Ofuri long novels | ナノ
29
「な、んだと…」
花井は動揺の言葉を紡ぐ。阿部は花井の様子にどこか楽しそうだ
「詳しい理由は秘密だ。西広との約束だからな。」
「…西広?」
西広、という意外な名前に至極驚く。
「秘密。」
そう言って、花井の目の前に座り込んだ。
阿部は、いつもしない笑顔のまま。
「花井、痛かったか?」
「は?」
自分の行動なのに、心配の言葉を並べた阿部。
何だ、こいつ。
「痛かっただろ?だって、本気で殴ったからな。痛いに決まってる。けどさ、恨むなら、沖を恨めよ?沖がこんなおふざけにお前を巻き込んだのだから。花井も散々だな、俺もさあ花井を巻き込むつもりはなかったのに、沖の奴がな。ああー最悪だよ。」
つらつらと感情のない言葉を並べる。
そんな阿部の姿に苛立ちを覚える。
「意味が、わかんねぇ…」
西広に、沖、阿部。
そして、この3人にはもう1人、関わりというか共通する奴がいる。
どこか推理じみた考えを整理する。
それは阿部の意味のわからない言葉を並べた文章に全く理解が出来なかったからだ。
「まあ、俺も一気に理解しろとは言わねえよ。沖もすぐに理解出来なかったしな。」
そう言って、呆れた表情で傷だらけの沖を一瞥して、ズボンのポケットの中を探り出した。
そうして、取り出したのは、
カッター。
「…っ!?」
花井は一瞬にして苛立ちが恐怖へと変わる。
阿部は花井の目の前で、カッターの刃を出したり直したりを繰り返す。
「沖も、今の花井と同じ顔してたぜ。恐怖のみに支配された顔。」
ガチャガチャとカッターの刃が厭に輝く。
「そういう表情って、とてもそそられる。俺は好きだぜ?…けど、困るんだよ。」
カッターの刃が出たまま、動きが止まる。
「花井もさぁ…沖みたいに誰かに言うのかなって心配しちまうんだよ。沖は俺の指示に背いたから、そうなった。」
沖の姿を指し示しながら言う。
「まあ俺は一人じゃないけどさ。まあしかし、一人でもいいかもな。」
訳がわからない。
こいつはさっきから何を言っている。
すると、刃の光は、花井の目を定めた。
「…花井、お前は死にたい?」
遠くで、烏が厭に騒いでいる。
その頃、帰路を進む三橋は、淋しそうな表情を浮かべて空を眺めていた。
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