赤鬼と子供(5/6)


それからまた幾年の年月が経ち、新たな時代の訪れを向かえると、山の噂も殆ど消えさり、鬼にも終わりの時が見え始めてきました。

胸の奥にて疼く痛みはあれ以来、消える事はありませんでしたが、年月が経つに連れ昔の記憶等すっかり薄れた鬼は、これを特に気に止める事もなく、以前と変わらず、時折山中にて迷う者があれば捕って喰い、脅しては逃がし、自由奔放、気のままに過ごしておりました。



そうして季節は巡り冬も終わる、ある日の事。

澄んだ青空の下、顔を出し始めた若葉を踏みしめ、鬼が日課の如く山林を徘徊していると、遠く離れた場所で子供の泣く声を耳にしました。
ふいに足を止め、不思議とざわつく心のまま声のする方へと足を運び、辺りを見回せば、大樹の根元に産まれたばかりの赤子が捨てられているのを見つけたのでした。

赤子は豆粒の様に小さな体でわんわんと泣き叫んでおりましたが、鬼がその様子を覗き込むと、驚いたのか一瞬目を丸くした後、鳥の様に高らかな笑い声を響かせるのでした。

その姿に、鬼はいつかの子供を思い出しました。
思い出していく中で、鬼は今まで消える事の無かった胸の痛みの理由を理解したのです。


──そうか、ずっと共に、居たかったのだ。


鬼はいつかの子を想い、一筋の涙を流すと、美しい女へと姿を変えました。
そして優しく赤子を抱き寄せると、残りの余生を子と共に過ごす為に人里へと降りていったのでした。



おしまい。

→あとがき。


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