パティシエ長として、下の人たちに指示をしたり、特別なケーキを試案、試作、試食、お客様に満足してもらえるようなスイーツを提供する。パティシエになって約20年、そんなことの繰り返しの日々。
そんな俺も40歳を越えて、未だに独り身だったりする。
今は独り身でも数年前まで結婚していた人がいた。
今とは違う店先で出会った1つ下の彼女。
俺と似たようなおっとりとした空気を持った可愛らしい人だった。
しかし、結婚した当初、俺はまだ今のような長を勤められるような器を持っておらず、仕事ばかりに熱中していた。そのせいで、彼女を泣かせ苦しめてしまっていた。
そして、数年前のクリスマスの日に別れを告げられてしまった。
それ以来、女性とは付き合うこともせず、ずっと甘く可愛らしいお菓子たちと付き合う日々。
気がつけば、40歳半ば。
こんな年齢になれば、結婚のことなんて諦めかけていた。今更、こんな40半ばでお菓子ばかり作るバツイチ独身男を誰が貰ってくれるのか。
俺はそうやって諦め、お菓子だけを一生作ると決めていた。
なのに、目の前に突如現れた海藤くんに心を奪われた。
初めての感覚だった、こんなにも強く惹かれ、それも同性に…。
そして、気がつけば彼を好きになっていた。
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