夢小説 ジョジョの奇妙な冒険 | ナノ




えっちな なぞなぞ対決です…!?



( ※吉良さんがとても下品です )




二人揃って夕飯を頂いた後、お腹休めのために涼しい居間でまったりする、お決まりの時間。
私は座布団にあぐらをかく吉影さんの足の間にすっぽりと収納されて、座らされます。
ここってとっても落ち着くんですよね、フィット感が良いのです。
こうしてこのままだらだらお話したりじゃれあったりするのが常でしたが、しかし今日の私たちは、いつもと違った過ごし方をする予定でした。
顔だけ後ろを振り返って、背後の吉影さんに早速お願いをしてみます。


「吉影さん。…せっかくですし、つけてみます?」
「ああ、いいね。どんなもんか、わたしも少し気になってはいたんだ」


吉影さんがテーブルの端のリモコンを手に取り、テレビをつけました。

そう、テレビを、です。
なんとなんと、吉良邸にも遂にテレビが導入されたのです…!
一般のお宅であればなんてことないことかもしれませんが、このお家にとってこれは重大な出来事。
だってあの吉影さんが自分の意思で新しい家具を買うなんて…。
貴重な自由意志の芽生えを前に、私も思わず大感動してしまいます。
あれをしたいこれをしたいと、これから自然に思えるようなキッカケになるといいなと感じます。
もう吉影さんを縛る鎖はとっくにないのですから、本当は何でもできるはずです。
好きなことをして、見て、聞いて、買って、自由に行動する権利は既に手に入っているのです。
…自由っていったって、あくまで悪いこと以外に限った話ですけれども、まあそれは置いといて。
おそらくかつて抑圧された影響で、今ではすっかりみる影もなかった吉影さんの自由意志の片鱗が見えたことは、私にとってとにかく貴重なことなのです。

自分が仕事でいない間退屈だろうから、と私に気を遣ってくれた吉影さんからのプレゼント。
ニュースは新聞もしくはラジオ派の吉影さんのお心遣いが優しく胸に沁みて、ふわふわとした気持ちになってしまいます。
温かい気分に任せて硬い胸板に頬をすり寄せ、今はたっぷりと甘えさせてもらいましょう。
一日の終わりの、癒しに満ちた至福の時です。


「うーん、この時間は何やってるのかなあ…。とりあえず適当にチャンネルを回してみましょうか」
「そうだね。…っと、これは何の番組だろうね。ちょうどCMみたいだ」


吉影さんに背中を預けると、きゅっ、と背後から薄いシャツの腕に抱きしめられます。
私は前に向き直り、テレビの画面をぼんやりと眺めました。
…本当は、テレビの内容は別になんでも良くって。
吉影さんと、普段しないような話題とかも色々お話できたらいいなって、そう思っての提案でした。
何を見て、何を感じるのか。
何が好ましく、何が嫌なのか、少しでも多くのことを知りたい。
そういう探究心です。
果たして吉影さんの興味レーダーにはどんなものが引っかかるのでしょうか…!?
ちょっぴりワクワクしますね!


「おや、このアイス、なまえがこの間食べたいって言ってたものだね」
「あ、本当ですね。これ期間限定なんですよ。マンゴー&ソーダで黄色と水色…吉影さんと同じ色だなーと思って、食べなきゃって…えへへ」
「なまえは小悪魔なのかい?」
「は?」
「いや、狙って言ってるんじゃないんだとしたら、とんだ魔性だよ。困ったね」


ああ、言われてみれば確かに「吉影さんを食べちゃう」みたいな発言だったでしょうか。
別に普通にアイス食べたかっただけなのですが。
明日オーソンで買ってこようかな、二人ぶん。

CMではアイスの他にも、かわるがわる色んな商品が映されましたが、吉影さんは特に反応しませんでした。
アイスは、私が食べたがっていたから特別に関心を持っていてくれてたみたいですね。
…ちょっと嬉しいかも。

CMが明けると、かちっとした服装の人が今日の出来事や注目のイベントなどなど、多岐にわたるトピックをどんどん紹介していきます。
どうやらニュース番組だったようです。
今映っているのは、動物の赤ちゃんが生まれたという微笑ましいニュースです。
生まれたてでピンクっぽい生き物が、うごうごと懸命に動いているところがクローズアップされています。


「わぁ可愛い…赤ちゃんパンダが生まれたんですねぇ。どこの動物園だろ」
「ああ、東京みたいだよ。ちょっと遠いな。…それにしても変な形だね、パンダの赤ん坊ってのは。これが成長すると親と同じになるのか。不思議なことだよ」


変な形って。
まあ、確かに生まれたてはパンダの成体とはかけ離れた見た目をしていますから、分からないこともないんですけどね。
色もピンクで、なんか宇宙生命体みたいな感じがしますし。


「吉影さんは動物、お好きなんですか?猫ちゃんには好かれますよねぇ」
「あくまで猫に限った話でね、犬にはけっこう威嚇されるよ。動物は、まぁ…どちらかというと好きかもしれないなあ。動物は文句も不満も言わない。もしも動物がペラペラと人語を話したとしたら、地獄絵図だろうね。やれ散歩に連れて行けだの飯がまずいだの、頭が単純なぶん欲望もストレートに表現するだろう。そうなったらペットを飼うという文化はみるみる廃れるだろうさ。動物の愛らしさは、口をきかないところにあるんだからね」
「あぁ、そういう…。なるほど、面白い考え方ですね!」


発想力が柔軟な吉影さんの考え方は、正しいかどうかはさておき、聞いていてけっこう面白いのでした。


「とにかく、わたしにとっては騒がしく自己主張されたり、口やかましく指図されたりしないのが大事なことなのさ」
「そうでしたね。うるさいのは、嫌ですもんね」
「ああ。わたしはなまえと静かに暮らすんだよ。ずっと、ずうっとね」


