夢小説 いろいろ | ナノ




○○しないと出られない部屋 〜膝丸の場合〜

「ついに来てしまったのね……」

「あ、ああ……。そのようだな……」

かねてから噂では聞いていた。そのとんでもない部屋の存在を。怖いなーと思いつつも、見る限りではどこの審神者も都市伝説みたいなものだろう、とそこまで深刻に捉えていない雰囲気だったため油断していた。深いため息がこぼれる。

まさか私の本丸にこんな馬鹿げたバグが発生するなんて……。


「お互いの好きなところを10個あげるまで出られない、部屋……か。なるほどねぇ……。膝丸さん、出来そう?」
「なんだか改まってそういったことを伝えるのは恥ずかしい気もするが、仕方あるまい。やるだけだ。……むしろ軽い題で良かったんじゃないか」
「ああ、確かにそうかも」


まあ確かに、噂だと過激なものばかりが目立っていたから、ちょっぴり拍子抜けはした。……ちなみに過激というのは、アダルトな方面で。本当に何から何まで分からない部屋だ。さっきまで普通に執務室で書類を片していた最中だったのに、いきなり出られなくなるなんて。政府もさっさとバグを直すべきだと思うんだけど……。
壁にかけられた、ふざけた指令の掛け軸をぼーっと放心気味に見つめていたら、こほん、と小さな咳払いが聞こえて我に帰る。そうそう、さっさとしないとね。こんな意味不明な空間とは早めにおさらばするに限る。眉間に皺を寄せた怖い顔の膝丸に向き直った。緊張してるのかな。珍しい。美術品のように整った顔は、どんな表情でも息をのむほど美しいけど。


「ではその……、俺からいいか?心して聞いてくれ」
「はい、どうぞ。でも、そんなに肩の力を入れなくて大丈夫よ。適当に言葉を並べてくれれば、それで」
「いや、それでは……俺の納得がいかないんだ。手間をかけさせることにはなるが、この機会だし、その、聞いて欲しい。……駄目か?」
「そういうことならいいんだけど……」


目の前に正座して一生懸命に言葉を選ぶ膝丸さんを見て、つくづく生真面目な人だなと思う。あんまり本気でされても恥ずかしいんだけどな……。まあいいや。好きにさせよう。別に問題ないしね。


「あ、あの、だな。まず一つ目……、俺は、君の……」
「……」
「君、の……」
「……?」
「……、……!!」


沸騰でもしたかのように真っ赤だ。……意地が悪いとは自分でも思うが、正直面白い。ひとたび刀を握ればあんなにも勇猛な姿を見せる膝丸が、今は小娘一人に戯れの甘言を吐くのに手一杯、ですって。大の男のなりをしているっていうのに。……本当に、なんておかしくって可愛らしい。


「あの、膝丸さん?」
「きっ、君の!!どの刀剣にも分け隔てなく優しいところをとても、好ましく思っている!!」
「まぁ……。どうもありがとうございます」
「二つ目!女の身でありながらも素晴らしい采配を振るうその姿、我が主にふさわしいと誇らしく思う!兄者も褒めていたぞ!」
「これからも精進しますね」


覚悟でも決まったのか、堰を切ったように喋りだして少しびっくりした。


「三つ目!君の作る飯は美味い!」
「あら、本当ですか?それは嬉しいですねえ……」


ふっと頬が緩んでしまった。いつもお世話になっている皆のためにと栄養や好みを考え、色々頑張っているから、そう言ってもらえるとやりがいがある。私の顔を見てはっとしたような表情を見せた膝丸が、弱々しく続けた。


「よ、四つ目……は、君のそういう顔だ……。君の笑顔が、俺は好きだ……」
「はあ、そうですか……」
「ああ、そうなのだ……。何故だろうな」


私に聞かれても。


「ええと、五つ目だな。困ったことがあると、いつも親身になって相談に乗ってくれるな。君は聡いから、アドバイスも的確だともっぱら評判だ」
「それは良かったわ」
「六つ目。艶やかな黒髪がとても美しいと思う。かつて俺のいた時代の女人は髪が長く美しいことがステータスであったが……君のは一層素晴らしく見えるな」
「はぁ……なるほど」
「7つ目。小さくて愛らしい。馬鹿にしている訳ではないぞ。本当に好ましいのだ」
「へぇ……」


なんだか飽きてきた。ありがちで退屈なセリフのオンパレードだ。もっとなんかとんでもないこととかないのかな。最初の意気込みはなんだったのか。あそこまで言ったんだから、少しは楽しませてくれないと。


「八つ目。君の……」
「ねえ、もっと面白いのはないの?」
「え!?お、面白いの……とは?」
「個性的なものよ。なんていうか……。せっかくだし、もう少し特別な言葉を聞いてみたいなと思って。出来るでしょう?膝丸さんなら」
「ええとだな……。あるにはあるが、まぁ、あまり本人に言うようなことではないのでな……今回はいいだろう」


不自然に目を逸らした膝丸に、身を乗り出して近づくとギョッとされた。まあるく見開かれて、綺麗な瞳がいつもよりよく見える。


「そういうのを是非聞きたいんだけどな。ほら、早く。教えてくれるんでしょう?」
「う、うぐ……分かったが、笑ってくれるなよ……」
「笑わないってば。ねぇ、早くして」


観念したのか、ぽつりぽつりと膝丸が語り始める。


「君……たまに現世のものだという服を着るだろう。あれの、すかーとだったか?よく似合っていたぞ」
「?そんなこと?」
「いや、それで、その。……脚が」
「脚が」
「白く滑らかで、すべすべとしていそうで、君が生足を晒しているととても……、なぁこれはセクハラというやつではないのか?不安になってきたぞ」
「事情が事情だから、今回は大丈夫よ。続けて」


