夢小説 弱虫ペダル | ナノ




きっと私は、ヒロインになる


今泉くんはけっこうモテている。
確かに綺麗な顔立ちをしているし、自転車も速いし、背も高くて、クールで、お金持ちで……と、いい所をあげていけばキリがないくらいで恵まれているなあと改めて感じるほどだ。
そりゃあ当然モテるだろう。
ファッションセンスはちょっと問題あると思うけどね。USAGIはちょっと……アレだと思うよ。いえ、本人が気に入っているならいいと思いますけどねー。一見ダサいけど、見方を変えれば「今泉くんってクール系なのにあんな個性的な服とか着るんだ、可愛い〜」ってなるかもしれないし。なるかな。……いや、ならないわ。やっぱりあの服はないよ。

何故突然こんな事を言い出したかというと、当の本人にオレはモテてると思うか……とか聞かれたからだ。部室で整理整頓してたら、練習から帰ってきた今泉くんとたまたま二人になって、まあ適当に話してたら、突然。いきなり何なんだろう。今日は部活、私達が最後だし雑談どんとこいですけどね。
しかしそれにしても、……モテてるの無自覚かよ、と心の中でつっこまざるを得ない発言である。
「そういうこと」に全く1ミリも興味のないような自転車バカだと思っていたが、若干頬を染めながら聞いてきたところに少し年相応の所が見えて、一応気にはなるんだ、面白いなと思った。
そんな事絶対に言えないけどね。怒るし。
かわりに「そうだよ、モテてるじゃん」と、ありのままを教える。


「ふーん…で、オレってどういう感じに見えるんだ。なんか…こういうタイプとか、ほら。あるだろ」
「今泉くんが何キャラかって話?えー、なんていうか……見た目ならやっぱりキラキラの王子様系?性格は王子様とは程遠……ちょっ、パンフレットでぶつな。痛いっての。あとはファンクラブあるからアイドル!みたいな感じじゃない?女子からしたらさ〜、手の届かないイケメンみたいな感じだよ、多分。分からないけどさ」
「なんだよ王子って。ていうかもっとこう……女子じゃなくてなまえ的にはどうなんだよ」
「え、私?私からしてみれば…うーん…。あぁ、アレだよ!!イケメン御曹司キャラみたいな感じ!少女マンガの何でもできる系のイケメンで〜っ、密かにクラスの憧れ的存在で注目を集めてて?ヒロインとはぶっきらぼうな幼馴染って関係なキャラかなあ。そういうキャラがたまに優しさ見せたりするとヤバイよね!私でもキュンとくるし」
「なんだ、それ。やたら細かいな……」


呆れたように笑う今泉くんに私のお勧めの漫画を紹介する時がきたようだ。ラブヒメ好きなら少女漫画だって意外といけるんじゃないかなって、ずっと思ってたんだよね、私……!この機会に今泉くんをこちらの趣味にも引きずり込んでやろう。ふっふっふ。
私と寒崎ちゃんと今泉くんで、少女漫画談義に花を咲かる様子を想像して意外と面白そうだなーと思った。自転車以外にも共通の話題があるっていいよね。絶対楽しいし。


「ん、ちょうど昨日そんな少女漫画読んだからね!けっこう今泉くんにピッタリなキャラだったよ?特に外見が凄くそっくりで!ぶっちゃけ途中から『これ今泉くんじゃん?』って思いながら読んでた」
「へえ。まあ、そこまで似てるって言われると気になってくるもんだな」
「今度貸してあげよう!……って、あ〜。でも時間、ないかぁ……。私生活まで自転車づくしだもんね。というかちゃんと休んでんの?」
「当たり前だ。体調を万全にするのも調整のうちだからな。それに、漫画読むくらいの時間なら取れるぞ」

まじで。

え、いいのかな。本当に貸しちゃおうかな。今泉くんと少女漫画談義……できるのか!?うわめっちゃ面白そう。恋する男女の心理的なあれこれを今泉くんは果たして理解して楽しめるのか。うーん、気になるね。

「じゃあホントに貸しちゃうね!やったー、けっこう嬉しい」
「おい、まだハマるって決まった訳じゃないからな。ちなみにどんなストーリーなんだ」
「えっとねー、まあ王道モノなんだけど、まずはヒロインが―――」

時折スマホ画面で重要シーンを見せたりしつつ、説明する。今泉くんが一緒になって画面を覗き込んで来た時はちょっとビビった。たまに……突然距離感が狭くなるんだよね。まあ漫画に興味持ってくれてるなら別にいいか。それにしても顔カッコいいな。それは素直にそう思う。羨ましいやつめ。
至近距離で見る切れ長の目、スッと通った鼻筋、サラサラの黒髪なんかに時折目を奪われつつ、話は続ける。
あらすじだけと言わず、見どころや作者のこだわりなんかも交えて話していくと、今泉くんは熱心に聞いてくれて正直ちょっと嬉しかった。けっこう奥が深い話を書く人だから、ハマれば最高に面白いのだ。今泉くんの反応も悪くないし、これはけっこう……イケる人かもしれない。


「まあストーリーはこんな感じかな。ね、やっぱりこの男の子今泉くんに似てるでしょ?ストイックなとことかさ」
「まあ……そうも言えるかもしれないな。見た目とか、けっこう近い」