吉影さんが何よりも大切にしている幸福のポリシー。
幸せに決まった形などはなくて、きっと人間の数だけ幸せの形が存在するのでしょう。

親パンダが子パンダを大事そうに抱き抱えて丁寧に毛づくろいをしている映像は、なんだかありふれた幸せに満ちたものでした。
なんてことはない「家族」という幸福の形が、胸にじわりと滲む影を落とします。
前々から若干気になってはいたものの聞けなかった疑問が、再びむくむくと頭をもたげました。
…吉影さんは、赤ちゃんが欲しいとか思うのかな?
…いや、いきなり重すぎでしょう、この話題は。

それに吉影さんにそういう願望があるようには見えませんでした。
ついでに言うと私もこのひとも人の親になるには未熟すぎて、まるで明るい未来が見えそうにありません。
彼のような人殺しがまともな親になれるのか―――なんて、考えるまでもないでしょう。
だとしても、頭がいいのが災いして、意外と表面上は上手くいってしまうというのもありえますが。
「家族思いの良い父親」を演じることそれ自体は、器用な吉影さんにとっては難しいことではないはず。
ただし形だけで、心は伴わないかもしれませんけどね。
そして私に関しては言うまでもなく、そういうことに一ミリの自信もありません。
お互いの家庭環境が致命的にズタボロすぎて、始まる前から終わってるって感じの救いのなさです。
この世は地獄でしょうか。
頭の中で描いた幸せな家庭像はどこまでも絵空事。
甘い夢へはどんなに望んでも届くことはなく、ただ私達を遠いところから見下ろしていました。
でも、叶わぬ絵空事だとしても、もし素敵な家族になれたとしたら、それはきっと、すっごく…。


「…………」
「なまえ。聞いてるかい……なまえ?」
「は、はい…?あっ、ごめんなさい、何か言いましたか?」
「フ〜…全く聞いてなかったね?」


不意に、私の後頭部に吉影さんの顎を乗っけられた衝撃で我に帰りました。
そのままガクンガクンと振動されて、頭が揺さぶられます。
こ、こんな子どもみたいなことを…。


「あうあぁ、ちょっ、ごめんなさいってば!もう、揺さぶらないでくださいよ〜っ」
「……」


揺さぶり攻撃が終わったかわりに、今度は無言で頬をぐにぐにとつままれました。

す、拗ねてる!可愛い!

なんだかいちいち幼いやり方に、つい笑いそうになるのを堪えて、なおもしつこく頬をつつく吉影さんの手を撫でて宥めます。
そういう機会がなかったのか、吉影さんの構ってアピールはどこか拙く、しかしそこが最高に…愛しさを掻き立ててならないのでした。
そういえば、シアーハートアタックはやたらとコッチヲ見ロと主張して走り回っていますが、あれを見る限り多分不器用なんでしょう。
もしかしたら自己表現が苦手なのかもしれないです。

まあとにかく、一人で考えに沈んでいる場合じゃあありませんね、ここまでにしておきましょう。
うっかり吉影さんに寂しい思いをさせてしまったことを反省。
意外と寂しん坊ですから、ちゃんと構ってあげなくてはいけません。
目一杯の愛情を込めて吉影さんの手を撫でさすりながら慌てて前を見ると、パンダ特集はとっくに終わって別の話題になっていました。

あれまあ。


「…それにしてもどうしたんだい、上の空で。今はわたしといるんだから、わたしのことを考えるべきだよ」
「いやぁーちょっと、あははは。すみません、改めて、何が聞きたかったんですか?」
「いや、なに。ちょっとした質問だよ。なまえは赤ちゃんが欲しいかい…ってね」
「え、突然どうしてそんなことを」
「突然じゃないよ、常日頃からいつか聞こうとは思ってたんだ。それにさっきはパンダの赤ん坊を可愛いって言ってたろう。わたしはまだ当分二人きりを満喫するつもりだが、欲しいならやはりいつか作る計画は立てておかないといけないからな。下手に歳をとってからなんて、何もいいことはないからな…」


同じようなことを考えていたのに驚くと同時に、ああやっぱり、とも思いました。
子どもを作ることに関しては、何がしか思うところがあるようです。
吉影さんのご両親は周りよりお年を召していましたので、運動会とか授業参観とかがあった時に肩身の狭い思いでもしたのかもしれません。


私の下腹部をくるくると撫でさする吉影さんの骨ばった手は大きく男らしくて、こうしていると本当にお父さんになったみたいに見えます。


「赤ちゃんは、まだいいですよ…。というか、私達の場合二人きりの方が上手くいくような気がするんですよね。吉影さん、私が別のものに構いっきりになったら絶対怒るでしょう?幼児帰りされて、赤ちゃんと二人揃って泣き喚かれたりしたら…かなり大変ですし」
「わたしがそんな精神的に不安定で未熟なやつに見えるかね」
「……ちょっとだけ?」
「なんだってェ???」
「あっ、やぁっ!ごめんなさ、ぁっ…ひ!く、くすぐっちゃだめぇ!」


背後から抱きすくめられた状態でのくすぐり責めの効果は絶大。
逃れようもないこそばゆ感で、全身をじわじわ熱くされます。
無意識にビクンビクンと体が反応してしまうのがこの上なく恥ずかしく、顔が真っ赤に染まっているのが自分でもよく分かりました。


「んあ!わ、私が悪かったですからぁ、ぅ、ひゃひ、やめっ…!」
「これはね、お仕置きなんだ…。なまえが意地悪を言うから、きみはこんな目に遭うんだからね…」
「あ、や!?そ、そこはっ…ん、ふぅっ……んんっ……」


脇や太腿を責めていたはずの両手が突然照準を変えて襲い掛かります。
胸の肉を鷲掴んだかと思うと、間髪入れずそこの中心を指でくるくると円を描くように刺激し始め、突然のことに私の体はビクリと強張りました。
吉影さんのゴツゴツした指が、柔らかい肉の中心、ことさら柔らかく敏感な部分を服越しに擦り、押しつぶし、体を好きなように蹂躙される私の口からは反射的に甘く熱い息が漏れます。

こんなの、罰というよりただ単純に吉影さんがムラついたから悪戯してるだけじゃないですか!
自分を正当化した上でエロい悪戯をするなんて、なんて卑怯ですけべなことを…。
もうテレビを観るどころじゃありません。