うん、さっきのよりずっと面白いしね。それにしても、膝丸ってば意外とむっつりなのかしら。やっぱりおかしい。愉快だ。


「……とにかく君の生足は素晴らしいという話だ。ええと……あといくつだったか」
「九つ目。あと二つよ。頑張って」
「……九つ目は、うなじだ。暑いからと髪をかき上げたその一瞬に拝める鮮烈な白がとてもいい。噛みつきたくなるな、あれは」
「あなた、私が真剣に書類整理をするかたわら、涼しい顔してそんなこと考えていたの?怖いわ」
「君が言えと言ったんだろう……!理不尽だぞ!」
「ああそうだった。ごめんなさいね。どうぞ最後の一つを」
「全く……。……いや、しかし」


割とすらすら答えていたくせに、ここに来て考え込むような素振りを見せる膝丸の次の言葉を大人しく待つ。


「君のその少し意地の悪いところ……意外と嫌いではないな」


瞬間、ピピーっと無機質な機械音が響きわたった。まさかこれが十個目として認識さたのだろうか……。というかタイミング的にそうとしか。うわ。
流石にこらえきれず、ぷふっと吹き出してしまった私を不思議そうに見つめる視線がこれまたやっぱりおかしくて、くすくすと笑う。


「膝丸さんってマゾっ気があるのね。意外な一面を知れて良かったかも」
「マゾとはなんだ?」
「あとで教える。さ、私の番ね。聞いてくれます?」
「む……分かった」


思いの外時間が掛かってしまったし、少しばかりショートカットさせてもらうとしよう。膝丸さんには悪いけど。


「強い、凛々しい、常識的、兄想い、頼りになる、真面目。それから、優しい、頭が回る、綺麗、スタイルがいい……。こんな感じかしら?」
「!!……なんと……!!」


ばぁっと目を輝かせた膝丸さんが、感極まったのか唐突に頭を下げてきた。ご丁寧に三つ指までついて。変に律儀な人だなぁという感想を抱く。ここまでくるとちょっと面倒くさい。


「あ、ありがとう……主……。今の言葉、しかとこの胸に刻みつけておく。その、とても嬉しいぞ……。」
「そうかしら。喜んでくれたのなら何よりだわ。……、……?」


あれ?

また赤くなってもじもじと体を揺らす膝丸さんを横目に、違和感に気付いた。……さっきの音が鳴らない。襖も開かない。……嫌な予感がする。

もしかして。


「ちょっと待って。続きがあるの」
「えっ?」


ぐ、と一瞬言葉に詰まり、沈黙が生まれる。
うわあ、これ言うの恥ずかしいなぁ……。でも、どうしようもないみたいだし、ここは腹をくくるしか。きょとんと惚けた顔を晒した間抜けな膝丸さんから今度は私が目を逸らして、言った。


「爬虫類のようなツリ目、きりっとした眉、綺麗な横顔、顎のライン、すらっと通った鼻筋、薄い唇、意外と筋肉質な体、薄く引き締まったお尻、骨ばった手。あと、抜群のスタイル。……さ、これでいいかしら。全く」


ピピーっと。今度こそお待ちかねのその音が鳴り響き、ほっとした。それから、心底呆れた。嫌な仕掛けだ。私の性格に負けず、趣味が悪い。


「主……、二十個も上げてくれる、とは……!!感動したぞ俺は!お返しにこちらからもあと十数個ほど述べさせて貰おう!」
「いえ、大丈夫。それより早く出ましょう」
「あ、でも俺は」
「夕食に間に合わなくなってしまいますよ?」
「あ、ああ……そうだな……」


すんなりと開いた襖を一瞥してから、大広間へ歩き出す。
しょんぼりとうなだれた膝丸が後ろをぴたりとついてくる。

……さっきのは、おそらく本心でないとカウントされない仕組みで出来ていた。適当な褒め言葉を羅列したところで扉は開かない。おそろしいものだ。おかげで恥ずかしい思いをさせられる羽目になるし……。

ちなみに二度目にあげたのは大体膝丸さんの外見のことである。
確かに膝丸さんの外見はとても美しいと思うし、正直好みドストライクなのだ。あくまで外見は。
……刀剣男士は皆美しい男性だ。対して私は女。男所帯の中に女がひとり。気を抜けばどうなるかは分かりきったこと。……こういう時、この性別を邪魔だと思う。まぁ今更どうしようもないけれど。
とにかく、私は真面目に審神者としての責務を果たすことを目標としているから、そういう爛れたこととは出来るだけ無縁でいたいという気持ちがある。
膝丸からの駄々洩れの好意は、審神者という身で働く私には重い。困る。男士とは明確な一線を引ける審神者として皆の前に立っていたい。
……と、色々理由を並べ、静かなる決意を固めた所で、いかんせん膝丸は顔が好みすぎる……。
ちょっとぐらい冷たすぎる対応でも心がけておかないと、私だってやってられないのだ。何の罪もない彼には悪いのだけれど。

「……」
「あ、主」
「……何かしら?」
「先程の……俺は本当に嬉しかったんだ。主はその……少し素っ気ない所があるというか、俺のことを少し苦手なのではないかと思っていたから、そうではないのだと……。俺のことも好意的に見てくれているのだと分かってとても……安心した」
「……」
「……あっ、失礼な事を言ってすまない!!主が俺を嫌っているのではとか疑っていた訳ではないぞ!?そこは勘違いしないでくれ……」
「私こそ、ごめんなさいね」
「???」



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