(!)虎秋で悲恋系。
痛みとケーキ
「…あ゛ーっ!平介ずりぃっ!!」
「…え?」
虎太郎は秋の顔を掴んだ。
秋は動揺の表情を浮かべたまま、近づく顔を見つめていた。
学校帰りに、虎太郎が「秋!!最近出来たケーキ屋行こうぜっ!!」と、横でゆっくり歩く秋に叫んだ。
「ケーキ屋?」
虎太郎の叫び声にも動じず、ゆっくりと虎太郎の方へ聞き返した。
「うんうん!!吉田さんが行ったらしくてさぁ、めっちゃくっちゃ美味しいんだって!!」
「吉田さん」と呼ばれた人物は、虎太郎と秋のクラスの女子である。とても可愛らしい女の子で、虎太郎は興味があるのだろうか?
「ふーん…」
特に興味はない話。ケーキ屋さんなんて何年行っていないだろう。
そして、秋の脳裏に過ぎったのは、平介の作ったケーキ。
甘くて、美しくて、優しい味のケーキ。懐かしい思い出。
「俺は、いい。」
「え!何で?」
虎太郎の背後に「ガーン!」といった文字が見えるかのような大げさにショックを受けていた。
そして秋の肩を掴んで、突然ものすごく顔を近づけてきた。
「ちょ、こたろっ…!」
「一緒に行こーよ…秋がいないとつまんないよ…」
何それ、とてもおもしろくない冗談だ。
虎太郎はいつもそうやって俺の気持ちを考えてくれない。
「…ごめん、行かない。」
まただ、また、あの懐かしいケーキを思い出してしまった。
すると、目の奥が少し痛んだ。
「平介」
虎太郎の口から発せられた名前に肩を震わせた。
そして、虎太郎を見ると、彼は顔を歪ませていた。
(何で…そんな表情を…)
色んなことが混ざって思考が鈍った。
今の状況が理解できない。
「あー!平介ずりぃっ!!」
「え?」
虎太郎はそう叫ぶと、俺の顔を掴んだ。
瞬間、時がゆっくり流れているように感じた。
俺は近づく虎太郎に何の反応もできずに、小さなリップ音だけが木霊した。
「ぇ…」
唇の小さな隙間から声が漏れる。
これは、どういう状況。
「秋」
虎太郎が俺の名前を呼ぶ。…今、何を。
俺は何かを発したり考えるよりも前に反射的に右手を構えていた。
パシンッ…!!!
鈍い破裂音が誰もいない教室に木霊した。
「った…何するん「虎太郎のバカっ!!!」
虎太郎の言葉を遮って叫んだ。
そして、叫ぶと同時に俺は教室から走って逃げた。
思考は止まったまま。
ただ羞恥と動揺だけが心の中を掻き乱していた。
俺は、秋が大好きだ。それも幼少期から。
あの時から秋は平介の話ばかりする。
平介の話をするときの秋の顔はとてもわかりやすいほどに愛おしい目をしていた。
(嗚呼、これは。)
その瞬間、俺の感情を乱したのは嫉妬だった。
学年が上がる度に平介の話題はしなくなった。
でも、遊ぶ時、秋の家に平介がいた。
秋は顔を真っ赤にして俯いていた。
(まただ。)と、俺の嫉妬は黒くなる一方だった。
ねえ、秋。
お前はいつになったら俺の話をしてくれるんだ。
そして、いつになったら俺でその顔を真っ赤に染めてくれるんだ。
秋、好きなんだよ。
当の本人がいない空間でそう思ったところで何も変らないのだろう。
俺は拳を強く握ってみせた。
end
虎→(←?)秋→平 とややこしい方向。
あっくんは成長したらクールキャラという方向もありかもしれない。
2013.05.27 書き直し
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