イケメンキャラに対して見た目が近いとか堂々と言えちゃう今泉くん……強い。初めて見たぞそんなやつ。さすが真のイケメンは違うな。二割引いて八割納得したよ。

「あは、でもそうなると……ヒロインが幼馴染だから、当てはめるとすれば寒崎ちゃんだねぇ。あっ、髪型も似てるし」

お目目ぱっちりで女子力ばっちり、笑顔が可愛いですし。あ、寒崎ちゃんだ、これ。
可愛くて、芯が通っていて、ハッキリしているこのヒロインは、私の憧れだ。

「は…」
「ん?」

それまで割と柔らかい雰囲気を纏っていた今泉くんが固まる。なんだなんだ。

「どうしたの?今泉くん」
「別に」

座っていたパイプ椅子をガタリと鳴らして足を組んだ今泉くん。
不機嫌オーラを全身から溢れ出させておいてどう見ても「別に」はないだろとしか言えない。誤魔化す気すらなさそうなダダ漏れの黒いオーラにツッコまない訳にもいかなかった。
いいだろう、お前がその気なら私だってウザく絡んでやろうじゃないか。構ってちゃんみたいな事をする今泉くんが悪いのだ。

「おーい。いきなり何拗ねてんのー」
「拗ねてないだろ」
「言わなきゃ分かんないよ〜」
「……」
「今泉くーん」
「……」
「俊輔くーん」
「……いきなり名前、呼ぶな」
「別にいいじゃん。今泉俊輔でしょ。違かったら誰なの。いきなりホラー展開だよ。怖っ」
「そういうのじゃないだろ……」

じゃあどういうのだというのか。まあなんか、機嫌は治ったようで良かったけどね。私の勝ち。

「……このヒロイン、どっちかっていうとお前に似てるだろ」

今泉くんがポツリと漏らした言葉は、意外なものだった。
ていうかそんな事かい。ちょっとした意見の食い違いでで突然拗ねられるとビックリするよ。というか似てないし。見た目とか……可愛くないし。

「わっ、私、似てないよ。もー何言ってんの、びっくりしたじゃん」
「似てるぞ。向こう見ずで後先考えずに突っ込んでいくとことか、アホっぽいとことかソックリだろ、これ」
「は?ふざけるなよ今泉くん、もうこの暴言は金城先輩に報告するんで」
「フッ……」

呆れ風に笑われて普通にイラっときた。
うわームカつく!!鳴子くんと言い合いしてるところを見かけたら、今度から鳴子くんに加勢するからな!!このスカシめ……。
一瞬だとしても、本心からドキリとしてしまったのが今はもう恥ずかしいだけだった。一生の不覚だ。恥ずかしさを誤魔化すように私は軽口を叩く。

「あーあーあーっ、もういいですよー。どうせ私はただのアホで、可愛くないですからね〜」
「可愛くないとは……言ってないだろ」
「えっ……」

は?

「可愛くないとは言ってないだろ」
「え、いや、聞こえたから」
「ならいい」
「あ、そう」
「ああ」

全くよくなかった。いきなり……変な事言われたらリアクションに困る。案の定変な空気が流れてるし、どうしてくれるの。なんで今泉くんとこんな気まずい事に。ていうかなんで私に、可愛いみたいなこと言うの。

今泉くんをちらっと盗み見するも、拍子抜けするほど普通の表情をしていた。なんだかよく分からなくて、余計に混乱した。

「……はは。そういう事言ってるとホントにさっきの王子様キャラみたいじゃん。モテるよー、きっと」
「……はぁー」

今泉くんが吐いた盛大なため息で、ようやく場の空気が緩むのを感じた。ああもう、息が詰まりそうだったけど助かった……。ああいう落ち着かない空気は苦手なのだ。今泉くんとはいつもバカな事を言い合ってたい。楽しいから。たまに本気でムカつくけど。

「まぁ、漫画は借りるから。面白そうだしな、興味ある」
「良かった。じゃあ明日持ってくるから楽しみにしといてよね!」
「……いや、せっかくだし、放課後うちに持ってきてくれないか」
「いいよー。……って、え?今泉くんの家に?いいの?」

……ん?話の流れが変わった気がする。なんでそうなるんだ。単なる私の二度手間になるのでは。

「その方がもっとゆっくり色々語れるだろ。……明日、親いないし、来いよ」
「あ、その方がね、確かにいっぱい語れるもんね。あー、なるほどなるほど」

最後の一言はいらなかったと思うのですが。
そういうのって、付き合ってる同士とか、好きな人とかに言うものであって……。
今泉くん、そのセリフ使うシーン、絶対おかしいんだからね……。

さっきから調子を狂わされてばかりだ。今日の今泉くんはいつにも増して変だ。もしかして明日も変なんだろうか。そうだとしたら、ちょっと怖い。今は部室っていう公的な空間だからまだなんとか平気だけど、ほんとのほんとに二人きりな時に今日みたいな事とかを言われたら多分、恥ずかしくなっちゃって軽口すら返せないと思う。もしそうなったら、私はどうすればいいんだろう?
明日私は今泉くんと、ちゃんと話せるのだろうか。そもそもなんでコイツ相手に、こんなにドギマギしなくちゃいけないんだ。

……ほんっと、釈然としない!


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