泡と白

こぽり、
口から吐き出された泡の行方をじっと見つめるのは、暗い目をした女だった。
輝くばかりに美しい外見とは裏腹の、この世の全てを哀しむような瞳。
優し過ぎる彼女は、きっと外界にいれば間違いなくすぐ食われていただろうに。
よく、生きていたものだ。



「なまえ、館長がお呼びだ。」

呼びかければ、虚ろを見ていた彼女は驚いたようにこちらを振り向いた。


「サカマタさん」
「…館長が呼んでいる。早く行け」


機嫌を損ねない前にな。
続けてそう呟くと、彼女は瞳を瞬いた。


「そうですね。ごめんなさい、ボーっとしてました」
「館長の前では気をつけろ」
「はい。…心配して下さってありがとう」
「な、」


心配など。
思いがけずかけられた言葉に動揺してしまった俺に、彼女は嬉しそうに笑った。

ふわりと舞うように移動して俺のもとに来ると、
「またあとで」
そう囁いて、彼女は白い尾びれを動かして館長のもとへ向かっていった。

彼女の瞳が先ほどよりも光をともしていたのは、きっと気のせいだ。



「でら困った」

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