(!)xxxHOLiC19巻内容の捏造。
百目鬼静が年を取り、孫が出てきます。
苦手な方は回れ右。




爺さんに手を引かれてやってきた家は、まるでそこにあって無いような存在感を放っていた。

門の前で止まると爺さんは「お前には見えるか。」と言ってきた。俺には何が見えるのかがよくわからず、「見える」と小さく答えた。
すると爺さんは小さく頷くと、また俺の手を引いて家の中へ入っていった。

「「いらっしゃいませ!」」

玄関戸を開けると、変わった姿の少女二人が待っていた。

「「久しぶりー百目鬼!」」

少女たちは爺さんを見るなり、声を揃えながら爺さんの両腕に絡んできた。

「嗚呼、あいつは?」
「「四月一日なら、お風呂だよ!」」
「そうか。」

爺さんは少女たちに体を支えてもらいながら中へ入っていく。

「お前も来い···」

爺さんは振り返り俺に言った。
そして、俺は驚いた、爺さんが嬉しそうに笑っていたのだ。生まれてから今まで、爺さんが笑ったところなんて一度も見たことがなかったのだ。

招かれるまま着いていくと居間に通された。
爺さんは慣れた様子で真ん中に置かれた机の傍に用意された座椅子に腰掛けた。俺も少し動揺しながら爺さんの横に座る。と、同時に襖が開いた。

「誰かと思えば、お前かよ。」

若い男の声が耳に響いた。
振り向くと、眼鏡をかけた若い男が立っていた。
腕を組み、不満げな表情を浮かべて、爺さんの目の前へ座った。
その男はとても異変で不思議な雰囲気をかもしだしていた。俺は一瞬にして引き込まれた。

「久しぶりに来たと思えば、お前も年を取ったもんだな。」
「あまり体の調子がよくなくてな。お前の方はどうしていた。」
「誰かさんが来ないおかげで元気にしていたよ。」

瞬間、丸くて黒いものが視界を過ぎった。

「とか言いながら!四月一日は百目鬼が来なくて寂しそうだったんだよ!」
「うわっ!」

その丸くて黒いものが喋りだし、俺は驚いて声を上げた。
爺さんと男は俺を見て、くすりと笑った。

「この子は、お前の孫か。」
「嗚呼。」
「なんつーか、お前の家系は血が濃い家系だな。お前の若い頃にそっくりすぎるだろ。お前が遥さんとそっくりだったように。」
「確かに爺さんは俺にそっくりだったからな。」
「お前が遥さんにそっくりだって言ってるだろ。」

すると、男は俺の方へ向き直して微笑んだ。

「四月一日君尋だ、よろしくな。」
「···ども。」
「性格まで爺さんに似ちまったか。」
「···。」

爺さんは黙って四月一日さんを見つめていた。
四月一日さんはくすくすと笑いながら爺さんに向き直す。

「孫か···そんなに経つのか···」

さっきから、この人と爺さんはまるで昔から、何十年前からの知り合いのように話している。それも爺さんの方が年上なのに、同等に話しているところも気になった。

「四月一日、俺はもう長くない。」

爺さんは静かに言った。
四月一日さんは、はっと弾かれるように見た。

「何を···」
「お前もわかっていただろ。俺も年だ、体にガタもきているし、あと何回ここに来れるかもわからない。」
「百目鬼···」

すると爺さんは俺を見た。

「これからは俺の孫が来るようになる。俺は、お前を大切に思っている。だからこそ、ずっと傍にいてやりたい、が、お前のように長く生きれない。」

無表情の顔からは、僅かに悲しそうな感情を感じられた。
四月一日さんも少し下を向いて話を聴いている。

「お前の傍にいられない、だから。」

爺さんは俺を見て「お前がこいつを守れ。」そう短く言った。
俺は反射的に「わかった。」と答えていた。





「来るときは連絡しろ、て言ってあっただろ。」
「すみません、これ、言われていたやつ。」
「ちゃんと買ってきたな。」

頼まれていた買物袋を差し出すと四月一日は呆れたように受け取った。

爺さんが亡くなって数年が経った。
しかし、四月一日は全く出会った時のままの姿だった。
俺はこの数年でなんとなくこの人という存在を少しだが理解し、この人が何故この店にいるのかもなんとなしく理解した。

「百目鬼、お前、今年でいくつになったんだ。」
「高2。」
「年を聞いてんだよ、高2、てことは17歳か。」

買物袋の中身を確認しながら何かを思い出している様子で台所へ向かう。

「百目鬼ー!」「「いらっしゃい!」」

すると、モコナとマルとモロがやってきて俺の周りを囲んだ。

「おう。」
「今日は何を持ってきたんだ!」
「ん。」
「おお!純米大吟醸、黒龍!」
「「大吟醸!黒龍!」」

モコナたちは嬉しそうにお土産を抱えて中に向かう。

「百目鬼、お前はほんと祖父似だな。」
「確かに、爺さんは俺にそっくりでしたね。」

四月一日が用意したおかずたちに手を付けながら話を進める。すると、四月一日は突然笑い出した。

「何がおかしい。」
「くくく···ほんと、お前はあいつと同じ返しをするんだな···くくっ」
「そうか。」

箸を進める。
俺は自ら、俺自身を祖父と重ねるように振舞う。
まだ覚束無い言葉遣いも次第に祖父と同じようにしようと思う。
何故か、俺は祖父から四月一日を守るように言われたから。でも俺は祖父じゃない、祖父のように四月一日を守れない。だから、俺は、百目鬼静になる。百目鬼静という存在を生かし続ける。

すると、四月一日はまだ少しにやけた表情で煙管に口づけた。

「百目鬼、今日は帰るのか。」

紫煙を吹きながら流し目で俺を捉える。
祖父も、この目でこの口で呼ばれていたのだろうか。

「嗚呼、明日は朝練があるので···」
「ふ、やっぱり口調は少し違うな。」
「···」
「でも、まあ、姿かたちはあいつそのものだな。」

四月一日は俺の頬を撫でると微笑んで、俺の影に写る祖父の姿を見ているようだった。しかし、何の思いもない。ただ、俺はこの人を守るだけだから。

「四月一日、明日はいなり寿司がいい。」
「わかったよ、百目鬼。」



END



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