ハートマーク×1000

「牧野さあああんっっ!!」
「ふぅあっ!」



ずべしゃあっ



何となく散歩をしていたら、唐突に牧野さんに会いたくなった。

…別に初めからそれが目的だったわけじゃない。牧野さんが足りないとかそんな事思ったりしてないから!絶対!

というわけで、己の本能に従うべく教会に向かうと、案の定牧野さんはいつものようにお祈りをしていた。前屈みになった背中から弱々しさが漂っている。
そんなとこが可愛いんだよなあとか思っていたら、なんだか耐えきれなくなってしまった。

助走をつけてダッシュ。ダイブ。

結果、彼は呆気なく前につんのめってしまった。しかも予想外に可愛い悲鳴をあげながら。

…あれ、さっきから可愛いばっかり言ってないか私。ううむ、と首を傾げていたら、うう…と唸りながら牧野さんが身を起こした。


「うう、なまえさん…?ど、どうしたんですかいきなり…」
「牧野さんこんにちはっ!」
「あ、え、はい。こんにちは?」
「いやあすみません!牧野さんがあまりにも可愛くて!あ、それはいつもか」
「…え?あ、あの……え!?」
「可愛くて!」
「二回も言わなくていいです!」
「牧野さん大好きー」
「、っ!!」


照れてる照れてる。その様子に加虐心を擽られて、可愛いと言いながら、多分にやにやしてるであろう顔で覗き込めば、牧野さんはますます真っ赤になって俯いた。乙女か。


「からかってるだけじゃなくて、本気なんですからねー」
「からかってはいるんですね…」
「バレたか」
「う…。あの、なまえさんは一体私のどこが、その…」
「愚問ですねぇ。全部ですよ」


ぴしゃりと言えば、牧野さんは全部…と悩みながら呟いた。またいらぬことも考えているのだろうか。
本当に、全部好きなのだ。その真ん中でぴっちり分けた前髪も、自信なさそうに垂れ下がった眉も、卑屈といっても過言ではない性格も。


「要するに、ヘタレな牧野さんが好きですってことです」
「それけなしてません?」
「欠点も愛してるってことですよ」
「け、欠点・・・」


牧野さんは欠点と言われたことに動揺している。でもそんなことお構いなしに腰に抱きついて、ぐりぐり顔を擦り付けてみた。牧野さんの匂い。
今度は私のその行動にうろたえたみたいで、びくりと震える体。意外に胸板しっかりしてるんだなーと頭の片隅で思いながら、ほっぺたを押し付けた。


「もし絶体絶命のピンチに牧野さんが私のことを見捨てても、嫌いになんかなりませんから、安心してヘタレの道を突き進んでください」
「だからそれけなしてません!?」


牧野さんは半ば叫ぶようにそう言った後、しょぼくれた様子でぶつぶつと何か呟いた。確かにそうかもしれないですけど、いくらなんでも…とか、ヘタレ…とか。でもいつの間にか、ちゃっかり私の背中に手を回しているこの人は割といい性格でもあると思う。あれだけ動揺してた癖に…やるな牧野さん。天然なのかわざとなのか。やっぱり双子だから、宮田さんとも根は似ているのだろうか。
色々考えていたら、牧野さんはぽつりと何か呟いた。


「私も…」
「?」
「い、いえやっぱり」
「気になるから言ってくださいよ」


身じろぎする牧野さんを促す。
彼は、一呼吸置いた後蚊の鳴くような声で言った。


「…私も、なまえさんのことが全部好きですからね」





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甘えるように頭をもたれかけて、照れながら言うのは反則だと思った。


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