―佐藤side―




鈴木を見つけたのは、強姦事件が起きた一年後のことだ。


事件直後、強姦事件は近辺の中学校で大きな騒ぎになっていた。誰が被害にあったのか、そんな陳腐な探偵ごっこのような噂が流れていく。しかし誰も、誰が被害にあったかなんてわからなかった。



それから一年後、鈴木を知った。
とある昼休みの屋上、弁当を持って友達と話していた時だった。

俺はある人が目に入った。

屋上の片隅で座り込み、フェンス越しに外を眺めていた。その瞳は、真っ暗で死んでいた。やばいんじゃないかと思い声を掛けようとした瞬間、後ろから「鈴木ー!」と呼ぶ声がした。その瞬間、外を眺めていた瞳は弾かれたように振り向いた。そして、名を呼ぶ声へ微笑みかけた。そうか、彼の名は「鈴木」。彼の名を知った瞬間でもあった。


それから俺は、鈴木を目で追うようになった。


鈴木はいつもどこか遠くを見つめていて、今にも泣きそうな目をしていた。しかし、友達に呼ばれたり話している時は喜怒哀楽がよく見えた表情をしていた。俺は、何かを隠した鈴木に惹かれていった。



とある放課後。
友達と帰ろうと門を出た瞬間、教室に課題を忘れたことに気がついて一人で教室に戻った。

教室の扉を開けた瞬間、そこには鈴木がいた。
鈴木は寝ているのか、机に伏せたまま微動だにしなかった。
俺は静かに鈴木に近づいた。鈴木は目の下に隈を作り眠っていた。ぞくり、とした。そして、俺は震えた手で鈴木に触れようと手を伸ばした。

頬を指で撫でた瞬間だった。
突然鈴木は目を見開いて起きた。
俺は驚いて、訳のわからない言い訳を言おうとした、時だった。



『あぁ…っやめろ!!触れるなぁぁッ!!?い"や!!!』



発狂。
俺は突然の鈴木の行動に混乱した。
鈴木は全身を震わせて、自分を守るように、何かを抑えるように両腕で肩を抱いていた。見開いた目は俺を見ているが、俺じゃない何かに怯えている目だった。


『す、鈴木…?』

『く、く来るなッ!?触るな!!』


パシンッと俺の手を払われた。じんわりと鈍い痛みが広がる。
鈴木は、頭を抱えてカタカタと歯を震わせながら俺を見ていた。

間があって、鈴木はまた突然立ち上がり、震えた手で鞄を掴んで俺の横を走り去った。


『…』


そんな事があり、俺の脳内にある事件が頭を過った。そして、何かしらのピースが揃っていく。

そういえば、鈴木って…誰かに触れる所、見たことない。

突然思い出す強姦事件にあった男子中学生のこと。

触れた瞬間の鈴木の怯え方。

『触れるな!』と叫んだ恐怖心。






……ああ、鈴木か…。


鈴木との出会いと興味。そして偶然なのか、突然頭を過った昔のニュース。それは俺と鈴木を結ぶ赤い糸になってしまった。

いつもは冷静で何事にも動じない鈴木の痛み。弱味。


不完全な彼が欲しくなった。






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