「吉影さんやめてっ、つ、つまんじゃっ」
「つままれると、そんなに駄目なのかい?これは罰だって言ったのにっ…淫らに感じた上に甘い声を出してわたしを誘うなんて、なまえは本当に悪い子だよ…。はぁ、…はぁ…」
「っ……」


ひ、人のせいにしてー…!
耳に熱っぽい吐息がかけられたかと思うと、べろりと舐め上げられていよいよもって身の危険を知ります。
このままだとなし崩しセックスコース確定の絶望的状況でした。
耳を食まれながら胸を弄られ、自分の閉じた足の間が勝手に潤んでいるのが憎らしいです。
体が「そういうこと」をするための準備が、心とは裏腹に、否応なしに進んでいることをハッキリ分からされます。
しかし、まだお風呂も入ってないのに恥ずかしいことをされるなんて、そんなのは嫌です…!!
でも、スイッチの入った吉影さんを私では止められそうにないのも事実で…!

たっぷりと艶を孕んだ吉影さんの熱っぽい声が、私の耳をもねっとりと犯して、私の頭はどんどんおかしくされていきます。


「なまえ…柔らかいね…。ンン、はぁ、フフ…、でもここは固くなってきているね?可哀想だから、はぁ、そろそろ直接触ってあげないとっ―――」
『―――続いてのニュースです。杜王町の年間行方不明者数は去年も依然として多く、警察は今年、新たな対策として―――』
「……」
「……」
『また、警察はこの行方不明事件を船による誘拐拉致とみており、海の警備を強化するとともに―――』
「…船で誘拐です、って」
「…見当違いだね」


…いつの間にかローカルな話題になっていたようで、画面では私達の杜王町の不穏な事件について報道されています。
いきなり頭から冷水をぶっかけられたかのように冷静になってしまい、二人していそいそと居住まいを正します。
お尻に当たる吉影さんの未だ元気な暴れん棒は、だんだん治まると思うので放置しておきましょう、無視です。


「―――まあ、何の証拠も残さないまま何人も消えてるわけだから、船で攫ったって考えに行き着いたんですかね」
「フン、あまりに短絡的すぎる考えだな。だいたいそんなに攫ってどうするんだか…」
「普通はスタンドなんて知りませんから仕方ないんですよ、吉影さん」


続いて流れたのはまたもローカルニュースです。
杜王駅周辺のコンビニで起きた強盗事件の犯人が無事捕まったとのことでした。
最近治安が悪くて怖いですね、スタンド能力も何もない非力な私は少々不安です。


「まったく、嫌だね。わたしは自衛できるからともかく、なまえが危ない目に遭ったらと思うとゾッとするよ。わたしたちの愛する町でこんなことをするやつがいるなんて許せないな…」


…どの口が言うんだとは思いますが、おおよそ罪悪感というものが存在しない吉影さんに言っても仕方がないので、それはゴクリと飲み込みます。
なんだか雲行きの怪しい不穏なニュースが増えてきたところで、そろそろチャンネルを変えることにしましょう。
せっかくだったら明るい話題の方がいいです。


「別の番組にしましょうか。あ、これとか楽しそうですよ」


リモコンを手に取り適当な数字を押すと、先ほどとは一転、目にうるさい派手なスタジオセットにわいわいとしたトークが飛び交うワイドショーが映りました。
…待てよ、吉影さん絶対こういうの嫌いですよね。
とりあえず明るいものをとは思ったけれど、ノリとテンションだけでする会話を吉影さんが好むはずもありません。
むしろ遠くからあのけたたましい騒ぎを見て「うわー頭悪そう」という感想を抱いている方がしっくりきます。


「…うるさい。別のにしよう」
「ですよねー!ごめんなさい!私もあんまりこういうのは好きじゃないです、変えましょう」
「声がやたらと大きいのも不快だが、だいたい話題が下世話すぎるんだ。こんなくだらないことで騒ぐなんて、程度が知れるな…下品極まりないよ」


うわ〜…、案の定、すっっっごく嫌そうです。
後ろから降ってくる声がかなり刺々しいので、振り向かなくても、苦虫を噛み潰したような表情をしているだろうことが分かります。
これはさっさとチャンネルを変えねば…と再びリモコンに手を伸ばしたところで、始終うるさいワイドショーがさらなる追撃を投下していきました。


『―――あはははは!で、×××だったんだよー!!でも僕××で、マジで×××っていうかさぁ―――』


芸人か何かが放ったえげつない下ネタが、居間の空気を見事に凍らせます。


「……」
「……」


あああああ!!!吉影さんの前で変なもの流さないで!!!!
気まずくなるじゃないですか!ふざけないでください!

沈黙に満ちた私達の空間とは対照的に、さらに大爆笑が巻き起こるスタジオの様子が寒々しく、二人の間に死ぬほどいたたまれない時間が発生しました。
微妙に生々しい内容なせいで笑えもしないし、とにかく最悪の一言に尽きるこの瞬間に、激しい後悔が湧きあがります。
もう一秒もこの空気を味わっていたくない思いで即座にリモコンのボタンを押し、やっと私達は危機的状況からの離脱を成し遂げました。
なんだかどっと疲れました…、ううっ…なんでこんな…!


