「イヅル、今日の報告をしてくれるかな。」

隊長はいつも通りの様子でそこに座っていた。
少し驚いたが、冷静を保ちつつ隊長に頭を下げる。

「お疲れ様です、隊長。今日の○○地区での虚討伐ですが······」

その先の言葉が浮かばない。
その訳は、報告書が手元にないからだ。
忘れてしまった、と焦った。

「隊長、すみません。報告書を忘れたので取りに···」
「待って、イヅル。」

足を進めようとしたら、隊長の手がイヅルの腕を掴んだ。掴んだ瞬間、イヅルの腕に激痛が走った。

「ッぁ···!」
「?イヅル···」
「な、んでもありません···」
「···イヅル、腕を出して。」
「早く報告書を···」
「イヅル!」

隊長の口調が突然厳しくなった。
イヅルは驚いて体が硬直した。
そんなイヅルの姿を見ながらため息をつき、イヅルの腕を優しく引いて自分の近くまで寄せた。

「これは、どういう事か説明してくれるかな?」

死覇装の下に幾重にも巻かれた包帯。
隊長は眉を潜めてイヅルの目をまっすぐ見て問う。

「···今日の討伐で、気を抜いてしまって···」
「それでこれかい?」
「···はい。」

隊長は幾重に巻かれた包帯を指でゆっくり這わせながら冷たい視線でイヅルの輪郭を伝う。

「副隊長でもあるイヅルがこんな失態をするだなんて驚いたよ。」
「すみません···もうこんなミスは···」
「そうだね、それに···」

這わせていた指が爪を立て包帯を引き裂いた。

「!」
「イヅル、君を傷つけていいのは僕だけだよ。」

まだ癒えきれてない傷に口づけをする。

「隊長!や、めッ···」
「抵抗は許さないよ。」
「い゛····」
「虚如きに傷をつけさせるなんて、お仕置き、だよ。」

瞬間、腰を掴んでイヅルの胸に刻まれた大きな傷を上から下に向けて舌を這わす。
イヅルは痛みと痺れに体を震わせる。
逃げようともがくも、腰を強く掴まれており逃げることができない。

「痛い、です···隊長ッ···」
「その割には感じてるように見えるけど。」
「ちがッ···」
「イヅル、感じていてはお仕置きにはならないんだ。だから、もっと僕の心の痛みを感じてくれないかな。」

イヅルの顎を掴むと無理矢理唇を奪う。
そして荒っぽいキスを行う。

「んはっ···んん···」

イヅルは嫌がる反面、無意識に隊長の羽織を掴んで快感に悶えた。
そんなイヅルの姿を見つめて、目で笑う。
長いキスを終えて、イヅルを隊主室の机に押し倒した。

「次、自分を傷つける事を許したら、イヅルを監禁しなくちゃいけないからね。」
「怖いです···でも、すみませんでした···」
「いいよ、許してあげる。君の綺麗な血にかけて。」

イヅルの姿は、死覇装を乱し、包帯はバラバラで、晒された傷からは血が滲み、隊長の死覇装までも血で染めていた。

「隊長の今の姿···まるで、僕を殺そうとする殺人鬼のようですよ。」
「怖い?」
「いいえ、綺麗です···」

気がつけばイヅルの目からは恐怖が消えて飢えた獣の目に変わっていた。

「じゃあ、イヅルを死なせないように気をつけるよ。」
「いいんですよ、隊長···僕を殺してくれても···虚に汚された僕を···」
「イヅルを殺してしまったら、僕は··········」



暗闇の中で繰り返される壊れた欲情。
血まみれになりながら繰り返される自傷。
優しく甘く繰り返される殺人未遂。


「イヅル、汚くて綺麗だよ。」


また血が舞った。

イヅルの傷が治ったのは、予定より大きく遅い一ヶ月後であった。



End





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