君に 愛を。
「花井が好き。」
田島と二人、放課後の教室にいた。
いきなり勉強を教えろ、とかで呼び出された。
部活は休み。
昨日練習試合があったので、今日の午後練は休み。
「花井が、好き...」
田島が、単語を書いていたシャーペンを静かに手から離した。
「えっ...」
花井は頬杖をついていた手が一瞬力が抜けた気がした。
田島の発言に口が開いて閉じない。
「...そ、それって...どういう...」
「...恋愛...ってこと...」
田島の目線は下。
シャーペンを見つめている。
顔は照れているのか、夕日に照らされているのか、赤色。
「ぁ...そか...」
花井も田島の発言を振り返り、体が熱くなった。
「...ご、めん...帰る...」
田島は泣きそうな声で立ち上がった。
自分のシャーペンと消しゴムを筆箱に荒々しくいれ、教科書とノートもともに鞄にいれた。
「田島っ!!」
花井は立ち去ろうとする田島の腕を掴んだ。
しかし、その腕を田島は払いのけた。
「気持ち...悪いよな...?」
「っ...そんな...こと...」
「っ嘘つきっ!!」
田島は叫び、目に涙を貯めながら走って、逃げ出した。
「たっ田島っ!!!」
花井は椅子から立ち上がって追い掛けようとしたが、足が言うことを聞かなかった。
「っひ...ぁぁ...」
田島は帰り道を歩きながら、両手で涙を拭いていた。周りには誰もいない。
「うっ...ぅぁ...ひっ...」
心に残るのは、悲しみと後悔。
一方的な恋に、一方的な告白だった。
絶対に花井を困らせた、と。
「ぅう....あぁぁ!!!!」
誰もいない道の端でおもいっきり泣いてみせた。誰もいないのに、誰かを求めて。
「...田島?」
背後から声がした。
驚いて涙が止まった。
「田島...ど、どうしたんだよ...」
声の主は、近づいてきて顔の前に回ってきた。
「っ!!...」
声の主は、
阿部だった。
「お前、何で泣いてんの?」
阿部は、少し驚いたような表情で田島を覗き込んだ。
田島は何も言えずに、ただただ阿部の顔を見つめていた。
「もしかして...花井?」
「っ...ちが...!!」
「わなくねーだろ?花井の名前出た瞬間のお前の表情見たらわかるって。」
田島は顔を真っ赤にして、また涙を流した。
「また泣く。」
そういって、阿部は田島を抱き寄せた。
右手は田島の後頭部、左は何もなく。
動揺する田島に阿部は囁いた。
「花井じゃなくてさ.....俺にしろよ?」
そう言って、体が離れたかと思いきや、田島の唇に阿部の唇が。
「俺なら、何も考えずにお前だけを選ぶ。」
阿部の未だに不明瞭な愛は、田島に向けられていた。
田島は、ただ寂しい、悲しいといった一時の感情だけで阿部の不明瞭の愛を求めて、しまった。
君に不明瞭な愛を
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