「あ、あー…!ほら見て吉影さん、クイズ番組がやってますねえ!!」
「そうだね」
「でもちょっと難しそうですね。私あんまりものを知りませんから、分かったら教えてくださいね!」
「うん」


よ、吉影さんのテンションが…!!
さっきまであんなにも饒舌に喋っていたのが嘘のように萎え萎えとしているじゃないですか…。
なんとかして持ち直しておきたいので、ここで存分にイチャイチャすることにします。
お腹に回されている吉影さんの腕をぎゅっと抱きしめて、クイズが出るたびにひとつひとつ吉影さんに問いかけました。

よく分からない国の首都、マニアックな文学の著者名、クラシックについてのあれこれ。
全体的に難易度の高めな問題の答えを、吉影さんはつっかえることなくすらすらと口にしていきます。
特に文学、絵画、音楽などの芸術方面に強く、答えに添えて教えてくれる雑学は興味深いものばかり。
こういう方面に造詣が深いのですね〜…、さすがは文学部出身。
知的で、大人の趣味って感じがします。
私とは大違いだなと素直に尊敬してしまいました。


「す、すごい…。吉影さんはやっぱり物知りなんですねぇ。さすがです!」
「フフン、これくらい一般教養さ。普通のことだよ」


とか言ちゃって、けっこう鼻高々なところが微笑ましいです。
私全然分からなかったなぁ…。
でも、吉影さんも機嫌よくテレビを眺めてくれているし、本当に良かったです。
そのままだらだらとクイズを楽しみながらお話しをしていると、私たちの幸せに満ちた平和で静かな時間がまったりと過ぎてゆきます。
視線はテレビのまま、特に意味もなく無言で指を絡ませあってみたり、難問をクリアしたからとチューをねだる吉影さんにたくさんキスしたり、私がまぐれで正解するとご褒美と言わんばかりにナデナデしてしてくれたり。

ああ、幸せだなぁ〜…。
これですよ、これこれ。
穏やかで、何の変哲もないイチャイチャタイムは私の何よりの宝物です。
吉影さんにとってもそうだとしたら、これ以上の幸せなんてきっとどこにもありません。
戯れに私の頬を撫でる吉影さんの手つきは優しく、この手が人を殺したということも、今だけは嘘のようだとすら思えます。
他人を無情に害するこの手も、今は私を慈しみ、撫で、愛してくれるかけがえのないたった一つの手。
どんな凶行を働こうが、どこかの誰かに責められようが、私にとっては全部が大切な吉影さんです。

このひとが紛れもない悪人なのは事実ですけれど、自ら望んで「こう」なった訳ではなく。
環境とかサガとか、本人にはどうしようも出来ない色々な要素が重なって、それでも何かにしがみついて生きようとした結果の成れの果てが吉良吉影という怪物なのですから―――誰が悪いのかと問われれば、いわば世界が悪かったとも言えましょう。
だから世界に愛されなかったあなたのことを、せめて私が愛します。
寂しいのは、とても悲しいことですからね。
それは私もよーく知っています。

彼の腕に抱かれながら浸る愛は、どこか後ろ向きですが、私たちにはこれで丁度いいのでしょう。
健全な愛は、お互い生まれ変わったその時にきっと手に入れましょうね、吉影さん。
その時あなたが愛するのは私ではないし、私が愛するのはあなたではないのだろうけれど、それでいいのです。


―――ふと、昨日の昼間にエンタメ番組で見たあるクイズのことを思い出します。
なんか、見た瞬間、「あ、これ吉影さんに聞いたらなんて答えるんだろう」と想像しちゃったクイズのことを。
くだらないって笑われちゃうかもしれない内容ですし、もしかしたら答えを知っているって可能性もなきにしもあらずですけれど、まぁ、別に聞いてみることくらい許されるでしょう。

スラックス越しの、筋肉に覆われた硬いふとももをたしたしと叩くと、吉影さんの視線がこっちを向きました。
うーん、テレビを観るのもいいですけれど、やっぱり吉影さんに私の方を向いて貰えるのは嬉しいです。
二つの青い瞳に見つめられれば一瞬で、私の心は捉えられてしまいます。
知性と冷血の青。
何度見ても吉影さんにピッタリだと思いました。

私はにこりと笑って、難しいことは何も考えてませんよ〜って顔で吉影さんに話しかけます。
やっぱり二人でいるときは出来るだけ、楽しい気持ちで幸せいっぱいに過ごしてもらいたいですもんね!


「じゃじゃん。ここで私からもなぞなぞですよ〜。当たったらいいものをあげますね!」
「おや?いいだろう、受けてたつよ。でも、さっきの通りこれでも私は知識はある方でね。わたしになぞなぞで勝負を持ち掛けるということは、即ちわたしの勝ちということさ。フフフ、それでもいいならかかっておいで、なまえ」
「相変わらず自信満々ですねー。でも私のはそんな難しいやつじゃなくて、ほんと、ふざけたなぞなぞですよ?吉影さんにとってもつまらないと思いますが…」
「いいよ、なんでも。わたしは勝ってなまえから『いいもの』とやらを貰うんだ。さ、それで、どんな問題なのかな」


えっ、どうしましょう。
適当にいいものをあげるなんて言っちゃったけど、特にこれとは考えてないんですよね。
まあいいか、当たってからで。


「ええとですね、それじゃあいきますよ。『Hになればなるほど硬くなるものは何でしょう』!!」
「…………」


一瞬ドキッとするこの問題ですが、勿論答えは常識的です。
そう、答えは鉛筆。Hっていうのは、鉛筆の濃さの単位のことを指すわけですね、意地悪な問題です。
たまに下ネタみたいなことを言ってからかってくる吉影さんのことですから、こういうの笑ってくれるかなぁと思ったんですよね。
…でもやっぱりちょっと、くだらなすぎたかも。
中学生じゃああるまいしと、ほとほと呆れられているかもしれません。
反応の薄い吉影さんに微妙に不安を抱きつつ、しかし言ったことは取り消せるわけもないので答えを待ちますが、焦れったさで丸焦げになりそうです。
失敗失敗、変なこと言うもんじゃないですねぇ。恥ずかしいなぁ。
変な空気になる前にさっさと答え言っちゃお。なかったことにします。


「あはは、変な問題ですよね!だからつまらないかもって言ったんですよー。ねぇ、吉影さん、分かりました?」
「言わせたいのかい。チンポだな。チンポ以外ありえない。これはチンポだ。なんてスケべな問題を出すんだいなまえ、びっくりだよわたしは」
「チン…えっ!?!?チ、ち、ち、違っ、」
「しかしまさかチンポだなんてね…。ああ、なまえがいやらしい子になってしまった…。なんてことだ…」
「ちょっと待ってくださいよ!だから、違うんですってば…!」
「?何が違うんだね」
「ぅあっ!?ち、近……」


