夢小説 いろいろ | ナノ




気ままなものどうし


※ヒロインが猫



「にゃぁあん、……うにゃー」
「また来たのか、仕方のない子だな。通われても困るんだがね」
「うなん」
「うなんじゃない。はぁ……」


口では突き放しながらも、吉良は子猫の小さな頭をぐりぐりと撫で回していました。

広いお庭、大きなお家。ここに住む人間、吉良吉影は野良猫のなまえを追い回したりしません。それどころかたまに餌をくれるし、気まぐれに撫でてくれることだってあります。かといってしつこく構ってくることもなく、吉良は常に適切な距離感が保たれていました。ここの敷地内は静かで、安全で、この上なく絶好の昼寝スポットというわけです。

今日も今日とて、しばらく日当たりの良い縁側でまどろもうと、なまえは吉良邸を訪れていたのですが……。


「おい、君……なんだ、その体は!」
「……」
「そういや昨日、雨だったな……!ああ、まったく。その汚れた体で縁側にのっかるんじゃあないぞ、いいな?」


言うなり、吉良は大きめのタオルを持ってきて、ブルブル震えるなまえの体をくるみ、その胸に抱き上げました。
なまえは突然の吉良の行動の意味がよく分からなかったけれど、まあこの人間のことだし、危害は加えないだろうと思い、じっと大人しく吉良の顔を見つめています。
何より体が寒かったし、なんだか疲れていて、これ以上動きたくなかったのです。昨夜散々濡れて体温が奪われた体は、もうへとへとでした。


「暴れないのか。へえ、なかなか賢いじゃないか。いい子は嫌いじゃないよ。そのままだぞ……」


機嫌良さそうな吉良に抱かれ、なまえは廊下の奥まで運ばれていきます。扉を開けて見えた景色に、やっとなまえもこれから何が起こるのか遅れて理解しました。湿った空気に、もくもくと上がる湯気。ここはお風呂場です。他の猫たちは水を嫌う傾向にあるが、しかしなまえにとっては別段どうということはなかったから、問題はありません。
ただ目をぱっちり見開いたまま、じっと動かないなまえを横目に、吉良はワイシャツのボタンを外していきます。
全て脱いで全裸になると、腰にタオルを巻いてから、なまえを再び抱き上げました。


「汚れていていい事は何もないからね……ビョーキにでもなったら大変だろう?わたしがお前を洗ってやる」
「にゃぁ〜……」
「それにしても……本当に小汚いね。体のそこかしこに泥がついているじゃあないか……よく流さなくては……」
「みっ……」



******



「ほうら、気持ち良かっただろう?身体を綺麗に保つのは健康な生活への第一歩だからね。野良といえどこれからは気を付けなさい」
「みゃー、みゃ」
「元気になったな。フフフ、毛並みもこんなにフワフワに復活したぞ。いい匂いもする」
「みゃん!」


温かいお湯に、優しく体を洗ってくれる、吉良の大きな手。なまえはすっかり体力を取り戻し、なんだかとっても嬉しそうです。
見違えるように綺麗になったなまえを見て、吉良も達成感を感じて満足そうにしていました。


******


なまえはいつもいつも吉良にとってもお世話になっています。この前は体を洗ってもらえたおかげで、体調を崩す事もなく生活できています。
野良猫といえど、やはり恩は感じるもの。人間の吉良の喜ぶ事とはなんだろう?と小さな頭を悩ませていましたが、猫のなまえには分からずじまい。
困ったなまえは、とびっきりのごちそうをプレゼントする事にしました。


「……生憎だが、わたしはドブ鼠なんか食べないよ」
「にゃーっ」
「困ったな……鼠の死骸は……その辺に埋めておくか。はぁ。しかし休日だっていうのにこんな事をする羽目になるとは」


吉良邸のお庭の、よくなまえが訪れるお決まりの場所。そこへなまえがぼとりと置いたのはごちそうです。大きな獲物が獲れたので、なまえはとても誇らしい気分でいっぱいでした。
しかし人間の吉良さんはというと、なまえのプレゼントに困った顔をするばかり。それもそのはず、人間にとっては「動物の死骸」という厄介なものでしかありません。まさかそのままにしておく訳にもいかないし、埋める手間がかかります。


「プレゼントならば、とびきり綺麗な女性の手でも拾ってきてくれるとわたしは嬉しいんだがね。そんなものそうそう落ちてはいないが……」
「にゃん!にゃ!!」
「ああもう、よしよし、凄いじゃあないか、大きい獲物が獲れたね……。しかしわたしの所へは持って来ないでくれ」
「にゃ…」
「フゥ。まったく困ったものだ」


-fin-


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