夢小説 ジョジョの奇妙な冒険 | ナノ




世話焼きの攻防A VS・着替えくらいは自分でできます

 

[世話焼きの攻防@]の続きです。)




ピピピ、と。

規則的な機械音が鳴り響きました。この家では、平日も休日も毎朝同じ時間に目覚ましが鳴ります。
目を開けてちょっとぼうっとして。渋々布団から手を伸ばしてアラームを止めると、のっそり起き上がって障子を開けます。
あまり朝に強い方ではないのですが、日課なので私がやります。
太陽の光が射し込んで、やっと朝の訪れを実感しました。
今日も杜王町は平和ですね。ここまでいつも通りです。(厳密に言えば、布団を出る際、胸を鷲掴む吉影さんの手を外す、というミッションはいつもはないです)
でも、ここからは違います。

気持ちのいい朝です。空が青くて、空気が爽やかで…。
ぐっ、と伸びをして気合いを入れました。今日からやらなくてはいけないことがあるのです。
振り返って、未だ眠っている吉影さんを見つめます。太陽に照らされた金髪はまるで輝いているように眩しく、とても綺麗です。ずっと見ていたいけれど、吉良さんは会社へ、私は学校へ行かなくてはいけません。
名残惜しい気持ちを押し込めて枕元にひざまずき、軽く肩を揺さぶりました。


「吉影さん、吉影さん。朝ですよ、7時です。おはようございまーーす…」
「ン…。…………。」
「お仕事に遅れちゃいますよ。…吉影さん…?」
「…………。」
「あらら…。ぐっすりなんですか…?」
「…………。」


なんてこった。
たまーに目覚めが悪い時はあるんですが、なんで今日なんでしょう。こういう時の起こし方は決まっています。
あんまりしたくないんですけど、放置するわけにもいかず。

…恥ずかしいなあ。

そのまま顔を寄せて―――薄く開いた唇に吸いつきました。


「んん……、ちゅっ。……っ、……んはぁ、れろ……んっ……」


しばらく貪っていると、だらんと脱力していた舌が、不意に意志を持って私の舌に絡んできたことで、吉影さんの目覚めを知ります。
いつの間にか背中に手が回されていて、気付けば抱きしめられながら深く口付けを交わしあっていました。

朝からいやらしいです。

ほんと、どうにかして欲しいですよね。起きない時は必ずキスで起こすようにと言いつけたのは、吉影さんなのです。
もう少し他にやりようがあるのでは…?と思いはしたものの、吉影さんの熱望によりこうなりました。
恋人なら別におかしいことではないと言われましたが、何だか信用なりません。
吉影さんも起きたしもういいや…と顔を離そうとして、気付きます。
動けないじゃないですか、私。


「ンッ…よしかげさ……ッ、ぷはっ……ン、くッ…はなひて、くだ……っ」
「ン〜……、ちゅぱ、はぁ、……れろ」
「ん〜〜〜ッ……!!!」


知らぬ間に後頭部まで押さえ込まれていたため、ひたすらじゅるじゅると口を犯され続けます。
なんて卑怯なんでしょう。卑怯な上に、卑猥です。

朝から。

清々しい朝から、押さえつけられて、こんな…。
必死にもがく手も意味をなさず、最後は吉影さんのパジャマに縋り付いていました。
体が吉影さんの上に乗り上げているし、私が襲いかかったみたいな図です。


「ン…はぁ。…おはよう、なまえ…。朝からっ、はぁ、…凄いね…。つい興奮して、しまったよ…」
「っ…はぁ、はぁ…。かんべんして、ください、よ…」
「すまないね…でも、とても可愛かった…」


もう一度、おはようと言ってはにかんだ吉影さんの胸板を、力ない手でぽかりと叩きました。

息も絶え絶えです。呼吸も奪われる激しさと、それから恥ずかしさのダブルパンチでフラッフラで、既に困憊していました。
こんなんじゃ先が思いやられる…!
完全にペースに呑まれていました。いけません、いけません。冷静にならないと。
なんともいえぬ恥ずかしさから顔が見られなくて、吉影さんの胸元に再び顔をうずめながら話します。