クイっと顎を捕まえられ、超至近距離で見つめられます。
体勢だけ見ればキスでもするのかって感じですけど、実際は残念なことに、ロマンチックさのかけらもないやりとりを強制させられているのでした。
そのままじーっと瞳を覗きこまれ、息が止まりかけます。
少しも揺らがずにまっすぐ私を射抜く青の瞳に鼓動が早くなったのはトキメキのせいではありません。
こ、これ、何されてるんですか、私。

戸惑う私をよそに、吉影さんが何故か吐息交じりの妙に色っぽい声でさらに追い詰めてきます。


「ん…何が違うんだ?ちゃんと言ってくれないとわたしは分からないな…」
「ぇっ……!?だからその、答えが間違いなんです。本当は…」
「だから、どれが間違いなのか教えてほしいな。そうしてくれないとわたしも納得のしようがないよ。面倒くさいかもしれないが、そういう性格だってことはなまえもよく知ってるだろ?」
「あ…あの…」
「教えてくれ、なまえ。何が違うのかをね…」


あ、遊ばれてる…!!
こ、こんなの…質問はすでに尋問に変わっているじゃあないですか…!
拷問じゃないだけマシですが、似たようなものです!!
なんでこんな超至近距離で見つめ合いながら猥語を吐かなくてはならないのですか!?
意地でも言うものかと固く結んだ唇の表面を、吉影さんの吐いた息が、ふぅっ…と怪しくくすぐって通り過ぎていきます。
…何なのでしょうか、このシチュエーションは。
恥ずかしがるべきシーンなのか、怒るべきなのか、はたまたいやらしい気持ちになればいいのか…私にはさっぱり分かりません。
頭の中の、どこか遠くから事態を俯瞰する冷静な私に問いかけても、「意味がわからない」という答え以外見つかりそうにありません。
吉影さんはどうしてこんな意地悪をするのでしょうか…?
表情が死んでいるだろう私に、どこまでもまっすぐな目をした吉影さんが畳み掛けます。


「早く言うんだ。それとも何かな。本当はわたしの答えで正解だったのに、賞品の『いいもの』をあげたくないがために嘘を言っているという可能性もある。はぁ…ひどいじゃないか。そんなのはフェアじゃないだろう?」
「そんなんじゃ、ありません…」
「ならば尚更だよ。なにもやましいことがないのならば、きちんと言うべきだと思うんだがね。なにが違うのか…なまえなら、きちんと言えるはずだよ」
「…………」
「さぁ、わたしに教えてくれ…なまえ」
「……ち」
「ち?」


今までずっと真面目な風を装っていた吉影さんの口角が、わずかにニヤッと上がりました。
己の勝ちを確信したのでしょう。
悔しいことですが、…非常に受け入れ難いことですが、私の、負けです。
私はどう足掻いても弄ばれる運命にあるのだと思います。
もう、どうでもいい……。
始めから決まっていたことだったんだ…。

せめてもの抵抗として目を伏せますが、距離が近すぎてあまり意味もなく。
吉影さんの待ち望む三文字を必死に紡ごうとして震える唇を、吉影さんの指がなおも急かすようになぞっていきました。


「さぁ……なまえ」
「ち…ちんっ……、……ぽ、じゃ、ないです……」
「そうか。チンポじゃないのか」
「は、はい…」
「じゃあ正しい答えは?」
「鉛筆ですよぉ!!うっ、うぅ〜……」
「ああ〜〜、鉛筆ねェ〜〜……なるほど、それは盲点だったなぁ〜?いやあ、やっと合点がいったよ。とてもいい気分だ。ありがとうね、なまえ。ん…ちゅっ」
「ひぅ……!」


わざとらしく頷く吉影さんを恨みがましく見つめていると、ついでと言わんばかりにむちゅっと唇を奪われて解放されました。
いつもなら大好きな吉影さんからの幸せいっぱいなキスのはずが、今はこんなの全然嬉しくありません。

半泣きです。

私はただちょっとしたイタズラ心でなぞなぞを出しただけなのに…。
ど、どうして…。酷すぎる…!


「よし。スッキリできたお礼にわたしからもなぞなぞを出してあげよう」
「いりませんよ…!もう嫌…嫌な予感しかしないもん…。意地悪な吉影さんは嫌いです…」
「まぁそう言うんじゃないよ。お返しに一個くらいはいいじゃあないか…。そうだなぁ、何にしようかな」


私の意向は無視ですか。
勝手に話が進んでいるし…世は常に無情です。
救いなどはありはしないのです。
だから私も吉影さんもこんな性格になっちゃったし、そんな二人が出会っちゃって、今こうして私は虐められているのです。
それはこれからもそうなのでしょう。


「ああ、思い出したよ。簡単かもしれないが、わたしからはこれを。『好きな人といると、すぐにたっちゃうもの』ってなんだか、なまえは知っているかな?ヒントは、わたしもなまえといると、すぐにたっちゃうものだよ。でも仕方ないんだ。自分の意思で止められるものではなくてね…」
「時間ですよ。じ・か・ん!」
「フフッ、正解だ。これは有名すぎたか…。もう少しばかりひねる必要があるようだ。ンー、どうしようかな」


さ、最低です…。
しかもしれっと次の問題を出すつもりですよ、このひと…。
ここは危険に満ちています。早急にどこか安全なところへ避難しなくては。

これ以上の被害を被る前に吉影さんの足の間から静かに抜け出そうとするも、敏感に気配を察知した吉影さんにがんじがらめにされました。
背後から両腕できつく上半身を抱きしめられ、さらには足で絡みつくようにガッチリとホールドされるという見事な捕獲っぷり。
身じろぎひとつ出来ない容赦ない拘束。
さっきより酷いことになった私に逃げ道など、万に一つもありません。


