北極星
夜半。
星が煌めく夜空を、なまえは地面に座りこんでぼうっと見上げていた。特に何を見ているというわけではない。ひときわ明るい星を見たり、かと言えば流れ星を目で追ったり。そんななまえの目に、ふとあるものが映った。


「…北斗七星」


柄杓の先を目で追う。
あった。北極星。
旅人の守り。迷った時の目印。いつでも見守ってくれる星。

そう、教えてもらったのはいつだったっけ。

ぎゅうっと膝を抱えて、なまえはその星を眺め続けた。

ここが嫌なわけではないし、特別元の世界に未練があるというわけでもない。普通の家族に、人並みにいた友達。誰でも持っているお気に入りの本や雑貨。全てあちらに置いてきたけど、特別で、無くてはならないというほどでもない。
むしろ今の方が捨てきれないもので溢れている。

それでも、ジャックやラフやミコが家族の話や友達の話をしているのを聞いていると、時々胸の奥が苦しくなった。


今日は偶々その日だっただけ。


そっと下を向いた時、月明かりに照らされて出来た大きな影がなまえを覆った。



「…ラチェット」


ラチェットは、何も言わず静かに傍に立っている。
ちらりと見上げたなまえの視線とラチェットの視線が合った。


途端に、涙がなまえの頬を伝った。
顔を覆って、嗚咽を上げずに泣くなまえを見ながらラチェットは腰を下ろすと、ゆっくり掌になまえを乗せた。片手の指でそっとその背に触れる。


「だいじょうぶ、大丈夫だから」
「…」
「ちょっと思いだしただけなの……だから…お願い、誰にも言わないでね…」
「…ああ」


それきり、ラチェットは何も言わずに星を眺めていた。







そっと見上げたラチェットの掌から眺める空は、先ほどよりも広く深く大きかった。

遠くできらめくあの星のどれかは、セイバートロン星なのだろうか。
いつか、ラチェットのその口から故郷の話を聞いてみたい。楽しかったことも、辛かったことも。あなたがどんな道を歩いてきたのか。



あの世界に帰れないかもしれないことは悲しい。それでも、たとえ故郷に戻れなかったとしても、この偶然を私は大事にする。いくつもの世界と星を超えて、あなたと、あなたの仲間と、あの子たちと出会えた偶然。

お互い辛くて苦しくて泣きたくなっても、こうやって傍にいてくれて、傍にいさせてくれる、あなたと出会えた偶然を。




「…ありがとう」

私にとっての北極星。


背に触れた指の温もりを感じながら、祈るように目を瞑った。


…願わくば、あなたにとっての北極星にもなれますように。

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