「よ、吉影さん…あの、時間…」
「フ〜〜……。それもそうだね。顔を洗ってくるよ」
「はい…」


私を傍らに置いて、以外にもスッと身を起こした吉影さんは、さっさと洗面所の方へと去って行きました。
ぽつん。そんな効果音が聞こえそうです。
布団に取り残された私は、さっきまで吉影さんの使っていた布団に倒れこみました。
いけない、と、必死に熱を冷まします。ギュッと口を結んで真面目そうな顔をしてみても、頬の熱さは誤魔化せません。
ゴロゴロと転がり、頭を振り乱します。しかしどうしても、先ほどの衝撃的な光景が目から離れそうにありません。


「た、勃ってた…よね?」


パジャマの股間のところが、こう…とても不自然な形になっているのを見てしまいました。多分ガン勃ちでした。
さっき吉影さんが立ち上がった時にバッチリ見てしまったので、間違いありません。
ちなみに寝てる時は特に普通だったので、朝勃ちではないです。
…なに素知らぬ顔して立ち歩いているんでしょう。
あれどうするんだろう…。ほっとくのかな…。
私も顔洗わなきゃ…。

昂りの余韻を残しながら、よたよたと廊下を進みます。洗面所に吉影さんはいなかったので、ぱしゃぱしゃと顔を洗いました。
来る途中お手洗いが閉まっていたんですが、あれは…。
いやいや、顔を洗い終えたからお手洗いに行っただけですよね。なに変な風に勘ぐっているんでしょうか、私は。

失礼ですよね。なんか、自分でしてるのかな〜とか、ちょっとだけ、頭をよぎってしまいましたけど。
やですね。あはは。あはは……。
……。



…扉一枚の向こうで、吉影さんがモノを激しく擦っているのかもしれない。一度思い浮かんでしまった光景は離れません。
はしたないと思いながらも、頭の中に浮かんで止まらないのは、顔を赤らめて自分の性器を弄り回す吉影さん。
さっきのキスでセックスの準備が万端になってしまった勃起したものを、こっそり自分で鎮めようとして…。
でも時間がないから、いつもより激しめに弄ってしごいて、それで…。
きっと頭の中で私のことを思いっきり犯しながら―――。




「なまえ?」
「きゃあっ!!」


いつの間に!
本気で心臓が止まるかと思いましたよ!!

お手洗いのドアが開いて吉影さんが出てきていました。
ジャー、とトイレが流れる水音がしています。私はこの音に気付かないほどあんな妄想に没頭していたのでしょうか…。


「あ、ごめんなさい。私もお手洗いに行きたくって…」
「おや、それはすまなかったね」


なに考えてたんでしょうか、私は…。
「待たせたね」と言われ、すれ違いざまに肩をポンと叩かれましたが、恥ずかしくって申し訳なくて、目をそらしてしまいました。
合わせられるはずありません。あんないかがわしい妄想をしてしまった相手の顔なんて。
つい返事もそっけないものになってしまいます。ゴメンなさい…!


「いえ、そんなに待ってないので…」
「そうかね」
「はい…」
「ま、急がなくっちゃあな。いつもより、時間が押してしまったから」
「そうですね…」
「スーツはいつものところだから、アイロン頼むね」
「はい…」
「きみで抜いたよ」
「はい……えっ!?」
「それじゃあわたしは、朝食を作らないとなぁ。ああ、手は念入りに洗ったから大丈夫だよ」
「……え!?…あっ…、あの…!!」


そう言うと吉影さんはスタスタと廊下を歩いてゆき、曲がり角で完全に見えなくなります。
行ってしまいました。

ええ。

え?


「う、うそ……」


爆弾発言です。さながらキラークイーン第四の爆弾とでもいうつもりでしょうか。ここに来てさらなる新能力が…。
ていうか、私の考えてたこと、なんとなくバレてた…絶対バレてました、あの反応は…。
私はこの後どんな顔して食卓につけばいいんですか…?いや、吉影さんはこういうの全く気にしないんでしょうけど、私は大ダメージなんです。
許されるなら二度寝して二度と外に出たくないくらいに。
とはいえ急がないと、私も大学に遅れちゃうという。もうどうしようもないので、さっさとおトイレを済ませて広間に向かいます。
最中、ここでさっきまで吉影さんが自慰に勤しんでいたことは考えないことにしました。

