは、絡まった髪を繊細な手つきでほどいていく。それを横目で伺っていたなまえが小さくため息をついた。
「ああ…もう絡まりやすいから、髪の毛切っちゃおうかな…」
「切るのか?もったいないな」
静かに言うと、何故かなまえの頬が染まった。くるりと指に巻きつけたなまえの髪は艶やかだ。これが短くなるのはやはりもったいない。
「…長いほうがいい?」
「いや…どちらでも似合うと思うが…、せっかく綺麗なんだ。そのままでいいんじゃないか?」
「うん…じゃあ、切らない」
俯いてしまったなまえの髪を、つんとゆるく引っ張ると、困ったような顔でなまえは振り向いた。
「もう、痛い」
「強くは引っ張ってないだろう」
そう言ったラチェットの顔は穏やかで。
「……ひどいなあ、もう」
なまえはその顔が見れなくて、目の前の胸に抱きつくと顔をうずめた。そっと背中に回る腕に安堵のため息が漏れる。
「意地悪」
「意地が悪いことは自覚している」
「…開き直らないでよね」
でも好き、と呟くとラチェットは途端に照れくさそうに咳払いをした。
「今まで散々恥ずかしいこと言ってるのに、これには照れるの?」
「うるさい!…おい待て。恥ずかしいことなんぞ言った記憶は無いんだが」
「ふふ、そんなラチェットも好きよ」
「ご、誤魔化すなっ」
「んふふ」
「〜っ」
顔を上げて、ゆっくり手を伸ばして頬に添える。なまえは目を細めて柔らかく微笑むと、恥ずかしそうに結ばれたその唇にふんわり口づけた。
軽いキスの後、なまえは鼻がくっつきそうなほどに近い距離でラチェットに囁いた。
「…絡まったらまたほどいてくれる?」
「っ…ほどいてやるが、私以外に触らせるなよ」
「誰にも?」
「…誰にもだ」
「わかった」
そう言って、再び胸に顔を押し当てたなまえの髪をラチェットは優しく梳いた。
―――
やっぱり無意識にデレるラチェット。医者なんだし、手先は器用なはず。