「うぐぅ…っ!」
「おい、なまえ…わたしを置いてどこへ行こうというんだい。ひどいじゃあないか…いつも一緒って約束したろ」
「ううう…」


猫がするような、スリスリと体全体を擦り付けてのマーキングから逃れる術もなく、ただされるがまま、私は吉影さんの所有物として扱われるのでした。
…強引にされると実はちょっと嬉しくもあるのですけど、さすがにそれは言いませんし、言えません。
これ以上調子に乗られたら、いよいよ手が付けられなくなるレベルで自由に振る舞い始めること請け合いです。


「それじゃあ続きだね。『男性が、なめられると思わずたってしまうものは何でしょう』…。なまえは何だと思う?」
「何って…」


ナニですよ、って言わせるつもりですか。
ていうかさっきから、吉影さんはどれだけ私に男性器の名称を言わせようとしてるんですか?
たっちゃうものシリーズのなぞなぞが最悪すぎて閉口です。
不快感を露わに吉影さんをじっとりと睨みつけるも動じず、余裕の笑顔で首を傾げて答えを急かしてきます。
可愛いと思ってるんでしょうか。
いや、可愛いし優雅ですらあるんですけど、だからといって何でも許すと思ったら大間違いです。

私を抱きしめて大層ご機嫌な吉影さんとは対照的に、こっちの気分は急降下でした。
気が済むまでなぞなぞに付き合うのは構いませんが、あまりいやらしいことばかり言うのは感心しませんので、おイタが過ぎる吉影さんは返り討ちにしてあげましょう。
さてさて、男性がなめられてたつものといえば、これですね。


「は、腹…。腹が、立ちます。ちなみに私の腹も絶賛立ち中ですよ」
「とか言いながら律儀に答えてくれるなまえは、ツンデレなのかな」
「うるさいですよ!あんまり調子に乗ると本当に怒りますからね!」
「おお、怖い怖い。なまえに叱られてしまったよ、フフフ」
「……」


あまりにも吉影さんに甘くしすぎたツケが回ってきたのか、どうも吉影さんには、私になら何をしても許されると思っている節がありました。
叱ってもこれだし、まるで意味がありません。
ある意味では、心を許してくれているという何よりの証拠なのでしょうけれど、甘えも度が過ぎれば悪い方向へ働きます。
意地悪だって意図せずのことならまだしも、「わざと」となってくると話が違うのです。
甘えるって言ったって、相手の好意に甘んじて好き勝手の限りを尽くすのはいけないということを、吉影さんにも理解して貰える日は、果たして来るのでしょうか…?


「何はともあれ正解だよ。なまえは賢いね、よーしよし…。じゃあ、『いれると段々体が火照ってくるボウ』といえば?」
「もうやめてくださいよそれ…」
「ちなみにこの答えもチンポじゃあないよ」
「なっ…!そんなこと分かってますってば!忘れた頃に変なこと蒸し返してくるのは人としてどうかと思いますよ、これは真面目に言っていますからね?」
「フフ…」
「叱られて嬉しそうにしないの!」


何を言われようがどこ吹く風の吉影さんは、ニヤニヤしながら頬を擦り付けてきます。
頭突きして振り払おうとするも、押さえつけられているせいでそれも叶いません。
お互いの頬と頬をむにゅむにゅとすり寄せ、「フゥ〜〜…」と、手を堪能している時のような声を発してご満悦の様子。
私が真面目に怒っていて、全然喜んで甘えるシーンじゃないと思うのですが、一体吉影さんの思考回路はどうなってしまっているのでしょうか。
共感能力が著しく欠如してるのは承知の上でしたけど、まさかここまで酷いとは思いもよりません。
まるで親に構ってもらいたくてわざと悪戯を仕掛けているような、捻くれたものを感じます。
こんなこと、他人には絶対にしない癖に、なんで私にだけ…。

私が吉影さんのことを大好きなのを逆手にとって虐めるような真似は、私にとってはあまりに非道な行為。
横暴なのは分かっていたつもりだったけれど、ここまでくるとちょっと傷つくというか、引くというか…。

下品な言葉を繰り返して喜ぶ小学生と同レベルと化した吉影さんに、ドロドロとした複雑な思いを抱きます。


「フッ…なまえはエッチな言葉を言われるとすぐ、恥ずかしくなっちゃうのかな?とても純情なんだね。そこが逆に、この上なくエッチだよ」
「…………もう、黙ってください。テレビ観ましょう」
「つれないなぁ。テレビ観るよりもっといいことをしようね…。さあなまえ、もっとわたしと遊ぼう。入れられると体が熱くなっちゃうボウって一体何なんだい。わたしに教えて欲しいんだが」
「…うぅっ…いい加減にして下さいよぉ…!吉影さんに虐められる…!ど、どうして…。本当は私のこと嫌いなんでしょう。私は吉影さんのこと嫌いになりたくないのにっ…。もう今日は寄らないで…」
「おい、酷いことを言うんじゃない。それにこれは虐めているんじゃあないよ。可愛がっているんだ」
「歪みすぎです…。わ、わざとやらないでくださいよ〜っ…、……」
「フフフ…だってなまえが可愛いからいけないんだよ?あぁ、可愛いなぁ〜〜ッ。はぁあ…わたしのチンポも勃ちそうだよッ」


超絶責任転嫁!!
そして目が怖い!!!


「わ、わたし、ほっ、ほんとにこまってるのに、そうやってすぐ笑ってっ…。うぅ〜っ…!っ、ひっく、ぐすっ…、うえぇっ、うぇえ、ひどいっ…!!」
「!?」


度重なるあまりに理不尽な仕打ちに、情けないことに先に私の心が限界を迎えました。
止まらない涙が絶えず自分の頬を濡らしていくのを、どこか他人事のように感じます。
再び微妙な空気になった居間に響くのは、私のすすり泣きと、明るく盛り上がるテレビの場違いな音声。


「……」
「う、うああぁっ……、ひっ、ひっく、…ぅ、うぅ〜〜っ……!!」
「……」


固まる吉影さん。
泣き喚く私。
…地獄絵図です。

本当は一分程度しか泣いてなかったのでしょうが、実際の体感時間はやたらと長く、まるで一秒一秒が拷問でした。
やがておずおずと背後から伸ばされた手が、様子を伺うように躊躇いがちに頭を撫でてきて、反射的にビクリと肩が揺れました。
無視して、なおもめそめそと涙をこぼし続ける私に、吉影さんも言葉に詰まりながらゆっくり語り始めます。


「すまないなまえ…何も泣かせようと思った訳ではないんだ…。さっきなまえの口からいやらしい言葉を聞いたら思いのほか興奮してしまってね、ついもっと言って貰おうと…」
「うっ……、ぅぅ……、ひ、ひぐっ…」
「なまえ……」


変な性癖を事細かに説明されてもコメントに困るばかりで、返事のしようがありません。
吉影さんは嗚咽する私をしばらく見つめた後、静かに席を立つと、台所の方へ消えて行きました。
……す、捨てられた?

