Ofuri long novels | ナノ
26
「西広と沖が揉めたってホントか?!」
放課後の部室に響いたのは、田島の空気の読めない発言。
沖は田島の言葉に静止した。
そして、栄口が「ちょ、田島っ!!」と、田島に飛びかかった。
全員の目線が沖に向いた。
沖は目を泳がせ、右手で左胸の服に波を作る。
「沖、何で。」と、巣山が心配そうに問う。
「ちょ、ちょっと…」
「そういえば西広、何か様子変だったよね。」
「確かに、何か…」
みんなは互いの顔を見合って、心配そうな表情を浮かべる。
しかし、たった一人だけが違う感情を持っていた。
「…とりあえず、練習しよう。」
花井の一声に、続々とグラウンドへ向かっていった。
「花井っ!!」
突然の声に振り向くと、声の主は沖だった。
「お、沖?」
突然の沖の呼びかけに少し動揺する花井。
「な、何だ?」
「今日の放課後さ…話あるんだけど、残ってくれる?」
「話?…何の?」
沖は苦い顔をして、「今は言えない。その時に言うから。」と言う。
そんな沖の様子に、ただ事ではないなと感じた花井は、「わかった。」と真剣な眼差しで返した。
そして、いつものハニカミで「ありがとう、花井。」と、言い残してグラウンドへ走っていった。
花井は、沖の背中を目で追った。
グラウンドでは準備運動が始まっていた。
花井は急いで定一に着くと、後ろから声が降ってきた。
「沖と何話してたんだ?」
振り向くと、鋭く尖らした視線がそこにいた。
「阿部、」
阿部の表情は見た目は普通だが、視線が合った瞬間に背筋に寒気が走った。
「あ、あぁ…今日の練習のことで。」
反射的に付いてしまった咄嗟の嘘に、自分自身で驚いてしまう。
阿部は「そうか。」と疑いの眼差しを残して三橋の方へ向かった。
そういえば阿部って、こんなに怖い目をしていたか。
そういえば、最近そうだ。苛々しているというか、何と言うか、全てを拒絶しているような眼差しをみんなに向けることがある。
阿部が、変。
そして、この疑問は、これからの俺たちの日常を歪ませていく。
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