赤鬼と子供(4/6)


そんな事が暫く続き、季節が一回りする頃。
辺り一面を白く覆った雪が、更にしんしんと降り積もり、寒く凍えるような日が続く季節。
鬼はいつものように食料を持ち、美しい女の姿で物置小屋を訪れました。

寒さが厳しくなってからと言うもの子供は元気が無くなり、余り動かなくなりました。
鬼は子を抱き、食べ物を口に運びます。
すると僅かながら口が動き、小さな声で礼を言いながら懸命に食べ始めるのでした。

そして、唐突に昔話を始めたのでした。


昔と言ってもほんの少し前、鬼と言うモノに出会った事がある、と。

鬼は、子から話される自分の話に興味を持ち、相づちを打ちながら聞いておりましたが、その内容は当時と同じく勘違いも甚だしいものでした。


──当時。山に置かれた子は、突然の出来事に心細く、泣き喚く事しか出来ずにいましたが、本当は自分が何故山に置かれたのか、その理由を解っていたのだそうです。

生まれ付き体が弱く目も見えない。
何の役にも立たないのに飯だけは食う。

貧しい家に生まれ、皆が皆、自分が生きるだけで精一杯の環境で、何も役に立たない自分が疎ましくない訳が無い。
子の知る限り、周りの人間は皆、冷たく子に当たるばかりで、恐ろしいと言い伝えられていた鬼の方が余程優しかった、と。


泣いてる自分の前に再び現れてくれた。
歩けない自分を里まで運んでくれた。
小さな強がりで話す嘘を黙って聞いてくれた。

そして、今も優しい言葉を掛け、抱き締め、食べ物を与えてくれる──


鬼は言葉を失いました。


こんな体でも、血肉となり何かの役に立つならば、直ぐにでも差し出したかった。
約束を守れずにいるのがとても辛い。

子供は、今は女の姿の華奢な鬼の手を握り、何度も感謝の言葉を述べた後、とても申し訳なさそうに笑うと、そのまま動かなくなってしまったのでした。

鬼の心は初めて痛みを感じました。
早く喰ってしまわなかった事を悔い、春を待たずして消えた小さな命を哀しみ、鬼の行いに疑いを持つ事なく応えた子を想い、様々に沸き上がる感情のままに咆哮を上げると、子を抱いたまま姿を消したのでした。


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