しかし、卒業式の日。

『惣右介、これでさよならやな。』
『はい、平子先輩、ありがとうございました。』
『まあ!まだ一年色々あるやろうけど、俺がいなくなってもがんばるんやで。』
『はい。』
『じゃあな、元気でやれよ。』

そうして別れた時の藍染の顔は、なんとも悲しそうであり、恐ろしい顔をしていた。



その4年後、藍染は俺の目の前に現れた。

『よおわかったな、こんな人通りの悪い場所。』
『あなたのことは一番理解してるつもりだったので。』
『はあ?なんやねん、それ。』
『まあ…しかし、ここに辿りつくまでに2年もかかってしまいましたが。』

藍染は笑みを浮かべて、俺に近づいてきた。
あれ?惣右介って、こんなにも威圧感のある奴だったけか?
目の前にいるだけなのに、自分の存在が小さくなっていくのを感じた。

『平子先輩…否、真子、私と一緒に生きてください。』

その言葉で、俺の自由は奪われた。




「真子、おいしいですか?」
「ああ、うまいで。」

そう言うと、藍染は嬉しそうに笑った。

こいつは、一緒に生きると言ったあの日に俺をこの枷で縛った。
何がしたいのか、未だに理解できていないが。
俺は抵抗することなく、この枷に繋がれている。

「コーヒー飲みますか?」
「ん、飲む。」

俺は枷に繋がれたからといって、こいつを恨むことも憎むこともしていない。
寧ろ、愛しく、哀れに思っているくらいだ。

コップを近づけられて、コーヒーの香りを胸いっぱいに吸って、口を近づける。
瞬間、コーヒーが意外に熱くて、「あっつ、」と小さく呟く。

「真子!大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫や。ちょっと熱かっただけや。」
「やけどはしていませんか?」
「大丈夫やって。」

藍染は心配そうに俺の唇に触れた。
その触れ方は下心もなく、純粋に壊れものを触るかのような触れ方だった。

「よかった…少し赤くなってますが、」
「時間が立てば収まる。」
「すみません。」
「お前は心配しすぎやねん、俺、女とちゃうで?」
「それでも、あなたは私の大切な人だから…」

俯きながらそう呟く藍染の言葉はとても嬉しかった。
〔大切な人〕、俺を大切にしてくれる。








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