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キスしないと出られない部屋 〜露伴の場合〜




「なんだ?ここはッ……。なぜぼくたちはこんな所にいるんだ!?」
「えっ、どういう事……?わ、私っ、先生の家にいたのに……!!」

眼が覚めると「白いソファー」に伏せていた。私が寝ていたはずの……革製のものよりずっと安っぽいソファーだ。何故か隣で同じようにソファーに伏せていた露伴先生も、私と同じように飛び起きて、目をパチパチさせて狼狽している。

もともと私たちは露伴邸にいたのだ。いつもの如く露伴先生の家にお呼ばれして、ちょっと話して……。しばらくして先生が原稿作業を始めたので、暇になった私は近くにあった革のソファーでうたたねをするつもりが、どうも本格的に眠りこけてしまっていた……はずなのだが。

「一体何が起きている……?それにしても悪趣味な部屋だな、まるで美意識が感じられないぞッ……。いるだけで気が滅入ってくるな」
「本当に、なんていうか……変な部屋、ですね……。ここは何をするための場所なんでしょう……?何も無いですけど」

私と彼は違和感しかないこの部屋を見渡した。無駄にだだっ広いだけの部屋――全てが白に塗りつぶされた部屋を。
まるで病院じゃないかと錯覚させられる程の無機質な白。家具は、このソファーがぽつんと残されているのみだ。見る限りお手洗いらしきものもなく、窓もなく……そしてあろう事か扉すらもない。生活感のかけらすら感じさせない造り。床も壁も、天井も。目に入るもの全てが均一に、ただ不自然に白いせいで、不気味な雰囲気を醸し出している。この部屋で、お互いの服装だけがカラフルだった。

一体何が起こったのだろう?移動したにしたって、先生の家にこんな趣味の悪い部屋なんか無かったはずだ。
あまりにも異常なシチュエーションに不安になった私は、先生の袖を引き寄せて訴える。

「ろ、露伴先生?こんな心臓に悪いドッキリはやめて下さいよ。寝てる間にどこに連れて来たんですか……」
「おい待て、何早とちりしてるんだよ……。言っておくがぼくじゃあないぞ?ぼくがこんなくだらない事すると思うのか?勘弁してくれよな」
「……でも、だって。先生のイタズラじゃないんだとしたら、一体何が起こってるっていうんですか?」
「ハァ……ぼくだって聞きたいね!」

拗ねるように吐き捨てた露伴先生の様子を見て、嘘じゃない事を確信した。一応、この現象に先生は関与していないらしい。
そうだとしても、先生と一緒にいると結構な頻度で変なトラブルに巻き込まれている。今回の件だって、先生の強すぎる好奇心が原因で引き起こった事なんじゃないかと勘ぐってしまう。今度は一体どんな「危険な事」に首を突っ込んだんだろう。漫画家という職業柄、その探究心のために、どんな事件にも危険を厭わず突っ込んでいくのも大事なのは分かる。
けれど私も巻き込まれるとなれば話は別なのだ……!露伴先生程のタフさなんて生憎私は持ち合わせていない。斬新な閃きでピンチを切り抜けられるような頭だってない。呆れるほどに、無力だった。ピンチに対抗する術を持たない私にとって全てが恐怖だ。

二人してソファーに乗ったまま、とりあえず身を起こした。

「せ、先生……。怖い……」
「怖くはないだろ。現状、まだ危害を加えられた訳じゃあない……。まずは状況を知るためにこの部屋を隅々まで見て回ッ……!?」
「えっ、どうしたんですか?」
「あ、あのなァ〜……。どうもこうもないだろ……」

私が先生の腕にしがみつくようにして傍に寄り添うと、先生が大袈裟に肩を揺らす。おかげで私まで驚いてしまった。一体なんだと言うのか。目を丸くして先生の顔をぽかんと見ていると、突然デコピンを喰らわされてのけぞる。
男の人なんだから、こういう時頼りにさせて欲しいのにあんまりだ。先生には優しさ成分が深刻に足りていないように思う。

「い、痛ぁ〜……!何するんですか、あんまりですよ……!」
「オイ、近いぞ……!」
「そ、それは……ごめんなさい。でもこうしていないと怖くて。こういう時くらい許して下さいよ、先生〜……!」
「……フン。この岸辺露伴がついているんだぞ。怖い事なんかあるかよ」

