「吸血鬼…だと?」
「そう、吸血鬼。」
平介が何を言っているのかさっぱり理解できないでいた。吸血鬼?何が?誰が?こいつが?赤い目?何だ?頭の中がクエスチョンマークだらけになった。思考が狂う。
「吸血鬼、血を吸って生きているモノ。それが俺"たち"。」
「何の冗談だよ…ふざけるのも大概にしろよ…」
「冗談じゃないさ、単に鈴木の目に写る俺の目は確かに、赤いよ。」
いやに平然な平介に苛立ちを覚えた。まるで嘲笑っているようだ。
「何で、そんなっ…」
「知らないよ、俺たちだって。気がつけば血を吸って生きていたのさ何年も何十年も。」
思考は麻痺するばかりで平介の言葉が変に日常のことのように感じた。
「吸血鬼…それはお前だけが?」
平介はその言葉ににやりと笑った。
「鈴木、さっきから言ってるじゃないですか。俺"たち"って…」
瞬間、体が後ろに何かによって引かれていく。そして、強い力が俺を包んだ。
「な、に…」
ゆっくりと振り向くと、そこに彼がいた。
「鈴木、」
「………佐藤。」
俺は倒れかかるように佐藤の胸の中にいた。佐藤は俺の腰元で腕を回し、しっかりと俺を抱き寄せていた。
「佐藤、お前…」
見上げれば、佐藤の目も赤く輝いていた。
「何で来ちゃったのさ、鈴木…鈴木、」
佐藤は平介と違い、いつも通りの雰囲気だった。というか、いつもより何か気持ち悪い。
「赤い目…」
「そ、俺も平介と同じモノだよ。」
「何で、そんなっ…!」
何故か涙が溢れた。悔しいような悲しいような寂しいような、全ての感情が溢れ出た。
「黙っててごめんね、鈴木。でも、鈴木のことが好きだから…悲しませたくなかった。」
佐藤は俺の涙をすくいあげた。
「うくっ…ぅ…」
「鈴木、泣いていても綺麗だよ。」
佐藤は変だった。平介より変だ。
「好きだったんだ、鈴木。」
赤い目のせいでもあるのかしれないが、その目に宿るのは恐ろしい熱情。
「鈴木だけに、寂しい思いはさせないよ…」
首元に埋められた佐藤の顔。少し触れた佐藤の肌は氷のように冷たかった。
瞬間、首筋に電気のような痛みが走る。掠れる視界、ほつれる理性、惚ける脳。俺は考えることを生きることを手放したようだ。掠れる視界の片隅に写った平介の顔は、絶望に歪んでいた。
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