(!)噛み癖佐藤と無自覚M鈴木




佐藤には、変わった癖がある。

「ッ…てめ!いてぇだろ!」
「ご、ごめん!つい…」

ついも糞もあるか、そんな不満を漏らしながら自分の首筋を押さえた。
首筋にはくっきりと綺麗な歯型が浮かび上がっていた。
佐藤には、変わった癖がある。それは人の首筋を噛む癖である。

そんな癖を知ったのは付き合ってすぐの事だった。
一緒に帰っていると、佐藤が俺を見てそわそわしていた。

『何そわそわしてんだよ、気持ち悪いな…』
『…鈴木…』
『何だよ…何か言いたいことがあるならさっさと言えよ!』

すると、佐藤は俺を腕を掴んで抱きしめてきた。

『ッ!?佐藤!ここ、道路ッ…!』
『ねえ…鈴木……』

今は誰もいない道路の真ん中、夕焼けが嫌に雰囲気をかもし出す。
佐藤は俺の耳元に口を近づけて、息を吐いた。

『…首…噛んでも、いい…?』

それが始まりだった。
佐藤の意味のわからない発言にただただ固まる事しかできず、その時は未遂に終わったが、その日を境に俺の首筋を狙うようになった。
今ともなれば、俺の抵抗なんか佐藤の力に敵うはずもなく、噛まれるばかりだ。

「お前、最近噛みすぎだろ!」
「だって、鈴木の首筋に誘われて…」
「俺はお前を誘った覚えねえよ!ったく…いつまで、隠せるかわかんねえぞ…」

何度も噛まれれば跡は残ってしまい、今はガーゼで何とか隠している。
たが、時々カーゼの事でクラスメイトにからかわれる事が増えたのも事実。
ガーゼの位置的にからかわれる対象になるもの仕方がないことだが、俺は全く悪くない。

「今日だって、またからかわれたんだぞ…チッ…」
「本当に悪かったよ鈴木…だから…その、般若の顔やめてください…」

毎回これだ。悪いなんてこれっぽっちも思ってない癖に、簡単に謝る。
腹が立って仕方がない。しかし、それを許してしまう俺も俺だ。

「お前もこの癖やめろよな。」
「でも…簡単には、やめれそうにないんだよね…」
「努力しやがれ!つか、いつからこんな癖あったんだお前?まさか、昔の彼女とかにもしてたんじゃ…」
「そんなわけないじゃん。」
「え?じゃ、いつから?」

佐藤は笑みを浮かべながら俺の手を取った。
そして、弾かれる様に佐藤の目の前まで引っ張られた。

「鈴木のね、首筋を見るとね、噛みたくなるんだよ。」

にこにことあざとい笑みを浮かべながら呟く。
その笑みは恐ろしく楽しそうだ。

「それにね、首筋に噛み跡残すとさ、こう、高揚するんだ。」
「お前、ド変態だったんだな。」
「鈴木限定だよ。」

それは真顔で言っちゃいけないだろ普通。
佐藤は甘えるように俺を抱きしめるとまた首筋に顔を埋めた。
軽く歯を当てるような仕草が、もどかしい。

「ねえ···鈴木、噛んでも、いい···?」

そっか、いつの間にか、俺までもド変態にさせられていたのか。
もどかしく、早く噛んでほしいと急かす脳みそ。
噛まれたい。

「···いいよ、噛んで···」

欲する言葉を言えば、躾のない犬のように噛み付いてきた。このバカ犬。

「っあ···」

愛しい、もっと、もっともっと、噛んで。
この時、俺たちは互いに犬になり果てた。



END







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