夢小説 ジョジョの奇妙な冒険 | ナノ




世話焼きの攻防@ 自立への一歩





暗い寝室の中、目の前にある整った顔をじっと見つめます。

吉影さんと向かい合って手を握られて寝ているので、真正面かつ至近距離にお顔があります。
もう慣れましたけど、やっぱり綺麗ですよね。ついつい見入ってしまいました。
お風呂に入った後だから前髪が下りていて、どことなくあどけない吉影さんのお顔。
自分でも不思議でした。吉影さんの方がずっと年上なのに、子供っぽいと思うなんて。

ちなみに、別に毎日吉影さんの寝顔をジロジロと観察しているわけではありません。
ちゃんとした理由がありました―――というのも、目が冴えていて、眠れそうにないのです。
始まりはちょっとした違和感から。それが少しずつ形になり、いつからか無視できなくなり。
今では大きなモヤモヤになって心に霞をかけています。

吉影さんについて。
ここ数日、ぐるぐると考え込んでいます。





*********





吉影さんはとっても優しい人です。私のことを大事にしてくれます。

私が少しでも塞いだ表情をしていれば見逃しません。
優しく話を聞いて慰めてくれますし、夕飯をちょっぴり豪華にして喜ばせようともしてくれます。
いつでも私の感情の機微を感じ取り、寄り添ってくれました。
デートをすればスマートなエスコートを当然のようにこなしてみせるので、私は毎回ドキドキしっ放しです。
「大人の男性」って感じで素敵ですよね。流石です。
そんな感じで気がきく上、おまけにイケメン、まあ当然モテるのですが、当の吉影さんはというと他の人間に見向きもしないのです。

一度、女性に声をかけられた吉影さんを見てちょっぴりからかったことがあるんですが、その時の反応といったら大げさでした。
わたしにはなまえしかいないだとか、なまえだけが特別だ、なんでそんなことを言うんだ、きみはわたしが他の女性と親しくしてもいいのか、とか。
無茶苦茶しつこく反論されて、たじたじです。軽い冗談というか、「よっ色男〜!」くらいの気持ちで言ったんですけど。
謝って、優しく宥めてやっと落ち着きました。こういうところも、子供っぽいのかも。
あの時は正直ビビりましたね…。

でもまあ、本人はこんな感じですし…同僚の女性陣は積極的なようですが、変な心配は必要ないなと思います。

かっこよくて、紳士的で、浮気しなくて、金銭的にも余裕がある。
まるで絵に描いたような理想の彼氏。

…ではあるのですが、ここでちょっと困ることが。
吉影さんの口癖である、「なまえのことなら何でも分かる」という言葉通り、あの人には何もかもが筒抜けなんです。
隠し事は出来そうもありません。嘘をついてもこの人には一秒でバレる自信があります。というか、現に速攻でバレましたしね。









大学からの帰り道で、珍しく寄り道した時。女友達とその彼氏さんとでデパートをフラフラしていて、思いのほか盛り上がってしまい、吉影さん宅に戻るのが遅くなったことがありました。
たまに女友達と出歩くことはあったし、電話で「遊ぶから遅くなる」旨の一報は入れたのでそれ自体は問題ないです。
だから私は玄関で迎えてくれた吉影さんに、いつも通りニコニコしながら「ただいま戻りました」と挨拶しました。

ここからですよ、驚くのは。


「おかえり、楽しかったかい。男もいたろ?誰と遊んできたんだ?」


いやあ、怖いですね。

吉影さんの第一声がこれです。

何が怖いって、私は男の人もいるとは一言も告げていなかったのです。絶対怒ると思ったし。
思わず固まる私をよそに、吉影さんはフフフと面白そうに笑って言いました。

「いや、当ててみせよう。ン〜、…きみは男と二人きりなら断るはずだから、まず女友達が一緒だね。それにくっついてくる男といえば、その子の彼氏といったところかな。それならなまえも邪険に扱うわけにはいかないからね。だからきみも含めて三人だった。女性ばかりの中に一人だけ彼氏連れなんてことはありえない…必然的に少人数になるからな。さて、答えはどうかな」
「うっ…。当たりです、けど。なんで分かったんですか…びっくりしましたよ…?」
「なんだか笑顔が不自然だったからさ。男がいたと分かればわたしが不機嫌になると無意識に思ったんだろう。ま…別にそんなことでみっともなく怒りはしないが」
「本当ですか…?ともかく、やましいことは断じて何もありませんからね。そこだけは、勘違いしないでくださいね」
「ああ、もちろんだよ。きみを信じているからね」


言外にプレッシャーをかけながら頭をなでられました。
大人しくされるがままにしてはいましたが、内心冷や汗ものです。
吉影さんは始終穏やかでしたが、それは浮気の危険性が低い男と判断したからでしょう。友達の彼氏ですから。

しかしこの話では大丈夫だっただけで、男絡みの話になると、普段はちょっとヤバいです。
怒って暴力をふるうとかではありません。
むしろ気にしていない風に振る舞いながらも、その実大変ねちっこくなるのです。それはもう、ネットリと。
普段からそういう所があるのは知っていましたが、しかしそれの比ではありません。

私の話の中に男性が出てくるようなことがあれば、その日一日はベッタリくっついてきます。
やれネクタイが解けないだの、パジャマを着させろだの、歯を磨いてくれだの。
さながら幼児帰りのように。その後、床に着くと何回も抱かれます。

ハッキリ言って超面倒臭いです。このモードの吉影さんは正直ヤバいというか…。
普段の余裕ぶった態度は鳴りを潜め、すっかり駄々っ子になります。


まさに33歳児。
どういうことなんでしょうね。


恐らく「自分のほうを見て欲しい」気持ちからこうなるんでしょうが、それでも行き過ぎです。
お尻を拭けとか言われても、困ります。
初めて頼まれた時の私の困惑と羞恥は筆を尽くしても語りきれません…!

