(!)中学時代の佐鈴。設定捏造有り。
   微暴力表現有りなので注意。





「ねえ、キミ。」


その声に振り向くと、にこやかに笑った狂犬がいた。





いつもなら隣にいる平介は担任の教師に呼び出しをくらい俺は今一人で帰っている。
周りには同じ制服の奴らが数人に、少しやつれたサラリーマン、彼氏と楽しそうに話す女。そんな日常が流れている。

路地裏に続く道を横目に俺はまっすぐ歩く。
そういえば、平介の奴、早く数学のノート返せよ。もうすぐテストだってのに俺に勉強させない気か。あの野郎…明日の朝に問い詰めてやる。そう思っていた矢先だった。

ドカッ…!「!?」

真横の細い道から誰かが倒れてきた。俺は驚いてその場で足を止めた。
その誰かは、学ランを着た金髪のいかにも不良ですと容姿が語っていた。


「もうそろそろよくない?」


抑揚のない声が細道から聞こえてきた。
目をやると、そいつは鋭い目で金髪不良を見下ろしていた。


「まったく…そっちから喧嘩吹っかけておいて、このまま帰れるなと思うなよ?」


これまた爽やかな顔で笑っていた。どこにでもいそうな爽やかイケメン。
でも、頬や学ランに付いた掠り傷や擦った痕を見つければ、ああこいつも不良なんだと理解した。


「…ッ、」

「ん?何言ってるか聞こえないって。」

「こン、の…キョーケン……!」


キョーケン…?
金髪不良が口にした言葉が反芻する。


「俺がキョーケン?ほんと酷いよね…俺は一度も、自分から喧嘩吹っかけた事ないのにさ。誰だよ、そんな名前付けたのさ。」

「ッ!?」


ふぅ、と呆れたような溜息を付きながら金髪不良の鳩尾に蹴りを一発いれた。金髪不良は口から唾を吐いてそのまま意識を飛ばした。


「あーあ、こんなに汚れちゃって…今日のうちに洗濯できるかな…」


制服を見つめて呟いていると、そのキョーケンと呼ばれた奴と目があった。
奴の目はとても冷たく、俺はゾクリと恐怖を覚えた。


「ねえ、キミ。」


俺に声をかけた奴は身なりに似合わずニコッと笑いかけてきた。


「大丈夫?怪我とかしてない?」

「…あ、あぁ。」

「それはよかった、他校生を怪我させたとかなったら俺停学とかなっちゃうかもだし、それはちょっと勘弁。」


へへ、と笑いながら話す奴はさっき金髪不良に蹴りをいれた奴と同一人物とは思えない。
奴は俺の目の前に座り込むと、手を差し伸べてきた。


「俺××中の佐藤、さっきはごめんね。」

「…俺は、××中学の鈴木。」


その手を掴んで立ち上がった。佐藤のほうが身長高いな。
少しむかついたが、佐藤の笑みに気分が削がれる。


「鈴木って、よくこの帰り道使うの?」

「…まあな。」

「そっか、じゃあこれからはこの道を使うときは気を付けたほうがいいよ。この道にはよく△△中の不良が溜まってるから。」

「そうなのか。」

「だから、気をつけてね。」

「あ、りがとう…。」

「じゃあね!」


夕日に照らされて、少し血が飛んだ頬で笑う佐藤。
そう言って、手を振って路地裏に消えていった。

¨キョーケン¨と呼ばれる奴。

俺の足元に転がったこいつはほっといていいのか…?
ま、いいや。今は、とても。


「怖いな…。」


だから。


「帰ろう…。」


でも、あいつの笑顔が頭にこびりついて離れない。

だって、とても、綺麗だったから。



end






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