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ばぶばぶ一松くん



「あぶぅっ!んぶ、あぅう〜!」
「はいは〜いよちよち、一松くんはいい子さんでちゅね〜」
「ん、うぅ〜!あい!」
「そうそう、静かに出来てとっても偉いね、お利口だなぁ〜。すっごーい」
「ぁう!」


いつものよれた紫の松パーカーに、いつもはないピンクのおしゃぶりと小さなフリフリのよだれかけ。私の腕の中でコロコロと百面相する訳のわからない男を、正直あの一松だとは……認めたくなかった。
ただのジュースかと思ったのだ。しかし実際、デカパン博士のロゴが入っているそれの中身は、どう考えても怪しい薬だったのだろう。
「喉乾いた」とか言ってろくに確認もせず松野家のテーブルの上にぽつん、とあったコップの中身を一気に飲み干した目の前のアホに悪態のひとつもつきたい気分だった。もう遅いけどね。

出そうになるため息ををぐっと飲み込み、私は一松をあやす。ちなみに、精神的な面だけが退化していて、身長とかは大きなそのまま。
嫌な絵面だなぁ……。なんだろうこれ……。


「おっぱい……おっぱいぃ!!」
「はぁ……??」


この野郎。
限度というものを分かっていないらしい。調子に乗り過ぎである。ていうかちょっと引いたよ。

大の男が情け無くおっぱいおっぱいなどと喚き散らすところなど出来ればあまり見たくはないんだけど、一体いつ元に戻るんだろう……。ていうか戻った時記憶あるのかなこれ!?
あったらあったで強烈にして途方もない死にたさに襲われそうだが、知ったことか。後悔の波に押し潰されてしまばいいんだ、こんな一松なんて。自業自得だもの。


「ばぶぅっ!」
「わっ!?何!?」


現実逃避に一生懸命で上の空だったが、構って貰えないことに不満を感じたのか、突然腕の中の一松が暴れだした。


「まんまぁ!」
「あーっ、もう……!私は一松のママじゃな……んぐぅっ!?」


ムギュッと胸を鷲掴まれ、思わず肩が跳ねる。今の状態のこいつは叱れないがセクハラはセクハラだ。後で覚えてろよ。


「痛、ぁっ、う……。は、放してね、ほら……。いい子、だからァッ!!離せぇっ…!!」
「ぁう〜、フヒッ、ヒヒ」
「あ、ちょっと、…うぐッ!だから痛い……ってば!!!やめてって言ってるのよこの大馬鹿!」


ぐにぐにもにゅもにゅと激しく胸を揉みしだかれ、必死に腕を掴むが奴は止まらない。本能からなのか、触り方が明らかにスケベ心に満ちている。こんな赤ん坊嫌だ、嫌すぎる、無理!
よく見ればジャージの股間もなんかデカいテントが張っているし、もう何もかもが最悪だ。見たくない。誰だよ変なジュース放置してったの。ふざけるな。私はだいぶ泣きたい気分だよ。

それにしてもあの兄弟たちはどこへ行ったんだろう。
ひたすらこのデカいうえに手に負えない最悪の赤ん坊をあやしていても、他の兄弟が帰ってくる気配は全くない。なんでこういう時に限っていないの……!?おかげで帰るに帰れない。まさかこんな状態の一松放置してったら危ないだろうし。理性のない一松なんていつも以上に危険人物だった。変なもの口に入れて窒息するかもしれないし、そこらでトイレをしようとするかもしれないし…って、これはいつもか…。

ていうか、今日行くねって、皆に言ってあったはずなのに、なんであいつらはいないんだろう。いつもは7人全員で遊んだりしてるのに、どうして……。

あれ……?


「ねぇ……一松く〜ん?皆はどこに行ってるのか知ってるかな?教えてよ」
「う〜……?」


首をぶんぶんと横に振る。


「そっか、分からないかぁ。一松くん赤ちゃんだもんねぇ。仕方ないね」
「あぅ、ぁい!!」


あやされてキャッキャと無邪気にはしゃいでいる姿は、普段の鬱々とした態度からはとても想像がつかない。……あの怪しい薬は本物なのだろう。それなら。

恥ずかしいが、今回だけだ。これ以上お守りをするよかずっとマシ。腹はくくった。
ニコニコ顔の幼児一松の耳元に口を近づけ、できる限りの甘ったるい声音を作る。さあ食らえ、悪戯をした罰だ。


「でも、本当〜に何も知らないのかな?もし何か教えてくれるならさ、」
「ぅ?」
「さっきは嫌って言ったけど、やっぱり気が変わったかなー。胸でも何でも……、そう、別にどこだって触るの許してあげちゃおっかなぁー」
「!!!!」
「なんなら服だって脱いじゃおうかなー!!あーあ!隅から隅まで一松の好きなようにされちゃっても本当にいいのかなー!!?」
「「「「「それはダメーーーーー!!!!!」」」」」
「うわっ、出た」
「ばぶっ!?」


瞬間、布団がしまってあるはずの襖からカラフルな塊が5つ、怒涛の勢いで転がり出てきた。そこかよ。びっくりした。
その辺にあった雑誌の中から、分厚くて角が痛そうなものを片手にゆらりと近づく。


「皆、おかえりなさい。そして死になさい」
「待て待て待てなまえ!ちょっとした冗談?可愛い悪戯、ってやつじゃ〜ん。そんな怒るなよ〜」
「おそ松……あなたが主謀なの?」
「!!ち、違うって。いや皆がね?その場のノリもあって、なまえを驚かそう〜って話になって、だから」
「知らないわよ!!」
「ぁだッ!!」


躊躇いなく振り下ろした角はおそ松の脳天にヒットした。反応から見てこいつが企んだのがわかった。他の子申し訳なさそうにしてるし。
だったら途中で出てきて助けてほしかったんだけど……?


「ねぇ、皆……」


私が残りの4人に視線をやると、咄嗟に前に躍り出たカラ松が綺麗な土下座をきめた。


「すっ、すまないなまえ!だが兄さんも悪気があった訳じゃないんだ!いや、正確には悪気30パーセント、おせっかい70パーセントくらいの気持ちだったかもしれないが……とにかくだ!話を聞いてくれ、ハニー」
「ハニーじゃないし!いつ私があなたのハニーなんかに、」
「俺たちのブラザー、一松のためだったんだ!」
「は?」

何を言ってるんだろうか。どう考えても一松に精神的ダメージを負わせてるだろう。

「い、一松はお前に甘えたかったんだよ!!その薬は飲んだものの願いを叶える薬なんだ!!こいつが満足して大人に戻るまで、でろでろに甘やかして世話してやってくれないかっ!!!頼む!!」
「……はぁああ???」


こうして私は、この幼児退行男が元に戻るまで世話をする事になったのだった。



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