夢小説 ジョジョの奇妙な冒険 | ナノ




「妊娠しました」



縁側に座る吉良さんは持っていた爪切りを置いて、立っているなまえを見つめます。
憂いを帯びた瞳を少し伏せ、白いワンピースのお腹を撫でるなまえ。吉良さんにはそれがひどく神聖な光景に思えて、ごくりと唾を呑みました。


「実はその、私……お腹に子どもが……。吉影さんの子ですよ」
「……」
「よ、吉影さん?」
「何ヶ月なんだい」
「……あ、えっと、それは」


なまえは言葉に詰まってしまいます。そこまで詳細な設定など考えていませんでした。困ったなまえは、とりあえず苦し紛れに適当な答えを言ってみる事にしました。


「に、二ヶ月です」
「……フゥー」


目を瞑って前髪をかき上げた吉良さんは、放心したかのようにしばらくそのまま上を向いてしまいました。


(えーっと……。あ、あれ……?)


当然なまえは焦ります。嘘のあまりの下らなさに呆れ果てさせてしまったのか、それとも怒っているのか……。いずれにせよこんな嘘はつくべきではなかったかもしれません。
さすがに謝ろうとしたその時、突然吉良さんが立ち上がったのでなまえは思わず後ずさりをしてしまいます。そんななまえの元へと、吉良さんは早足でズンズンと近づいて来ました。迷いのないスピードで迫り来る吉良さんの謎の気迫に気圧されて、なまえはその場で硬直します。
―――壁際まで追い詰められてしまいました。これ以上後退できません。退路も進路も絶たれたなまえはおろおろするばかり。
なまえの前で立ち止まった吉良さんは、ガシッと華奢な肩を鷲掴みます。


「ひっ!?」
「……」


ただならぬ気配にビビり上がっているなまえはぱくぱくと口を開閉するばかりで言葉が出て来ません。対面すると身長差のせいで自然と彼に見下ろされる形になるなまえは、こうしているだけで威圧感を感じてしまいます。難儀なものです。
そんな半分魂が抜けている状態の彼女の体に、吉良さんが一体何をするのかと思えば―――ただただ、堅く抱きしめてきたのでした。


「あっ……!?」
「……」


その男らしい腕の中にしっかりと囲い込み、二度と離さないとでも主張するかのように。
まるで密着し合った部分からお互いの体温が混ぜ合わされていくような不思議な感覚に、なまえの脳内はとうとうオーバーヒートを起こしてしまいました。
吉良さんの体は男らしく、意外とガッシリした筋肉がついているのでこうしているとドキドキしてしまうのです。なんだかいい匂いもするし、端正な顔が近くにあるしで、胸が破裂してしまいそう。
何が何だか分かりません。
ただ壊れた機械のように、固まって真正面を見つめるだけの人形と化してしまいます。


「なまえ」
「ひゃいっ!?」


耳元で名前を囁かれ、素っ頓狂な声を上げてしまったなまえ。
白い頬は薔薇の花のようにふわっと紅潮し、瞳は少し涙ぐんでうるうるとしています。完全に恋する少女のような状態になってしまったなまえの髪を優しくひと撫でした吉良さんは、静かに言いました。


「―――こうして一緒に暮らしていく中で、わたしはいつしか思い描くようになっていたんだ。きみと家族になれる日を……」
「……!!」
「順番が逆になってしまったが、なまえ。……結婚しよう」
「はい……


許容量を超えたドキドキで完全に頭がトリップしてしまっているなまえは、超絶恋する乙女モード。自分が変な嘘を言った事が発端なのも忘れ、ついそう返事をしてしまったのでした。
吉良さんは抱きしめていたなまえの体をゆっくりと解放してあげると、ニヤリと意地悪な顔で告げます。


「……なんてね。騙されたフリをしてあげたのがわたしからの『ウソ』さ」
「あ……」


吉良さんがそう告げた瞬間、なまえは思ってしまいました。
今のが嘘だなんて、寂しいと。
先に仕掛けたのはなまえの方だからそんな事を言う資格はないのですが、それでも胸がざわめいて止みません。
ぼんやりしたまま言い返す言葉もなく、ただ立ち尽くす事しか出来なくて。


「それにしてもまさか『孕んだ』なんて、なまえも凄い嘘を言ったものだね。避妊はちゃんとしているとはいえ、やはりなんというか……少し驚いたよ」
「ご、ごめんなさい、でした……」


なまえの日本語が微妙に崩壊しています。正常に戻るまでまだしばらくかかりそうです。


「ン……。まあ、その嘘も……いずれ本当になるかもしれないがね。むしろ今晩あたり本当にしてしまっても、わたしは全く構わないんだが?」
「え?」


幻聴かな……と未だ呆けているなまえが、今の吉良さんの言葉の意味をしっかりと理解するまであと数十秒かかることでしょう。

嘘から出た誠―――に、まさかなってしまうのでしょうか?
ここから先は、きっとなまえの返事次第です。



- 幸せにしてくださいEND -



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