夢小説 弱虫ペダル | ナノ




ユキへ差し入れ




秋の肌寒い夜風に晒され身震いする。さっさと部室に戻りたい。ジャージの上から腕を擦っても、あまり暖かくならなかった。
遅くまで残って自主練に励んでいたユキに差し入れでもしようかと思って温かいボトルを片手に姿を探していたら、意外とあっけなく見つけてしまい少し拍子抜けする。まあ、ここにいるんだろうなと思ってたからいいんだけど。

部活棟の端、普段もあまり人気のないここのベンチにユキはよく居た。もともと私の隠れたお気に入りスポットだったのだけどここでよくお昼を食べているのをユキに見つかってからというものの、彼もここが気に入ったようですっかりベンチの左端はユキの定位置にされてしまった。
今は練習の熱を冷ましに来たのだろう。街灯の下、オレンジの明かりがユキの銀色の髪を闇夜に綺麗に浮かび上がらせている様子はなんだか綺麗だ。いや、見とれてる場合じゃないな…寒いし、早く戻らないと。
足音を消して背後からゆっくりと近づく。
冷たくなった指先をこっそり近づけていく。狙いはユキの首元なのだ。


「ユーキーちゃんっ!お疲れ!!」
「冷たッ…!?……はぁ、なまえさん…びっくりしますよそれ!」
「ふふふ、それなら成功だね」
「まったく…」


どうしようもない先輩だなあとでも言いたげなジト目がちょっと痛いが、いつもの事だから今更気にしても遅い。
ユキは同年代の子と比べて大人びているところがあるから、たまにこうしてからかいたくなっちゃうんだよね。


「はいどうぞ。えーと、なんだっけ。…ポカリでもいいかい?」
「全然似てないですよ。ありがとうございま…うわ、なんかあったかいんですけど」
「ユキちゃんが凍えてるかもと思ってレンジでチンしてきたよ」
「どんなサプライズなんですか」


すとん、と私がユキの右隣に腰掛ける。ここまでがこのベンチでのお決まりだ。…と思ったら今日はユキが少しこっちに詰めてきた。確かに今はこれの方が寒さが和らぐしいいかもしれないな、と私も若干ユキの方へ体を寄せるとビク、と肩を揺らした。というか不審げに見られている事に気付く。ひどいな。


「どっ、どうしたんですかいきなり…」
「ん?いや、暖かいかなーと…ほら、夜風って体にしみるでしょ?」
「…なんだ、湯たんぽ代わりですか。びっくりした」
「ユキちゃん体温高いねぇ」


寒いなら貸します、とご丁寧にも羽織っていた上着をかけてくれようとしたのを、それじゃあユキが寒くなるからと断ったものの中々両者とも引かなかった結果の妥協案として手を握られた。私の手はユキの大きな手にすっぽりと覆われて、包み込まれて温かい。さっき異様に冷たかったのが気になったらしいが、優しい後輩に心の方が先にぽっかぽかである。


「ねえ…。前から気になってたんだけど、葦木場の真似ですか?そのユキちゃん、って呼ぶの」
「うん。響きが何だか可愛かったから私もそう呼ぼうかな〜と、ね。…もしかして嫌だった?」
「そういう訳じゃありませんけど……とりあえず他の呼び方にしません?女の人からのちゃん付けってのは変に恥ずかしいもんなんで。あと他にそう呼ぶ女性がいないせいか…彼女か、とかめちゃくちゃ聞かれるし」
「分かったよ黒田くん」
「雪成でいいですよ」
「ていうか余計な迷惑かけちゃってたみたいでそれはマジでごめん。知らなかった…」
「いや、別に、…全然いいんで」
「そう?」


全然いいなんてことはないだろう。私が彼女とか、なんか申し訳ない。ユキはけっこうイケメンだし、なんでも出来るから当然女子人気も高い。


「ていうかさあ、ユキちゃん、彼女とか作らないの?」
「…なんですか急に。先輩も、意外とそういうの気になるんですか?」
「まあねー。だってすっごくモテるでしょ?一人か二人くらい彼女いたって不思議じゃないなーって思ってね!告白全部オーケーすれば雪成ハーレム作れるんじゃない?やったね!」
「いやいやいやいやおかしいでしょ…!!なんですかハーレムって!つーか告白だって好きな人からじゃないとほんと意味ないんで!」
「えー?おや?これはこれは…ユキちゃん好きな人いる感じ?」
「っ……。なんかおかしいですか」


わわー!新事実!どうやら私の可愛い後輩ちゃんは、青春真っ只中らしい。
でもまあ、そりゃそうか。
ユキみたいなカッコいい男の子は、きっと可愛い女の子に恋をするんだろうな。


「や、びっくりはしたけど別におかしくないよ。逆、逆。私から見てもユキちゃんかっこいいしさ、コミュ力高いし、確かに恋とかしてそうな感じするもん。そういやイケイケ男子だったねー、ユキちゃんは」
「イケイケかは知らないですけど…。でも、まあ確かに好きな人はいますよ。…言っておきますけど、オレ、真剣なんで」
「あ、そうなんだね。せっかくだし私も応援しちゃおうかな。なんか力になれることがあったら、言ってね」
「……はーーーぁ」
「ん?どしたの?ため息なんてついちゃって」
「何でもありませんー……」



2014.12.5


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