(!)R-18で楼イヅ→ギン。シリアス系。





三番隊の隊長として復帰して数ヶ月経った。
最初は隊に復帰することに抵抗があったが隊員たちは皆いい人ばかりでとてもいい三番隊になっていて嬉しかった。
それに、副隊長であるイヅルもとても真面目でいい子だ。

「隊長、ギターばっかり弾いてないで仕事をしてください。」
「わかっているよ、でも今とてもいいメロディーが思い浮かんだんだ。」
「知りませんから、早く仕事してください。」

イヅルは呆れたように僕を見ていた。
彼は隊長がいない間、すごく大変だったはずなのにそんな愚痴も零さずに何もなかったように仕事をこなす。彼は本当に素晴らしい副隊長だ。千鉄もいい副隊長だったけど、イヅルは本当に頑張っている。



夕方になり、隊員たちが帰りの挨拶をしにやってきていた。
しかし、僕とイヅルは隊長不在の間に溜まっていた仕事をこなす為残っていた。
いくらイヅルが真面目で頑張り屋だからといって、隊長不在というのはやはり大きい。こんな仕事量を一人ではこなせないだろう、と考えながら筆を進めた。

「隊長、お茶飲まれますか?」
「うん、お願いできるかな。」

イヅルは小さく微笑んでお茶汲みに立ち上がった。
その頃には外は暗く、月明かりだけが空を照らしていた。

「…どうぞ。」
「ありがとう、イヅル。」
「っい、いえ…こちらこそすみません…隊長にまで残っていただいてしまって。」
「いや、本当は隊長の仕事のはずなのにそれをイヅル一人にさせてしまっていたのが悪いんだ。謝らないでくれ。」
「…ありが、とうございます…」

少し言葉に詰まりながら話すイヅルの表情は、なんとも痛ましいものだった。
それと、最近気になることがあった。

「イヅル。」
「っ…なんですか?」

『イヅル』と呼ぶとイヅルは何かに怯えたような驚いたような反応を見せる。

「何でもないよ、ただ呼んだだけ。」
「用もないのに呼ぶのはやめてください。」

彼は少し怒こったように言う。
初めてイヅルに会った時『吉良イヅル』だと名を聞いた瞬間に、彼の名はなんて綺麗なんだと思った。そこから今までずっと名前で呼んでいる。『イヅル』、なんて美しい響きだろう…。

イヅルが変な反応を示す理由はわからなくもない。
それはきっと、前隊長である市丸ギンのせいだろう。
彼、市丸もイヅルのことを名前で呼んでいたからだと思う。

『イヅル』

市丸とイヅルはとても仲睦まじかったと聞いた。
イヅルは市丸の後ろをいつも付いて歩いていた、と。

きっと、僕の推測だが、イヅルは市丸が好きだったのだろう。


そういえば、僕が久しぶりに死覇装を着た時。

「イヅル、どうだい?」
「っ…!」
「久しぶりの死覇装は気恥ずかしいものがあるね。似合ってるかい?」
「…っはい、お似合いです…鳳橋隊長…」

あの時の泣きそうな表情も忘れられない。
ああ、イヅル…イヅル…。



「隊長、筆が止まってますよ。」
「イヅル。」
「っ…だから、何なんですか!さっきから!」
「イヅル、君は、市丸のこと、好きだったのかい?」
「!…な、何ですか!急にっ…!」
「君は時々、僕と市丸を重ねているように見えてね…」
「っ!?」

イヅルの手から筆が滑り落ちた。
そして、イヅルを見ると、イヅルの目からは涙が。

「な、何を!馬鹿なことを…!ぼ、僕が、貴方と市丸隊長をっ一緒にするわけ…!!」

痛ましく、儚く、美しい。
イヅル。

「ぼ、くは…市丸隊長のことなんっ…!」

今にも折れてしまいそうなほど細い体を抱き寄せ、その瞬間にイヅルの唇を奪っていた。
イヅルは目を見開いて現状が理解できていない様子だった。
背中に回した手でイヅルの背筋を辿る。

「っん…!た、いちょっ!?」
「イヅル、市丸は、もういないんだ。」
「!」

そう、君は真面目で頑張り屋の副隊長。

「もうこの世にはいないんだよ。」

だからこそ、君は自分の傷を隠して隊を守ってきた。
時々、僕と市丸を重ねながら、彼がまだこの世にいるのではないかと自分に言い聞かせながら。愛しかった彼の姿を探していた。

「っ、や…」
「僕は鳳橋楼十郎…三番隊隊長…」
「た、いちょ、う…」
「市丸じゃない。」
「っああ…ぁ…」

嗚呼、イヅルが壊れてしまう。

「『イヅル…』」
「…隊長ッ!隊長…!!!」
「今日は、君の幻想になってあげる…」
「…へ?」

「『…イヅル、おいで。』」


君が泣いてしまいそうなら、君をこの胸で包んであげよう。
君が壊れてしまいそうなら、君の幻想くらいになりきってみせよう。

君が忘れたくないなら、僕がその幻想を消してしまおう。












「やっ!あぁ、ンッ…い、市丸…隊、長ッ!!」
「イヅルッ…イヅル!イ、ヅル…!!」
「イ、イくぅ…ッ!!」
「っく…!」
「っん、ああああぁ……っ!」


君の綺麗な名を呼んで、君が僕の名を呼んで。
そんな世界が早く来たらいいのにね。



end



(ローズをギンと重ねてしまうイヅルと無自覚に嫉妬するローズの幻の三角関係。)




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