いなくなったらいなくなったで心細く、自分の膝をぎゅっと抱きしめて縮こまりました。
さっきまで二人で座っていたから座布団はぬくぬくと温かいですが、私の心にはからっ風が吹いています。
ああ、寂しい…。

体操座りで顔を伏せて鬱々としていたところへ、とすとすと足音が近づいてきます。
その足音は私の背後で止まると、再び私の体を抱き抱えて座りました。


「…アイス買ってきたんだ。ホラ、あーんしてご覧」
「……」
「あーん、だよ」
「……はむっ」
「いい子だ」

どうやら物で釣る作戦に切り替えた吉影さんが、アイスをスプーンですくっては私の口もとへ運んできます。
なんだ、これ買ってきてたんですね…。
私が常日頃食べたがっていた、さっき流れてたCMの吉影さん色アイスです。
こういうとこがあるから、怒るに怒れない…。
はぁ…。


「機嫌を直してくれないかい」
「…いいですよ、ちゃんと反省してくれたなら許します。でも、これからは私の気持ちも少〜しだけでいいので考えてくれると嬉しいです。もし本当に反省しているって言うなら、ね…」
「ああ、分かったよ。はぁ…許してくれて心底ホッとした。ちなみに最後の問題の答えは『暖房』なんだ…」
「ふー。それはもう別にいいですから…」


謎の律儀さを見せる吉影さんに、苦笑。
ちょっとした揉め事になりかけましたが、まあ、平和的解決を迎えることが出来たようです。
こうして私達は、なんだか色々あやふやなまま一応の仲直りを結びました。

餌付けを拒まない私の口へ、吉影さんが次から次へとアイスを運んできます。
私はそれを受け入れて、与えられたものを雛鳥のようにぱくぱくと飲み込みます。
…く、口が冷えてきました。


「考えたんだが…」


吉影さんが静かに口を開きます。


「お詫びに、今夜はラブラブセックスをしよう」
「それ吉影さんが嬉しいだけじゃないですか。…それに、いつもしてるし…」
「でも、愛が一番伝わると思ったんだ。まあ、いつもしてるのは確かにそうだな。しかしだとしたら、どうすれば私の気持ちを分かってもらえるんだ?」
「別に何かをしてもらわなくたっていいですよ。もう執拗に虐めないと約束さえして頂ければ…それで」
「いや、それじゃあわたしの気が済まないんだ。わたしが本当になまえを愛しているということを、ちゃんとなまえにも理解してもらわなくてはいけない」
「そう言われましても。う〜〜ん…」


私は別にいいって言ってるのに、吉影さんのそういうとこが自己中だっていうんですよ〜。
とは言っても、さっきの理不尽に比べたら随分可愛いもんだし、まあこれに関してはそこまで悪い気はしないので、特にどうこうということはないです。
悪気さえなければ、自己中だろうがそれはそれでいいのです。

アイスの最後の一口が、何故か吉影さんの口へと運ばれて消えたのを見届けます。

「美味しいね、これ」
「でしょ?買って正解でしたね。あの、覚えていてくれてありがとうございます。私は私でアイスを貰えて嬉しかったので、これでナシにしましょう。ね?」
「だが…。あ、そうだ、明日もっと買ってきてあげるよ」
「いえ、大丈夫です。お腹壊しちゃう」
「…じゃあチューしてあげようか」
「んん〜…もうそれでいいです!」
「決まりだね……んっ…は……ちゅ、…」
「はふっ…、ちゅ、…はぁっ…」


顎を掴まれての、強引なキス。
にゅるにゅると押し入れられる舌を必死に受け止め、絡ませ合います。
仲直りのキスなんて、なんだかバカップルみたい…。
ひやりと冷えた舌は不思議な感触で、お互いの口の中はアイスのせいで甘く、なんともいえない不思議なキスです。

…単なる仲直りの儀式としてというには熱っぽすぎるキス、若干発情している様子の吉影さん。
…よし、いいことを思いつきました。
ちょっぴりばかり虐め返してあげないと、今回ばかりはやっぱり腑に落ちないですからねー。
悪巧みに気付きもしない吉影さんが夢中で私の舌を貪るのを、心の中でフフフと笑いながら観察します。
さあ、私のことを『可愛がって』くれたというのならば、私だって吉影さんを『可愛がって』あげようじゃないですか。


「んはっ…。はい、おしまい」
「っ…ふぅ。すごく甘かったよ、なまえとのキスは…」
「そうですか?ふふっ…もっとしたくなっちゃいました?」
「いいのかい?」
「いえ、駄目です。これ以上は寝る前にすることですもん…。今たくさんしちゃったら、メインの夜の方が盛り上がらなくなっちゃうでしょう?だから、ここまでにしましょうね」
「…まあ、そういうことなら、仕方ないね。一理あるか…」
「やったぁ!お約束ですよ。ちゃんと守るんですよ」
「はいはい、分かったよ。それくらいはね」


吉影さんは渋々了承して顔を離しました。
夜までお預け協定を結んだところで、ここからが私なりの『可愛がり』のスタートです。
前には向き直らず、あぐらをかく吉影さんの膝の上に向き合うようにして座る…というか、抱きつきます。
姿勢だけ見れば対面座位でした。
ぴっとりとくっついた体温は温かく心地よいのですが、それで終わりでは意味がありません。
そのまま怪しく腰を揺らめかせれば、服越しの秘部が擦れ合い、確かな刺激が生まれます。


