夢小説 弱虫ペダル | ナノ




男の浪漫と新開くん




「頼むよ。着てくれないか」
「いや」


今日の部室の片付け及び鍵閉めの担当は私。この当番の日は夜遅くまで部室に残る事になる場合が殆どなので、少し面倒臭くもある。しかしこれもマネージャーの大事な仕事だ。きっちり遂行しなくてはいけない。
部員が全員帰ったのを見計らってあくびをしながらベンチから腰をあげる。
と同時に奥のドアが音を立てたので忘れ物でもした部員かと思い振り返ると、ハコガクのジャージを抱えた新開くんが存在感たっぷりにたたずんでいた。
想定外の訪問に思わずどうかしたのかと声をかけようとした瞬間にこれなので、嫌な予感がした私は咄嗟に断ったわけである。


「はい、ジャージ。着方は大体分かるよな?」
「な…なに?着るの前提で話を進めないでよね。私帰るから新開くんも遊んでないでさっさと支度しちゃいなよ」
「ちょっとでいいから…まあ減るもんじゃないしいつも部活頑張ってるオレへのサービスだと思って、な!」


意味が分からない。どうして私がハコガクのジャージを着ることが新開くんのためになるのか。しかし今日の新開くんやたらグイグイくるなぁ。大抵の無茶振りなら途中であっちが折れてくれるのがいつもだけれど、今はなんだか謎の気迫すらある。奴は……本気だ。


「ねぎらうにしても他のことにしようよ。あといきなりすぎるのは良くないから要検討でよろしく」
「いいよ。けどもっと無茶振りするけどその時なまえに拒否権はないぜ?おめさんが選んだ事だからな」
「無茶言わないで。さ、もう誰もいないし鍵閉めて帰ろうかなー」
「密室に二人きり…これは事件が起こる流れだな。推理小説じゃ定番だ」
「私は帰るって言ってるの!勝手に巻き込まないでよ、新開くんだって疲れてるでしょ?一刻も早く寮のベッドで寝たいよね?今日だって練習頑張ってたの私見てたんだから。ああ、そういえばタイム上がってたよね、おめでとう」


予測できなかったであろう私の突然の褒め言葉に新開くんは頬を赤らめてもじもじしだしたがハッキリ言って気持ち悪いので勘弁して欲しい。筋肉ムキムキの177センチのもじもじに悶えるような性癖は生憎持ち合わせてはいなかった。
が、ともあれ褒めて満足させる作戦は大成功だ。このまま適当に流して、私はさっさと帰りたい。


「ちなみにこのジャージはオレのだ」
「尚更嫌だよ!!」

直接肌に…それも際どい所に触れているものを着るのは流石に断固拒否。新開くん、なんか今日は変だ。


「なんでそこまで食い下がるの?なんか怖いんだけど…」
「だって、どうしてもなまえに着てもらいたいんだよ……一度でいいからさ!」
「その一度が嫌だって言ってるんです〜、分かってよ」

尚もじりじりと近づいてくる新開君をしっしっと手で払うが、彼はいつも通り飄々としておりどこ吹く風だ。強靭なメンタルを屈させる事は出来ないらしい。
レース中ならともかく、こんな下らない事で意思の強さを発揮させないでほしい、切実に!


「きっと体のラインが強調されてすげーいやらしいぜ、さあ」
「本音それなの!?そんなこと言われてよし着よう!って快諾する人がいると思うなら病院に行った方がいいよ」
「嫌だな、冗談に決まってるだろ」


じわじわと距離を詰めてくる新開くんが異様に怖い。この気迫は……鬼。そう、鬼だ……!


「えっ…えっ…ちょっと……、と、止まって……」
「……」
「怖い!!無言とか怖いからやめて!!……まじで何なの!?」
「……」
「ひっ……」


壁に追いやられた私は、新開くんに肩を掴まれてとうとう硬直した。背には壁、目の前には新開くん。……万事休す。


「おっ、捕まえたぜ。ヒュウ、オレの勝ち」
「……」


今度は私が無言になる番だ。目を見開き、魂は半分抜けて、ただ固まっているだけの置物と化した。
そんな私に顔をぐっと近づけて来た目の前の男は、一体これから何をしようというのか。
タレ目の瞳に正面から見つめられ、しっかりと目を合わせられる。ち、近い……。やっぱり怖い……。
飄々としてる時はなんだかんだで親しみがあるんだけれど、なんか、こういう……真面目な時の新開くんって怖いよ……。人が変わったみたいにすら思える。雰囲気が、全然違う。どうして?


「んー、なまえ?固まっちまったな」
「……」
「オレさ、怖い?」
「……」


必死にコクコクと頷いた。青の瞳からは一瞬だって目がそらせない。何されるのか予測不能な気がして。

「そっか」

不意に、ちょっと寂しそうな顔をして、新開くんから怖い雰囲気がすぅっと抜けた。真面目な顔から一変、いつもの人の好さそうなニコニコ顔になっていく。

「……おし、捕まえたからには獲って食っちまおっかなー。オレがおめさんのその制服を脱がして、ピッチピチのジャージに着せ替えてやるぜ!興奮するな!」
「……な、な、なッ」
「なーんてな。冗談、冗談!!ははは」
「……はぁ?え、は……し、新開くん……」
「さっ、帰ろうぜ。送ってくよ」
「う、え、あ……」

突然の変わりように私は馬鹿みたいにしどろもどろになってしまう。おろおろしていると、見かねた新開くんが私のカバンを持って来てくれる。
え、一緒に帰る流れなの?新開くんは寮だから、途中までだけど……。変わり身の早さが凄すぎて、今は今で別の怖さがあるのですが。


「し、新開くんってさ。いつもニコニコしてるけど、何考えてるの?」
「オレ?なーんにも考えてないよ。しいて言えば、ウサ吉のことは考えてるな」


は、はぐらかされた……。新開くん、底が読めない!やっぱりどこか怖い!




ちょっとからかうつもりだったんだけど思いの外怖がられちゃった新開くんです。


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