それにしても、吉影さんには羞恥心が欠けているのでは…。
なんであんなに堂々とお前で抜いたぞ宣言できるんですか。おかしいです。
それに、洗ったとはいえ直前にアレを握っていた手で肩ポンされたというのは中々衝撃的でした。
右手でしたからね。完全に分かっててやってます。罪深いですよ。
でもたまたま直後だったから気になっただけで、普段もある意味似たようなものですよね。
吉影さんはあの手で私と手を繋いで、あの手で私の頭を撫でてるわけだし…。
……やめましょう。考えたらきりが無いです。考えちゃいけない類の話です、これは…。
なんだか複雑な気持ちが一層増したんですが、どうしてくれるんでしょうか。

気持ちの切り替えには失敗しましたが、せめて表情は明るくしておきましょう。
いつも通り、いつも通りです。穏やかに、ちょっとニコニコ。…よし。

静かに、広間のふすまへ手をかけました。
年季の入ったこのふすまは、開ける時どう工夫してもガタガタと音がなってしまいます。


「吉影さん、おまたせしました。…あっ、待っててくれたんですか?時間ないんだから先に食べてても良かったのに」
「ダメだ。一緒にいただきますをするんだよ。そういう決まりだ」
「えー、初耳ですよ」
「食事は一緒に食べないと意味がないからね…。さ、こっちへおいで」


呼ばれるまま、吉良さんの隣の座布団に座ります。低いテーブルの上には、昨日の残りものを中心に、サラダとフルーツヨーグルトなどが用意されています。
さっすが吉影さん、健康志向ですね。病気とは無縁です。
揃っていただきますをして、朝ごはんを食べ終えました。食べ終わるタイミングも毎回ほぼ一緒で、ちょっと面白いなと感じます。
そうしたら、洗面所で並んで歯を磨き、吉影さんの着替えを私が手伝い、私の着替えは吉影さんが手伝うのが常ですが―――。


「…はい、これでよし、っと。ネクタイ結べましたよ。今日もバッチリですね、吉影さん」


そのセンスは賛否両論だと思いますが、吉影さんのスーツの着こなし自体は文句なしにかっこいいです。
私が褒めれば、吉影さんはあからさまに上機嫌になって答えます。


「フフフ。格好はちゃんとしておかなきゃいけないからなぁ〜。さて、次はなまえの番だよ。バンザイしなさい」
「ん、いえ、自分でできますから。今日からはいいんです。ごめんなさい」
「…突然どうしたんだい。変なこと言ってないで、ホラ。急いでるんだろ」
「あ、ちょっと、だめですってば!」


抵抗もむなしく、着ていたTシャツをズボッと脱がされました。
まさか強行手段に出るとは。話くらい聞いてくれてもいいんじゃ…。さすがに驚きです。
ビビる私をそのままに、吉影さんは手を止めるそぶりも見せずに脱がしてきます。
あれよあれよと衣服を剥ぎ取られて下着だけの格好にされてしまいました。


「この下着、好みだよ。昨日も見たけど、よく似合ってるじゃあないか」
「はっ…話を聞いてください!吉影さんの悪い癖ですよ…!」
「ん?なにがだね?」
「私自分で着替えくらいできます、って言ったじゃないですか。だから今日からは吉影さんにして貰わなくて大丈夫なんです。分かりましたね?」
「あ〜…、まだそんなことを言っているのか。困ったね」
「もう……!!」


我が道を行くタイプなのは知っていますが、最低限人の意見に聞く耳を持つ素振りは見せるべきかと思いますよ。
ワガママモードの吉影さんは本当に厄介です。本当に…。
しかしこの状態の吉影さんに正攻法で権利を主張しても仕方ないので、別のアプローチを仕掛けてみましょう。時間も迫っていますからね。
つい熱くなりかけた頭を冷やして、こほんと一つ咳払いしてみせます。今こそ切り替えです!
スマートに対応出来ないようでは、とても吉影さんとの言い合いには勝てません。
そう考えると、逆に下着姿なのが功を奏しましたね。チャンスです。


「…吉影さんは、こういう下着が好きなんですね。また一つ賢くなりました。…ねえ、今日は私に夕飯作らせてくれませんか?」
「夕飯なんてわたしがやるよ。それよりこの服に腕を通すんだ。そのあと、袖のボタンを留めてあげないとね」
「本当にそれでいいんですか?あーあ…残念です。いつも吉影さんの方が遅く帰ってくるでしょう?ついでに、その時下着姿にエプロンでお出迎えしようと思ったんですけど」
「……」


