夢小説 ジョジョの奇妙な冒険 | ナノ




じゃれうふたり




「わたしの声が好き?」
「はい。吉影さん、いいお声をしていますよね。何て言うのかなぁ〜、耳に心地いいんですよ!大好きなんです!」
「ふむ……」


吉影さんの自室で、吉影さんの声について本人に熱弁していた。
吉影さんは少し考え込んでから読んでいた本を机に置くと、ちょいちょいと手招きしてきた。
なんだろう?
畳に座布団を敷いてゴロゴロしていた私はピョコっと体を起こし、呼ばれるまま素直に行動する。我ながらまるで躾の行き届いた従順なるペットのような反応だ。
椅子に腰掛けた吉影さんに警戒心もなくヒョコヒョコと近づくと肩を抱かれ、いきなり顔を近づけられて驚く。
相変わらず自分のペースで行動する人だ。せっかちというか、いきなりすぎやしないだろうか?


「わっ。何するんです、いきなり」
「『君を始末させてもらう』」
「!?だ、だめっ……殺しちゃ嫌です……」
「フフッ……殺さないよ?怖がっちゃって可愛いねェ?」
「……」


そーですか。人をからかって随分と楽しそうですね。

猫にするみたいに顎をヨシヨシと撫でられても、私は膨れっ面をしていた。その様子に気付いているのかいないのか、吉影さんはさらなる苛めを仕掛けてくる。
耳にふぅっ……と息を吹きかけては、私が身を捩っているのを見てくつくつと笑いを漏らして楽しんでいた。
何やってるんだ、この人は。


「……吉影さん、意地悪ですね。そういう事して喜ぶなんて……」
「ン?意地悪だって?わたしは良い声とやらをなまえにたっぷり聴かせてあげようと思ってやってるのにかい?そんな事言っちゃあ……」
「ひゃっ!?」


右耳をきゅっと引っ張られ、吉影さんの顔がさらなる至近距離へ近づいた。
少し痛かったので軽く窘めようと思い、反論するため口を開こうとするも、それは叶わなかった。先に威力抜群の先手を打たれてしまったのである。


「だめだよ……」
「んんっ……」
「『だめだめだめだめだめだめだめぇ……』」
「あ、あぁぁ……」


とろけるような低音が鼓膜をネットリ嬲るのを、体を震わせながら受け止める。
別段特別なセリフじゃあなく、性的なワードを含んでいるわけでもないのに、吐息まじりの言葉だったせいかそれはもう破格のエロスを纏っていた。
へにゃりと体が弛緩し、思わず吉影さんにもたれかかってしまったのが恥ずかしい。しかも優しく受け止められて、何も言い返せないどころか凄くドキドキしてしまっているんだ。情けのないこの体たらく……。悔しい……。


「ああそうだ。特別にわたしが始末するやつに聞かせているセリフも言ってあげようね。これを聞いて生きていられるヤツはいないからな、レアだよ」
「もういいですよぉ……」
「まぁそう言うんじゃあない。きみが言い出した事なんだから」


力の抜けた私の頭を撫でながら、吉影さんは唇をぴとりと耳元に当ててきた。唇が動くと、私の耳にその感触が伝わってきてくすぐったい事この上ない。
そんな状況で、ゼロ距離で私の聴覚にダイレクトに声を響かせてきたのである。


「『わたしの名は吉良吉影、年齢33歳』……」
「ふ、ぁぁあ」


聞く耳持たない!!しかも何か始まった!!


「『自宅は杜王町北東部にあり、結婚は』……うーん、結婚してもいいと思える娘がいる……。フフ」
「やぁ……よしかげさぁん……何言ってるんです……!」


恥ずかしい謎のアドリブを加えながら、吉影さんは耳に唇をくっつけたまま囁き続ける。


「『仕事はカメユーチェーン店の会社員で、毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。タバコは吸わない、酒はたしなむ程度……』」
「く、ふぅ……」
「『目撃者は生かしておけないよ』……」
「ご、ごめんなさっ……、許して……許してくださいぃ……!こんなっ……もうだめです……!」


何一つ性的なことはされていないのに、全身がドキドキで満たされ、私の呼吸は明らかに上がっていた。
吉影さんにこうして抱きとめられていなければ、床にぺたりと座り込んでしまっていた事だろう。


「んんぅ……、はっ……はぁっ……」
「瞳がとろけているよ?顔も赤いね、なまえは敏感なんだなァ……。そんな様子を見せられたら……わたしだって……」


熱く甘ったるい吐息が耳をかすめ、次は何を言われるのかと体がビクッと強張った。
そんな様子を見て、吉影さんは満足そうに目を細め、唇を歪めて、続けざまに特大級の爆弾を落としていく。
次いで耳元で生実演されたのは、あの伝説級のインパクトのあるセリフだったのだ。


「『勃……、起……、しちゃいましてね』」
「ひぃぃ……っ!」
「フフフフフフ……」
「あぅぅ……、はぁっ……」


よ、吉影さんに苛められてるー!!助けて!!
セリフだけだから本当に勃っているワケじゃないんだけど、とにかく心臓に悪い!

