藍染惣右介。
この名前が俺を縛っている。


「どうなされましたか、隊長。」


何も変わらず交わされる言葉。そんな今に俺は恐怖した。恐怖の対象は、惣右介。


「何かありましたか?」

「なんもない。」


冷たく返せば、惣右介の眉が微かに動いた。体が強ばる。後悔が駆け巡った。


「あ…」

「そうですか…では、失礼しま…」

「ま、待てっ…惣右介!」


踵を返す惣右介を求める。惣右介は俺の求める声に足を止めた。そして、静かに振り向いた。


「い、行くな…いやや…」

「しかし、隊長は何もないと仰ったではないですか。私がここにいる意味は無いのでは。」

「すまん、すまんかったから…行くなっ!」

「どっちですか…はあ、」


俺は何故か気がつかない間に、藍染惣右介に縛られていた。こいつがいないと窒息してしまいそうになる。側にいて欲しい、ずっといてほしい。


「隊長、大丈夫ですか。」

「そ、すけ…」

「どうしたんですか、ここ最近の隊長は変ですよ?」


誰が、誰のせいで、こんなにも。苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい。

お前が、欲しい。苦しい。


「隊長、泣かないで下さい。」

「惣右介っ…藍染、惣右介…」


すると、惣右介は震える俺の手に自分の手を重ねてきた。


「落ち着いて下さい、私はここにいます。」


そして、惣右介の胸の中へ。抱き締められた。嗚呼、更に苦しくなった。


「そ、すけ…俺を置いて、行くなや……」

「置いていきません、というか、置いていけません。私はずっと、あなたの側に……」


そう、耳で囁かれた瞬間。藍染の姿は泡のように弾けて消えた。


「あ、いぜっ…!」


さっきまで自分を包んでいた温もりは、徐々に冷えていく。無かったかのように。
虚しく求めた手が空を掻く。


「いや、嫌やっ…!待って!行くなっ…惣右介!」


走れども、走れども、闇ばかり。
誰もいない虚無が広がる。

すると、背後から手を引かれた。


「こっちですよ…」


振り向くと、そこには白い衣を纏った藍染惣右介が。こいつか?こいつなのか?


「違う…」


お前じゃない、俺が求めてんのはお前、藍染じゃない、惣右介や。


「離せ、離せやっ!」

「嫌がることはない…私を求めたのはあなただろ、平子真子。」

「違う、お前はっ、惣右介ちゃう…俺の知ってる…」

「それは、ただあなたが知らなかっただけではないのか。」


その言葉にはっとした。確かに俺はただ知らなかっただけなのかもしれない、藍染惣右介という人物を。あの時の、裏切りの痛み。あの時の、冷酷な言葉。


「あれが、これが…本当のお前…」

「ああ、そうだ…これが本当の藍染惣右介…」


藍染は俺を抱き寄せた。藍染の体は冷たく、まるで屍のようだった。これが本当の。


「好きですよ、平子真子。」


俺は涙を流しながら、俺を見る藍染の顔を確かめるように頬に手を沿わせた。


「…っ、そ…すけ…」

「隊長。」


涙が溢れた。偽りでもいい、今だけ今だけでいいから、夢を。


「愛、しとったで…惣右介。」


そうして、気がつかぬ間に手にしていた刀を藍染の背中に突き立てた。



瞬間、血が弾けた。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い。自分の腹には、藍染に刺したはずの刀が突き刺さっていた。


「あ、くっ…!」


震える手、赤い血、歪む視界。回りには誰もいない。誰も。一人。ばたりと倒れた。


『隊長…隊長…』


遠くで愛しかった声が聞こえた。しかし、きっとこれもまた幻。俺の求めたものはここにはない。あるのは、孤独。


「惣右介、好きやで…」


ブラックアウト。終焉。
呪縛。幻覚症状。死亡フラグ。

さようなら。



BAD end.




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