「あっくん、いらっしゃい。」
「へーすけ!」
あっくんは輝く笑顔で俺に飛び込んできた。すごい衝撃が腹に。
「あ、あっくん…今日も元気だね…」
「へーすけ!へーすけ!」
「何、あっくん?」
「とりっくおあとりーと!」
……ん、何て?
「おかしをくれないといたずらしちゃう、ぞ…?」
何で疑問系。
あっくん、意味わかってんのかな。
「…それ、誰から情報よ、あっくん。」
「お父さん!」
一瞬、あっくんに「とりっくおあとりーと!」と言われているおじさんの嬉しそうな顔が目に浮かんだ。
「えっと…」
ということは、これはお菓子をあげなくちゃいけないってことですよね、雰囲気的に。
「じゃあ、お菓子持ってくるね。」
俺は立ち上がりキッチンに準備していたハロウィン仕様のロールケーキを取りに行った。
までは、よかった。
しかし、キッチンには俺の最高傑作のハロウィンロールケーキは綺麗に姿を消していた。
どういうことだ。え、何、神隠し?自問自答していると、テーブル上に一枚の紙が目に入った。
「ん?」
《平介へ、母さんは少しお友達の元に行くのでお菓子は貰っていく。母より。》
母様ァーーー!
あの最高傑作のロールケーキを…。母様、何と言うことを。
「あっくん、ごめんね。俺が作ったお菓子、母さんが持っていっちゃったみたいで…」
「…うん」
うわあ…すごく落ち込んでるよ。どうするんだよ。
「…じゃあ、へーすけ!」
落ち込み顔のあっくんは突然また輝いた笑顔に戻った。
「おかしくれなかった、だから…いたずらしていいんだよね?平介?」
はっと目が覚めると、目の前には服を乱した見た目が一気に大人になったあっくんがいた。状況上、これはきっと馬乗りされているな。
「あっくん…?」
「おはよう、平介。どんな良い夢を見ていたの?」
小悪魔のような笑顔が俺をぞくぞくとさせた。
そうか、なんて懐かしい夢を見たのだろうか。あっくんは5歳、俺は高2の時。
「あっくんの幼少期の時の夢だよ。」
「そっか…どう、良い夢だった?」
「うん、とても…」
今はあっくんが高校生で、俺は三十路手前。
「じゃあ、今の成長した俺は可愛げないかな?」
少し寂しげな表情で馬乗りのまま俺のネクタイを掴んだ。
まったく、今も昔も…。
「大好きだよ…秋。」
「平介…俺も。」
ネクタイを乱暴に引っ張られ、口づけをしあった。
(ハロウィン…ネタなのかな。)
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