「じゅ、準さんっ?」

「何、利央。」

冷静な回答が返ってきたが、利央に抱きついたまま離れようとしない準太の姿に困惑の表情を浮かべる利央。

「何かあったんすか?」

「…別に、何もない。」

と、そんな風には全く見えないんですけど、準さん。
利央の脇の下から通した準太の腕は、利央の背中を探るような仕草をしたと思うと、何かを引きつけるように服を握る。そして、微かに準太の肩が震えているのを感じた。

「そう、ですか…。」

何もない、という準さんの言葉の裏に何があったのかは、実はわかっていたりする。
そうだ、この間の金曜日の放課後のことだった。




―――。




忘れ物をしたことを思い出して、部室に向かっていた。
部室の前まで行くと、部室内から声がした。

「和さん、俺…あなたのことが…」

正しくその声は、今バッテリーを組んでいる先輩の準さんこと、高瀬準太先輩。
何か久しぶりにフルネーム、そして先輩って付けて読んだな。
でも、その声は、いつもの明るい声ではなくて、どこか悲しそうな寂しそうな気持ちを連想させるような小さな声であった。

「あなたの、ことが…」

詰まる喉。
気が付いたら俺は、部室の扉の前でノブを掴んだまま、立ち聞きをしてしまっていた。

「…好き、なんです……」

その言葉は、とても小さな声なのにはっきりと耳の中で反響した。
利央は頭の中を混乱させて、誰が誰を好きだって?、とさっきまでの短い歴史を思い出しながら自問自答した。

「俺、和さんが…好きなんです。」

何故か二回も繰り返された言葉に途轍もない虚しい感情が生まれた。
扉の前で無音に膝をついて、体をゆっくりと動かして扉に背をもたれさせた。

準さんは和さんのことが好き。
それは男同士の恋愛、という大きな問題があるのだろうけど、俺はそんなことよりも、「準さん」が「和さん」のことが「好き」という三つのワードが頭を駆け巡った。

「準太…」

やっと和さんが口を開いた。驚きに満ちた声、だけど、和さんの声にもどこか寂しさを秘めたような感じを感じ取った。

「ずっと、好きだったんです…。本当は、告白なんてするつもりじゃなかったんです。ずっと先輩の背中だけを見て、ずっとずっと心の奥にしまっておくつもりだったんですけど、先輩が引退されて、いきなり俺の球を受けるのが和さんじゃなくなって、そんな日々の中であなたへの感情が積もり積もって、今日に至ります。」

和己は黙ったまま、準太を見つめていた。
その表情は苦しそうに、どこか泣きそうであった。

「準太…」

「俺はあなたへ思いで、今にも崩れそうになる時がたまにあって、そんな時に利央の姿があなたに見えてしまうときがあって。そんな時、とても辛くなる。この和さんへ対する孤独な気持ち。別にいいんです、俺は伝えれただけで満足なんです。欲深く、俺のことも好きになってほしいとか付き合って欲しいとか、そんな感情はないんです。ただ、この抑えれない苦しい思いを和さん本人に伝えたかった、ただそれだけなんです。」

「そうか、お前の気持ちは受け取った。だけど、俺は、その気持ちを汲み取ってやることはできない。」

今準太が抱き始めた感情は、失恋の悲しみ。

「そうですか、ありがとうございました。」

「いや…俺こそ、何かすまない…」

「何で、和さんが謝るんですか。謝ることはしていませんよ、寧ろ謝るのは俺のほうです。何かすいません、気持ち悪かったですよね。本当にすみません、忘れてください。」

「じゅ、準太っ!」

部室を飛び出した準太は、扉の真横に座り込んだ利央の姿を見えていなかった。
走り去る準太の背中を哀れむような瞳で、その背中が消えるまで見つめ続けた。

その後、時間を置いて部室に本当の理由の忘れ物を取りに何食わぬ顔で入ると、和己が何かを考えているような表情で椅子に座っていた。
俺は一瞬顔が引きつったが、笑顔で和己のあだ名を呼んだ。

「あっ!和さんじゃないっすか!」

驚きの表情と共に振り返る和己の反応は予測がついていた。
「利央…」と呟く和己のオーラは、負で満ちたされていた。

「どうしたんすか!部活ならとうの前に終わりましたよ!」

「あ、あぁ知っている。ちょっと準太に呼び出されてな。」

「準さんはもうだいぶ前に帰ったと思うんですけど…」

「そ、そうみたいだな、俺もう帰るわ。」

焦ったようにその場から去ろうとする和己。
利央は無感情に「また来てくださいね!」と言った。利央の肩をすり抜けるようにして部室を去る和己の一瞬の表情を見たが、恥ずかしさと情けなさに歪んでいた。

俺はさっきまでのここで起きていた情景を知っている。準さんが和さんに告って、和さんはその気持ちを汲み取れないと言った。それにショックを受けて逃げるように去った準さん。そして、空気の読めない俺の登場に恥ずかしさ、そして情けなさを感じて、準さんと同じように去った和さん。

この楽しかったはずの部室が、今となってこんなにも人間の様々な感情が入り組んでいたんだなって知った。今までの俺はただ、この部室から日々がスタートして、ゴールもここだった。
だけど、今はもう居心地が悪くて、息苦しさも感じる。
嗚呼、虚しいな。




―――。




「そう、ですか…。」

俺はこの言葉のあとに、走馬灯のように記憶が頭を駆け巡った。

そして今ここは、部室。
外は大雨。震える肩と、背中を這う手を感じながら準さんの腰に手を回した。

「っ…!」

「準、さん…」

ゆっくりと腰に手を置いたのが気持ち悪かったのか、抵抗を見せた。けど、俺はもうすでに何かのスットパが外れてしまっていた。

「俺じゃ、ダメなんですか?」

「えっ…」

気がついたらそんな言葉が口から漏れ出していた。様々な感情の波が俺の口から大波の如く吐き出された。様々な感情に魅せられて、様々なことを短期間で見てしまって聞いてしまって、もう俺の感情でさえ麻痺してしまった。

「俺…あなたが、準さんが好きなんです。ずっと好きだったんです。」

もうこの感情は本当の恋から成る感情なのかわからない。

「り、お…」

詰まる言葉。気がつくと、肩に温かく濡れた感覚を覚えた。そしてそれは、涙。
準さんは今だ、俺の肩に顔を押し付けたままなので感情を読み取ることはできない。そして、準さんの今の感情は、悲しみなのか、恥ずかしみなのか、それとも絶望、それとも…。わからない。

「俺も…好き、だ…利央。」

「準さん。」

嗚呼、準さん。それは、俺に対する感情じゃないんでしょう。
それは、俺じゃなくて。



「¨準太¨好きだよ…」

「っ!?」



和さんへの感情なんでしょう。
それでもいいです。俺は、和さんの代わりになってあげます。

あなたが好き、だから。





end





――――キリトリ――――

ノーコメント。
といいたい所ですが、
意味のわからない表現
が多彩に使われている
ことに謝罪を。oyz

まあ、準さんも和さん
も利央もみんな哀れな
人間になってしまうと
いうストーリー。
こういう幸せ(?)も
ありじゃないかなって
思いますよ。






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