初めて吉影さんの顔に迷いが浮かびます。いいですね、手応えありです。最後にダメ押しで、勝負を決めてあげます。

吉影さんのスーツの腕にしなだれかかるように抱きついて、胸をもぎゅっと押し付けました。そのまま見上げると、なんともいえない表情と目があったので、にっこりと微笑んであげました。


「お出迎えだけじゃないですよ。夜は…その格好でいっぱい凄いことする予定ですから」
「ふむ。…仕方ないな。そんなに自分で着替えたいんなら、その願いは聞いてあげよう。ただし、今日だけだよ」
「んー、とりあえずそれで。とにかく、ありがとうございます」
「いいんだよ。まあ、たまにはね」


やりました、大成功です!吉影さんの気分を害することなく、目的を達成出来ました!
心でガッツポーズをして、ウキウキしながら自分で着替えを済ませます。
己の力で自立の道へと進む望みは、思ったよりあるようです。
私が自立しようとしていることさえ勘付かれなければ、このままじわじわと生活力を取り戻すことが出来そうでした。
まあ―――夜はそのぶん、頑張らないといけませんが、仕方ないでしょう。ちゃんとした生活を取り戻すためにはそれくらい安いものです。

無言で見られながら着替えを終え、戸締りを確認してから二人で手を繋いで玄関を出ました。時間はぴったり、いつも通り。
タイムマネジメント力の高い吉影さんといると、時間の心配はほぼ必要ありません。これもやっぱり、さすがですね。大人って感じです。
本当、外から見たら欠点なんてないんじゃないですかね。一度深く関わり合いになるとその夢は儚く崩れ去りますけれど。

家の敷地から出る手前で、私たちはどちらともなく立ち止まります。
吉影さんの会社と、私の大学の方向は逆なのです。必然的に、家を出ればすぐに別れることになってしまいます。
だからいつも、玄関からここまでの短い間であっても、手を繋いでいました。


「それじゃあ吉影さん、いってらっしゃい。私もきっちりお勉強してきますので、吉影さんはお仕事頑張ってくださいね」
「ああ、いってくるよ。なまえも気をつけてね。何かあったらすぐ連絡するんだよ」
「もう、心配性ですねえ。今日も何もありませんよ。講義を聞いて、帰ってくる。それだけです」


だから大丈夫ですよ。私は毎日ここに戻ってくるんですからね。あなたを捨てたりしませんよ。

毎朝この時だけは心底心細そうな様子の吉影さん。
そんな顔をするものだから、私は彼を抱き寄せて、ぐっと背伸びをして、キスをするのです。
高い塀の影に隠れるようにして、秘密の「いってらっしゃいのキス」を。


「ん……ちゅっ」
「ん、は……。よし、これで今日も一日頑張れるよ。わたしは幸せ者だ。なまえのおかげだ」
「……さ!本当に遅れちゃいますからね!はい、いってらっしゃいいってらっしゃい」
「なんだ。照れてるのか。いつまで経ってもウブだなあ。フフフ」


吉影さんの背中をぐいぐい押して、分かれ道に出ます。
赤い顔、バッチリ見られてしまいました。あんまりからかわないでほしいです。自分だって、あんな―――。
あんな、だらしなーく緩んだ顔してたくせに…。

私とは反対側の道へ吉影さんを押してから、逃げるように踵を返して、さっさと通学路を歩きます。
なんだか今日は恥ずかしいことが多すぎでした。凄いキスしたり、吉影さんが自慰したり、お着替えで攻防を繰り広げたり…もう、パンクしそうなくらいでした。これでやっと落ち着けますね。
ほっと胸をなでおろし、前を向いて進みます。

すると唐突に、あ、と呼び止められました。
何だろう、と振り返ると、少し離れたところにいる吉影さんも、首だけこちらを振り返って、こう言いました。
おそらく吉影さん史上最高のいい笑顔で。

「今日だけは仕事に精を出して、早めに帰るとするよ。『約束』が楽しみだからねえ…?」

本当、吉影さんらしいというか、なんというか…。抜け目のないひとですね。
どうやら私は、講義を聴きながら吉影さんを驚かせるようなご奉仕プランを考えなくてはいけないようです。
けっこうなプレッシャーになりましたよ、今の発言…!吉影さんは意地悪です!
軽やかな足取りで遠ざかっていくスーツの背中を見送ってから、私も気を取り直してピシャリと頬を叩きました。
―――よし!

さて、やることが増えてしまいましたが―――今日も一日、頑張っていきましょう!




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