そう言った先生は、おずおずとではあったが……自分から私の肩を引き寄せるようにしてくれた。あの先生が、私を守るような行動をとったのだ。一体どういう風の吹き回しだろう。
先程以上に面食らってしまい、私の口からは思わず本音が漏れでてしまった。

「先生って自分のことばかりで割と不安なのですが……、って嘘ですごめんなさいごめんなさい!!力づくで引き剥がそうとしないで!」
「きみなぁ〜〜〜ッ!!人がせっかく気遣ってやってるのに随分な言い草じゃあないのかァ〜〜〜!?例え脱出方法が分かってもきみだけここに置き去りにしてやるからな!」

それは小さな小さな、独り言のようなものだったが……お互いの距離が近過ぎたため、当然本人にもバッチリ聞かれてしまったのであった。自分が迂闊だったし、物凄く失礼なセリフだったから先生が怒るのも当たり前としか言いようがない。でも、逆に言えばそんな事も考えられない程、私はビックリしていたのだ。

私の体を容赦なく押しのける先生と、とにかく必死で先生に縋り付く私。アホみたいな攻防をしている内に、良いのか悪いのか、最初ほどの緊張感はなくなってきていた。

「すみませんってば!口が過ぎました!心から反省しています!あぁ〜ッ、先生は誰よりも頼り甲斐があって素敵だなぁぁ〜〜〜!!カッコいい!!」
「フン……まったく!口は災いの元っていうんだぜ、ガムテープでも貼って過ごしたらどうだ?」
「そうしたら露伴先生の買ってくるケーキ、もう食べられなくなっちゃうじゃないですか!嫌です!!お宅にお邪魔する時、あれが毎回楽しみなんですからね……!」
「……調子の良い事を言ったって許さないからな」

と言いつつ、最終的には私がくっ付いているのを許してくれた。おしくらまんじゅうのように押しつ押されつしていたせいで、お互いの体温が上がって温い。
それにしても、体は温くとも、先生といると常にヒヤヒヤして仕方がないよ……。刺激が欲しい人にはいいんだろうけど、私はどちらかというとドキドキするのは苦手なタイプなんだ。

「あれっ、ていうか露伴先生もソファーで寝てたんですか?私が起きてた時は原稿してましたよねぇ……」
「ああ。でもあまりになまえが気持ち良さそーにグースカ寝てたからさぁ、つい仮眠を取りたくなってぼくも寝たんだよ。なまえの隣をちょっと借りてな。だからぼくたちがどうやってここに移動したのかも全く分からない……ってことだ」
「そんな……。お手上げじゃないですか!どっ、どうすれば……!?こんなお手洗いもないような所に長居したくないですって……!」
「おいおいおいおい、落ち着けよなァ〜〜〜!こういう時こそ『冷静に』だよ、なまえ。冷静さを欠かなければ何か手がかりが見えてくるはずなんだ。どんな状況だってな」

先生の凛とした声にハッとさせられて、私は少し正気を取り戻した。恐れもなく、戸惑いもなく、純粋な真っ直ぐさを乗せたよく通る声。こんな状況に置かれていても、目の前の彼は『岸辺露伴』だった。職業は漫画家、誰よりも好奇心が旺盛で、リアリティのためならどんな事でも厭わない、岸辺露伴という人物であった。

「ろ、露伴先生は不安じゃないんですか?誰がやったかも、これからどうなるのかも分からないんですよ?それって普通は凄く怖いじゃないですか……?」
「怖いィ〜〜〜?違うね!なまえ、これはな……願ってもないチャンスなんだよ!『奇妙な出来事』の方からぼくを迎えに来るなんてッ!!」
「えっ……。えええ〜……?」

ピンチをチャンスとまで言えてしまう、どこまでも強靭な先生のメンタル。私だっていつまでもオドオドしていないで見習うべきなのかもしれないけれど、一生かかったって先生のようにはなれないなと思う。
露伴先生はぶっ飛び過ぎている。少しだけついていけない点であり、しかし尊敬すべき点でもあった。

「一見ソファー以外何も無い部屋に見えるが……本当にそうなのか?まずは手当たり次第観察する。そこから脱出の糸口だって掴めるかもしれん!」
「先生がノリノリすぎてついて行けません……!!」

