目の前に広がる廃墟の群。
埃臭い瓦礫の中、あいつは怪しげな月光に照らされて笑っていた。
俺は、あの時の恐ろしい程の赤いあいつらの双眼が忘れられないでいた。
「あいつが変だ?」
それは数週間前のことだった。
同じクラスの奴らが俺にそんなことを行ってきたのが始まりだ。
「いつもと変わんねえじゃん。」
佐藤を見れば、遠くで他の奴らとバカをしている。
「それがさぁ、なんかあいつ最近雰囲気が怖くね?」
「そうそう!なんか怖いよなぁ〜…こう、ぼーとしてる時の顔とか別人だし!キョーケン!」
「はあ?あいつが?」
「鈴木、近くにいてわかんねぇの?!」
クラスの奴らの言い様に少しイラッとしたが、佐藤をチラッと横目で見る。
いつもと変わらない表情、
いつもと変わらない行動、
いつもと変わらない佐藤がそこにいる。
「あいつは普通だよ。」
会話の中に入ってきた突然の声に目線を向かせれば、平介が立っていた。
「佐藤は普通だよ。」
「何だよ突然。」
「鈴木、ドーナッツ食べる?昨日作ったんだ、みんなも食べる?」
「食う!平介のドーナッツ美味いからなぁ!」
「ちょ、おい!平介!」
そのまま話は流れてしまった。
その時の平介の言葉は今でも心のどこかに刺さったままだ。
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