「…うふふ」
「お、おい…なまえ…?」


上を見上げれば、困惑の眼差しと目が合います。
お預けって言ったそばから何をしてるんだと言いたいのでしょうが、私はそれににっこりと笑いかけて、こう答えるのでした。


「吉影さんは、テレビを観ていて下さいね。ほら、クイズ始まってますよ?さっきみたいにかっこよく答えを教えて欲しいなぁ…」
「あのなぁ…こんなことをされてクイズに集中できるわけがないだろう。いや、いつもなら大歓迎だが今はさっきの約束がある以上、苦しくなるばかりで辛いんだ。分かったならホラ、意地悪してないで普通にテレビを観るよ」
「え、なんで?私は吉影さんを『虐めてるんじゃありません。可愛がってるだけ』なんだから問題ないんですよ?」
「……」


先ほどは私が言われたことをそっくりそのままお返しして差し上げれば、吉影さんには言い返す言葉がありません。
珍しく「してやられた」って顔で神妙な顔をして押し黙る吉影さんの唇の端を、挑発するようにぺろりと舐めあげます。
この罰は、甘んじて受け入れるべきだと思いますよ

さすがに観念したのか、無抵抗と化した吉影さんの上で再び腰をゆるく揺さぶりながら、テレビから聞こえてきたクイズを耳元で復唱しました。


「ほら、始まっちゃいましたよ。世界遺産が一番多い国の首都は、どーこだ…。吉影さんなら、簡単かなあ?」
「ぐっ…。……イ、イタリアか、中国あたり…だったと思うが…。だから、ローマか、北京…ふっ…う!!」


耳に噛み付けば、吉影さんが大げさな程に体を強張らせて息を荒らげたのが面白くってクスクスと笑みを漏らしたところ、恨みがましげな目線を寄越されます。
お詫びにほっぺにキスをして、髪に優しく指を通すように撫でてあげれば鋭い視線も一瞬で熱にとろけてしまって。
やはり手は最強の武器になるみたいです。

吉影さん、陥落。

はっはっと浅く漏れる息、潤むたれ目、苦しいのに私を拒みきれない悩ましげな表情。
整ったお顔立ちが快感と苦悩に歪む様は、男性にあるまじき壮絶な色気を放って、私の心に火をつけます。
密着する体温は最初よりずっと熱く、視線の温度もとうに沸点を超えて、情熱的に私を映すふたつの青はどこまでも綺麗で。
こ、この胸の高鳴りは一体…!?


「良い子、良い子…。あ、遊んでる間に答え出てますね。『ローマ』ですって、吉影さんすごーい、正解です!」
「くっ……、ふ…っ…」
「知的で素敵、かっこよくって最高、さすが大人の男性です。私もくらくらしちゃう…。好き、吉影さん、大好き。…あ、ちょっと、何興奮してるんですか、自分で腰振っちゃ駄目ですよ」
「…………」


吉影さんって責められる表情もなんて素敵なんでしょうか。
まさか新たな魅力を発見してしまうとは思わず、夜に対する期待度が私の中で急上昇。
今夜は絶対、もっとひいひい言わせてあげるんですからね…!
されるがままの情けない姿を、特別に私にだけ晒せばいいんです。
もっと見たい、全部見たい、余すところなく、恥ずかしいところを暴いてしまいたい。
散々吉影さんを虐めておいてなんですが、私の方が先に我慢できなくなってきてしまいました。


「クイズもあと少しみたいですし、終わったらお風呂入りましょうか。そしたら……ね?」


問いかけへの答えは、熱く絡みつく眼差しと、ねだるように繋がれた熱い手が全てを物語っています。

ああ、まさかこんな、しおらしい反応をしてくれるなんて、なんて新鮮な…。
吉影さんの魅力は留まるところを知らず、知るほど、暴くほど、それは沼のように深く私を絡めとり、溺れた私はきっといつか息ができなくなってしまうのでしょう。
…ああもう、それでもいいや。
どうせ二人で溺れるのですから、今更何も怖いことなどありません。
沈むのならばいっそ潔く、水底まで。
奪われるなら、呼吸を、光を、視界を、その全てを。
そうと決まれば、何も迷うことなどなく。

今夜の予定が大まかに決まったところで、自然と顔が笑みの形に緩みます。
クイズ番組もいい盛り上がりのまま終わりを迎え、参加者たちが画面の向こうで手を振っているところが映し出されています。


「なまえ……行こうか…。フーッ…これ以上は絶対に待ってやらないからな…」


ぐっと掴まれた手首には痛いくらいの力が込められていて、ちょっとの拒否も許さないという強い意志が伝わってきて、ゾクリと背筋に電流が走りました。
焦れに焦れた限界ギリギリの吉影さんは欲にまみれた雄剥き出しのとっても男らしい表情で私を見ています。
普段する時以上に目がギラついていて、なんだかとってもヤバいです。
…ああ、この凛々しくって精悍なお顔を、私だって一度くらいトロットロにしてみたい…!

答えるかわりに腕に抱きつくと、吉影さん以上に積極的な私がお風呂場までぐいぐいと無言で引っ張って歩きます。
言葉のないこの時間が逆にえっちな緊張感に満ちていて、既にもう頭がどうにかなりそうです。
まあ、吉影さんと一緒にいる時点で私の頭はとっくにどうにかしてるんでしょうけれど、それはまあ、良いのです。
ああっ、ドキドキしてくる…!!
今から胸が期待ではちきれそうでなりません!

吉影さんからアホみたいななぞなぞを出されまくった時は本気で腹が立ちましたけど、こういう結果に転ぶならアリだったなとも思えてしまいます。
なぞなぞ勝負もたまにはいいじゃないですか!

今夜は息ができなくなるまで欲に溺れ切って、私もまだ知らない可愛いところ、いーっぱい見せてくださいね、吉影さん!






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