「なんだ、部屋きれいじゃん!」
目の前のバカは部屋中を見渡しながらニコニコと嬉しそうにしていた。
反して俺は、体の震えを目立たせないようにするのに必死だった。怖い。同級生とは言え、部屋という密閉空間での二人きりは恐ろしかった。
「鈴木、喉が乾いたからお茶かなんかもらえないかな。あとお菓子も持ってきたからさ。」
「ああ。」
そう言って部屋から飛び出る。そして、トイレに向かう。
吐くものがないというのは辛い。嘔吐感と共に胃液だけが競り上がる。喉が焼けたように痛い痛い痛い。心も痛い。
どれだけ時間が経ったのだろうか。嘔吐が止まったと同時に、佐藤の存在を忘れていたことに気がついて、急いでコップにお茶を入れて持っていく。
「佐藤、悪い。お茶がなくて探して……」
佐藤は俺のベッドにいた。それも微かに寝息をたてて。
ベッドの端に何冊か漫画が乱雑に放置されていて、見るからにどれだけの時間暇をもて余していたかがわかる。
すると急に激しく申し訳なくなり、お茶を机に置いてベッドに近づいた。
「佐藤…佐藤…」
触れはせず、距離を少し置き、佐藤の名を読んで起こそうとする、が。
「佐藤!」
大声で呼ぼうと佐藤はまったく起きようとはしない。困った。
数拍間、俺は生唾を飲み込み、決意をして佐藤の体へと手を伸ばした。
すると、寝ているはずの佐藤から手が伸びてきた。俺は驚く間なく引っ張られた。
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