(!)平藍で病シリアス。幻想系。
真っ白な景色が広がっていた。とても白い。
何処を見回しても白が続いている。空も白い。
地面に広がる白に触れると、とても冷たい。これは雪か。
何故、自分がこんな場所に立っているのかわからなかった。
周りは白だけで、なんの手がかりもない場所。
そうか、ここは夢の中なのか。そんな答えに行き着く。
確かにこんな世界は夢の中しかないだろう。
こんな幻想的な世界は。
そう悟りながら雪の中を果てもなく歩いてみた。
こんなにも何もない場所を歩いていると何もかも失ってしまいそうな幻覚に陥ってしまう。
自分の地位も名誉も信頼も仲間も、全て。
果てのない幻覚。
ふと、思い出してみた。
自分は誰なのか。
果てもなく歩いていると、遠くに何か影が見えた。私はその影へ歩みを進めた。
その影は近づく毎に輪郭を見せ、それは雪の中に倒れた人の姿だった。
もっと、もっと、もっと、近づく。
雪にうつ伏せで倒れている人の側に膝をつく。
金色の長い髪、黒い着物、白い羽織に五の文字、右手に握られた刀。
私はこの人を知っている。でも知らない。
死んでいるのかと思ったが、微かに上下する背中に生きていることを知った。
ああ、なんて美しい人なんだ。それが印象だった。
誘われるように金色の髪をすくった。
女のように思わせる髪だが、顔にかかった髪を除けると男だということを知った。
端正な顔、白い首筋、細い手首、骨張った指。
やはり、この人を知っている。
ゆっくりと体を引っくり返し抱き寄せた。
「た、い…ちょ……?」
その瞬間、首に回していた腕に血が滴り、地面の雪を赤く染めた。
驚いて、自分の手を見ると、真っ赤に染まっていた。
彼へ視線を移すと、体や額、頬から血が滴り噴出していた。
「!?」
再び驚き、その体を離そうとした瞬間、何かの引力に体が止まった。
自分の手首を見つめると、その男の手が掴んでいた。
「…どうしたんや?」
さっきまで動かなかった体が少しずつ動き始めた。
男の口元は弧を描き、瞳は私の視線を奪った。
「何を怖がっとんねん。」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
手首を掴んでいた男の手からも真っ赤な血が流れてきた。
そして、口からも目からも血が流れ、流れて。
「…お前がしたことやろ?」
やめてくれ、違うんです。
何の贖罪への謝罪かもわからず言葉を繰り返す。
「お前がこの白い世界へと俺を引きずり落としたんやろ?」
優しく私の頬へ真っ赤な手を添えた。
「俺の命を、奪ったんや。」
男の目は白が黒く、黒が白く染まっていた。
まるで吸血鬼を想像させるものだった。
「俺の心を奪っておいて、俺はこの白の世界へ閉じ込めとくんか?」
瞬間、血が爆ぜた。
男の体内の血液が全て雪を赤く染めた。
そして世界は赤へ変わる。
「こんなに愛したくせに、俺を置いてイくなや。」
隊長の顔は白の仮面に包まれて笑っていた。
end
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