吐息まじりの言葉は私の脳髄にじわりと染み込んでいく。頭の中を容赦なく犯していく、良いお声が今は実に憎い。
吉影さんの肉声一つでバカみたいに翻弄されている私を見て、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている目の前の悪い人。
私とは違い、息一つ乱していない余裕の表情に悔しくなる。
力を振り絞り、両手で突っぱねて距離をとった。
うるさいドキドキを誤魔化すように彼から目を逸らして、突き放すように言う。


「こんなの……やめて下さいったら……。顔が近いんですよ。くすぐったくて堪りません」
「嬉しそうにしている癖によく言うね」
「そ、そんなわけ」
「きみは分かり易すぎるんだよなァ。頬が赤いよ」
「うう〜……!!」


色々と図星すぎて気力を失い、無抵抗と化した私。
吉影さんはそんな力の抜けた体を引っ張り上げると、ちょこんと己の膝の上に乗せた。

私、ますますペット扱いだよ……。


「いい子だね、なまえ。素直な子はカワイイよ……よしよし」
「……嬉しいでーす、ありがとうございまーす……」
「投げやりだね。もっと誠意を込めてくれないと困るよ」
「はぁ。何ですかいきなり」
「ホラ、いいからちゃんと言うんだ。出来るだろ?」
「うう……。よ、吉影さんに構ってもらえて嬉しいです……。撫でても貰えて気持ちいい……。だけど、ペットみたいに扱われるのには少々疑問があるんですからね!」
「ペットねェ……似たようなもんじゃあないのかい」
「なっ……なんて事を」


否定すらしてくれないという衝撃的な答えに固まる。
そりゃあ吉影さんから見れば、私は間抜けでアホ丸出しで低俗な生き物に見えるかもしれないけれど、種族は同じ人間だというのに、随分な言い草だ。
このままどんどん私のペット化が進めば、最終的に家畜人間となってしまうのだろうか。ショックだ。

頭を、背を、肩を。
無遠慮に……それこそ自分のペットにするようにベタベタと撫で回してくる吉影さんの手。愛でられていると捉えるべきか、馬鹿にされているというべきか……。
触れてもらう事自体は気持ちいいから割と満更でもないが、微妙に腑に落ちない扱いだ。


「チョコチョコ動き回っては飼い主を探すようにわたしの名を呼び、それにいつも能天気で……よくはしゃぎ、よく食べ、よく眠る。そしてとても従順だ。これはまさに犬だね」
「うっ……。私、そんな風に見えてるんですか」
「フフッ……自覚ないのかい?」
「ひーどーいー!!」
「フッ……、クククク……」
「何笑ってるんです!」


胸板をばしばしと叩くも、当然の如く吉影さんにはノーダメージだ。強い。
そして一応怒りつつも、私は少しドキリともしていた。
吉影さんが、一瞬だったが珍しく毒気のない笑顔を覗かせたからだ。
大抵はスカしてたり見下してたりと、笑顔にすらどことなく冷たさが加わっているのが常だったが、今の顔は少年みたいに素直な笑い顔だった。優しさがあるというか。
いや、私の事苛めて笑ってるんですけどね。

でも、なんか……可愛いかったなぁ。吉影さんじゃないみたいだった。吉影さんって本来はああいう顔もできるんだ……。


「フゥー……。なまえはおかしな子だね」
「またも貶されている……。理不尽な……」
「いいや、褒めているんだよ。飼い主を愉快な気持ちにさせてくれる利口なペットだ、ってね?」
「人権侵害もいいところです、まったくもう……」


人として完全に下に見られているというか、舐められているなぁというのは常々感じてはいるが、吉影さんが楽しそうだからいいかと思えてしまう。
私のこういうところはまさに『飼い主様だーい好きな、ペットっぽい根性』な気がする。直すべきなのだろうか……。
喉を撫でられながらそんな事を考えていた。

って、また喉を撫でられている。
もう自然すぎて全く気付かなかった。何なんだ吉影さん!

絶妙な手つきで愛でる指先からは逃れられない。
心地よさで理性が溶かされて、私はどんどん彼に従属するペットにされていく。身も心も、全部だ。
吉影さんの膝の上で縮こまるように体育座り。
ゆったりと撫でられる幸せを、目を瞑って享受する。


「ところでなまえ。人間に付けられるハーネスがあるのを知っているかい」
「……そんなもの私は知りませんよ。嫌な予感しかしないのでやめて下さい」
「残念だったね。もう買ってある。ホラ、これ……フフフ。気に入ってくれるといいんだが」
「吉影さんこわーい!!」




-fin-


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