warning!!無駄に長い悲恋の死ネタ。
阿部が病気になります。
「花井、三橋のこと、頼んだ。」
そう言って君は、静かに眠ったね。
また会う日まで数ヶ月前。
放課後、監督に呼ばれて学校の会議室に集められた野球部員たち。
全員が不思議な顔をして、見合わした。
キャプテンの花井でさえ、何のことだがわからなかった。
しかし、監督の表情は厳しく、全く和やかな話ではないことは想像がついた。
そして、監督は静かに口を開いた。
「阿部くんに野球部を辞めてもらうことになりました。」
監督の言葉は、部員たちを騒然とさせた。
「か、監督!!どういうことですかっ!?」
「花井くん。」
「確かに阿部は、最近ずっと体調不良で学校に来てませんが、あまりにも...」
「違うのよ...」
「...えっ」
監督は眉間に皺を寄せて、苦悶の表情を浮かべた。
「...阿部くんね、病気なの...。」
「...病気...?」
いつもなら発言をしない三橋が、怯えた目をして呟いた。
「...ガン、らしいの。」
その時、初めて聞かされた。
愛しい人との時間の短さを。
阿部が入院している病院に、野球部全員でお見舞いにいった。
病室の中に並ぶベットの一つに、阿部は横たわっていた。
病室に入ると共に、田島と三橋は阿部へ一目散に駆け寄り、話し掛けた。
田島は、いつもと少し変に明るく話し掛け、三橋は下向きに涙を堪えているようだ。
二人の呼びかけに振り向く阿部の顔は、異常に痩せていた。点滴が刺されている腕も、骨の形がわかる。
そして、全員で近寄った。
「よっ、久しぶり。」
阿部は俺への一言目。
「...久しぶり。」
ダメだとはわかっても、苦しい表情を浮かべてしまった。
他のメンバーも苦しそうだった。
「少し前は、親にも合わせてもらえないほどだったんだけど、今日は、とても調子いいんだ。」
阿部はメンバーの顔を見ずに話した。
「特別に看護婦やら医者が、見舞いをOKしてさ、最後に会いたいって思っ...」
「...最後、って何だよッ!!!!!????」
叫び声の主は、三橋だった。
「っ阿部くん、三年間...俺、のボール、捕ってくれる、って言った...」
三橋の目からは、大粒の涙が流れた。
その三橋の言葉に、阿部は「...ごめん...」と苦しそうにいう。
「...三年間っ!!俺、だって..阿部、くんと...一緒に...っ!!!」
最後まで言葉を言えないまま、下にうずくまった。
三橋の姿に、他のメンバーは言葉を失った。
そして、下にうずくまった三橋の肩に田島が手を置いた瞬間に、三橋は立ち上がって病室から出ていった。
「三橋っ!!!」阿部の呼び声に耳を貸さずに、出ていった。
そして、三橋の後を、田島と泉が追った。
「...三橋には、悪い...な...」
風が吹き抜ける屋上に、車椅子に座る阿部と花井はいた。
花井は車椅子を押して、あまり風が当たらないところへいった。
阿部の表情も言葉も、弱々しく、部活中の時の怒声などとは、全くの正反対。
「三橋な、ずっと泣いてたんだ。
阿部が、病気で......もう野球が出来ないって、知って...」
「...俺がこんなんになっちまったのがわりぃんだ。三橋との約束を、こんなに早い段階で破るなんて...ゴホッゴホッ...!!!」
「あっ阿部!!!!??」
車椅子から落ちそうになったところを花井が阿部を抱き、掴んだ。
「大丈夫かっ阿部!!!!」
胸の中で苦しむ阿部は、まるで壊れもののようで、見ていて辛かった。
骨が浮き出て、今にも折れそうで、優しく抱いた。
「っは...は....花井...花、井...」
「俺はここにいる...!!?」
阿部は花井を求めるように、花井の服に指を絡めて、片手で花井の頬に触れた。
「...俺、死ぬのが怖いよ...怖いよ...とっても...」
阿部の目から涙が零れた。
「花井...頼みが、あんだ...」
「何だ...?」
「花井、三橋のこと、頼んだ。」
それが、阿部が花井に言った最後の言葉だった。
その数日後、阿部は静かに息を引き取った。
「阿部、三橋は相変わらずだよ。いつもビクビクして、けど、どんどんピッチングが良くなってきてる。田島とバッテリーを組むことになった。新入部員も入って、賑やかになってきた。
みんな、頑張ってるよ。
そっちはどうだ?楽しくやってっか?
みんな、お前のことを今でも大事にしてんだぜ。みんなお前を忘れていない...
...お前に会いたい...
阿部、お前との約束は忘れてないから、三橋はしっかりしてる。
阿部、愛してる。
またいつか会える日まで、さようなら。」
end
――――キリトリ――――
阿部を一途に愛する花
井くん。
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