始まりの唄






あなたが嫌いなんです。
その締まりのない顔も、笑った顔も、困った顔も、

大嫌いなんです。







maiden







「おい、平介。またあの1年来てるぞ。」


知ってますとも。
さっきから背後に感じるこの殺意にも似た黒いオーラ。
これがあの1年じゃなかったら誰なんだって話だよ。


「あ、うん…」


「モテモテだな、お前。」


「良い気がしないのは何でだろうね…。」


「あんなに一途な後輩、良い気にならなくちゃ!」


じとーとした視線が俺の背中に突き刺さる。
俺の残念そうな顔に鈴木と佐藤はどこか面白そうだった。






二年生の冬。

受験だの、進路だの、大学だのうるさい時期に差しかかっていた。
俺はいつもと変わらずに成績に響かない程度には学校に来ていた。

今は4時限目の休み、まあ昼休みだ。
そこに毎日のように後ろのドアからこっちを睨みつけてくる後輩。
まあよく飽きずにやってくるものだなって、感動の感情さえ浮かんでくる。
何に恨みがあってやってくるのかよくわかったものじゃない。


「平介さぁーその後、長谷さんとは何もないわけ?」


佐藤の唐突な質問に、少し喉を詰まらせた。


「っく…は、長谷さん…?」


「あの、ラブレターの女の子だよ。」


「あ、あぁ…あれはもうとっくの昔に終わった話じゃないですか…」


「でもさぁ、噂で聞いたんだけど…長谷さんって結構モテるんだってさー」


「俺も知ってるぜ、隣のクラスの田中が告ったらしいぜ。まあ、フラれたらしいけどな。」


薄らとした記憶の中で思い出す「長谷」と呼ばれる彼女のこと。
ショートカットがよく似合っていて、同じ雰囲気をかもし出す彼女。


「まあ…確かに可愛らしい人でしたけど…」


「そんな子から告られて、ふった男の顔が見てみたいな。」


鈴木と佐藤は「くくく…」と、嫌味を込めた笑いで俺を見てきた。
…明日は、お菓子作ってきてやらないからな…と心の中で呟きながら溜息を吐いた。



そして、ふと背後に意識を向けてみたら、あの後輩くんの真っ黒なオーラはどこかに消えてしまっていた。




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