「いつまでも座ってたって何も進展しない。ちょっと待っていろよ」と言い置いて、先生は私を残してソファーを立つ。
異常事態+岸辺露伴という、どうしても不安が拭えないコラボレーション。未だ半泣きの私の肩を落ち着かせるようにひと撫ですると、先生は部屋中を隅々まで観察し始めた。
私はというと、どうしたらいいか分からなかった。ソファーの上で縮こまったまま、露伴先生の様子をただ見守るだけだ。
先生って何だかんだでピンチを切り抜けるのが上手いし、私に出来ることなんてないかもしれない。申し訳ない気もするが、それが本音だ。

「……ま、なまえはそこのソファーで待っていろよ。ぼくが何とかしてやるからさ。実は今日の夕方までに担当に送らないといけないメールがあるんだ。ぼくとしてもさっさとここから戻れないと困るんだよな」
「……そうなんですか」

先生がしゃがみこんだまま動かない。

「どうしたんですか?……先生?先生ってば!大丈夫ですか……!?」
「……ある意味大丈夫じゃあないな、これは」
「え、まさかスタンド攻撃ですか!?」

不用意に近づいてはいけないかもしれないが、突然動かなくなった先生が心配すぎて思考も回らず、慌ててソファーから飛び降りる。先生に駆け寄り、肩を掴んで揺さぶった。

「ねぇっ、先生ってば!聞いてるんですか!?返事して下さいよ!」
「……これを見てくれ」
「な、何……?紙切れ、ですか……?これがどうしたの?」
「そこの床の隙間に挟まっていたのを見つけた。とにかくそれを見ろ。ぼくからは以上だ」
「……」

そう言ったきりそっぽを向いてしまう露伴先生に訝しさを感じたが、兎にも角にも読まないと話が進まないというのなら―――覚悟を決めるしかないのだろう。私だってこんな訳の分からない部屋、さっさとおさらばしたい。そのために必要ならば、私だって。
ごくりと唾を飲み込み、意を決して四つ折りの小さな紙片を丁寧に開いていく。先生が私に渡した物だから危険ではないとおもうが、それでも先生の様子があまりにおかしいため私も緊張する。これを開いたら何が起こるんだろう?
震えそうになる指で、はらりと紙を開ききり―――。

「何なの、これ……」

痛い事、怖い事、危険な事など起こらなかった。その点に関して言えば、あまりにもシンプルで拍子抜けしたくらいだ。
ただ、私は『文字』を目にした。それだけだ。
しかしその文字が何よりの問題だった訳だが……。

「『ペアの方と……きっ、……。き、す……する事によって、元いた世界への扉は開かれます』って、先生……。これは、その。私と露伴先生がキスをしないといけないのという事でしょうか……?」
「……」
「先生?」

未だ明後日の方を見ている露伴先生の意識をこちらへ呼び戻そうと、その腕に触れた瞬間だった。
私を避けるように、凄まじい勢いで腕を引っ込められ、面食らって固まっているとすかさず憎まれ口が降ってくる。

「知らないよ!ぼくに聞くなよなァ!!」
「いっ……、いきなり怒らないで下さいよ!びっくりするじゃないですか、酷いなぁもう!」
「ぼくが怒ってるように見えるってのか?言っておくがこんな下らない事で取り乱す岸辺露伴じゃあないぞ……!!こんな……キスなんてなァ……別に大した事じゃないからな!」
「そ、そうですか……!?」

そう吐き捨てる露伴先生の顔は真っ赤だ。物凄く険しい表情をしていてとても怖い。怒りからか羞恥心からかは判断出来ないが、どちらにしろ取り乱している事は明白としか言えなかった。
そういう私はというと、先生の様子にビビっていた。キスしろという謎の指令よりも、むしろ先生の反応の方がずっと怖い。
『キス』―――唇同士をくっ付ける行為。通常、恋人同士が親愛の気持ちを確かめる為に行う大切なこと……。それをいきなり友人とやれと言われても、私だって抵抗はある。しかし先生は想像以上に過剰反応した。これはまさか、そういうのとなのではないだろうか。と、失礼な予想が頭を過ぎったの仕方ない。





露伴先生とまさかキスなんて……とうだうだドキドキモタつく(メイン見せ場)

→あ、キスって唇じゃなくてもいーじゃんという事に気づき、解決 →露伴先生の手にキス



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