つい熱くなってしまいましたね、すみません。話を戻さないと…。
素敵で優しい吉影さんの、困ったところでしたね。
嫉妬しまくり&駄々っ子のコンボ、それからもう一つ。

二人で暮らすに当たって家事は分担…だったのですが、少々不器用な私を見かねて大体のことは吉影さんがやってくれています。
私が失敗しても彼は責めるでも怒るでもなく、「仕方がないね、わたしに任せなさい」と微笑んでくれます。
それ位なら、「吉影さんって優しい!」「素敵!」で済むんですけど。

本当に、それだけなら、「頼れる大人の男性」なんですけど。

……。

ある時、世話焼きが行き過ぎたのか、着替えまで手伝おうとしてきた時は流石に焦りました。
学校に行くために着替えようとしていて、服を引っ張り出していた時のこと。
恥ずかしいから部屋を出ていってはくれないかなぁ…と思いつつ、急ぎたいし仕方ないかと、私は服に手をかけようとして―――…そしたら突然手を掴まれました。

は?って顔をしてしまったと思います。

そんな私を気にも留めず、吉良さんてば、次々と私の胸元のボタンを外していくのです。何食わぬ顔で。
あ、着替えさせようとしてるんだと理解した瞬間、いやいやいやいや、おかしいでしょう、と。
当然ちゃんと断りましたよ。大丈夫ですよ、って。
それでも引かなかったので強めにハッキリと拒否しました。
気を抜くと、赤ん坊相手か!ってくらいあれこれお世話されてしまいますからね。

そういえば、「爪を切って欲しいから部屋に来てくれ」と言われて広間から顔を出したら、突然抱え上げられたこともありました。
広間から吉影さんのお部屋まで行くのにお姫様抱っこは流石に必要ないと思うんです。
隣の部屋だし。私は猫か何かですか、と。親猫に首根っこを掴まれて運ばれる子猫のようです。

しかしまあ、あれですね。

「良く言えば」、凄い至れり尽くせり。
―――正直なところ、過保護という……。

一緒にいると、生活力がどんどん下がっていくのを毎日ハッキリ感じます。
このままいけば私は一人じゃ何も出来ないような、自立から最も遠い人間になる未来が見えます。
それはもう、現実味を帯びてハッキリと。

怖すぎますよ。

何もできないし、しようとしない私と、何でもやって甘やかす吉影さん。
絶対ロクなことになりません。何か、間違っています。不健全です。

だから抗うことにしました。
このままではいけないと、本能が警鐘を鳴らしていました。
ダメ人間になる前に、変わらなければ。まずはそこから。

そして次に、吉影さんを変えなければいけません。
問題は根本から解決しなくては、後を引きます。とんでもなく骨が折れそうですが、頑張りましょう。
私たち二人のために。






********






握られた手をそっと離して、寝ている吉影さんの頬へ。そうして、そっと撫でました。
私たちが正しくあれるようにと願いを込めながら、ゆっくりと。
多分吉影さんは嫌がると思いますけどね。仕方ありません。ダメ人間コースは困りますから。

ふと、吉影さんが目を閉じたまま眉根を寄せました。
どことなく不安そうです。
何かと思ったら―――握るものがなくなった手が、フラフラと私の胸元を彷徨っていました。
毎日例外なく私の手を掴んでいましたから、きっと無意識でも癖になっているんですね。
なんだかちょっと可愛いです。こういうところも子供っぽいのかもしれません。
堪えきれずくすくすと笑いながら見守っていると、やがてパジャマの二つの膨らみに辿り着いた手は、安心したようにそこをムギュッと掴んで止まってしまいました。

ええ…。大胆…。

……。

あれでしょうか。
母性的なものに飢えているのかもしれません。

本当に寝てるのか一瞬疑いが駆け巡ります。
まあ起きてたら絶対手を掴むはずなので、別に意図的なセクハラではないのだと思いますが。
でも、なんだか、恥ずかしいものは恥ずかしい…。反応に困りながら、固まっています。どうしよう。

胸を鷲掴まれたまま眠るというのも変な気分だけど、また引きはがすのも可哀想だったので今日は特別です。…これでもいいでしょう。
明日から少し厳しく意見を主張するお詫びの代わり、大サービスです。存分に堪能しまくってください。
こんなことは二度とありませんよ!

おやすみなさい、吉影さん。明日から頑張りましょう。
間違ったことは直さないといけません。

一人では無理でも、二人なら大丈夫だと思いますよ。




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