夢小説 弱虫ペダル | ナノ




そんな意地なんかいらない





「じゃあよろしくやで?ププ……マネージャー、さん」
「わ、かってる…よ!」


御堂筋くんのベルトのバックルにかけた指は緊張で上手く動かない。
もたついている私に痺れを切らしたのか自身で前を寛げてしまわれ、目の前には普段お目にかかる事のない彼の下着が晒された。
この時ばかりは黒の下着似合うなぁなどと呑気に考えている余裕はなく、その下が、薄い布地を少し押し上げている事に気づいた私はやっと現実的に事の重大さに気付いたのだった。














少し前。選手の体調管理もマネージャーの務めやよね?と御堂筋くんに唐突に確認されたので、私は普通にうんと答えた。だけどそれが駄目だった。
なら話は早いと言わんばかりに口をにっこりと吊り上げ目の前の我が部のエース様は凄いことを平然と言ってのける。


「処理手伝ってくれへん」
「……ん、え〜と?」
「抜くの手伝え言っとるんやけど」
「ごめんちょっと無理かなそれじゃ部室の鍵ここに置いておくから最後戸締りよろしくね」
「……待ち」


瞬間、肩をがっしりと掴まれそのまま壁にぐっと押し付けられる。所謂壁ドンに似た体勢に今は当然ときめかなかった。
むしろ身長差を顕著に感じてしまってこわい。逆光なのもあいまってこの威圧感だ。
背中に伝わるコンクリートの冷たさがやけにハッキリと感じられた。もしかしてこれは本気なのだろうかという考えが頭をよぎる。


「ごめんなさいほんと勘弁してください」
「これもマネージャーのお仕事やてキミも言うたよね?ボクは嫌やとかなまえちゃん仕事に私情挟むとかクビやで?それに手伝う言っても簡単なことだけや。なまえちゃんがどんだけ物覚え悪くてもできるような事やし。分かったらこっち来い」


やたらグイグイくるなあ…と思いながらも引きつった半笑いで適当に濁した返事を返すしかない。


「……私そういうことあんまり分かんないから嫌とか以前に不可能だよ本当に。うん、できない」
「そんなんボクが全部教えたるからなまえちゃんは安心しててええんよ」
「……変だよ、そういうのは」
「これも重要な調整のうちに入るんやからおかしいことなんか何もあらへんよ?変なこと言うなあキミィは」
「わ、私が変なの…?」


あながち間違ってないけどね。
嫌がる言葉を並べつつも、実は本当におかしいのは私だ。
もともと御堂筋くんに興味のあった私は心のどこかで少しだけ期待している。そう、少しだけ。ラッキーかもなぁとも思っている。
しかしだからと言ってはいやりますと二つ返事でがっついても女子として良くないのだろうし、からかわれているだけだったらもっと恥ずかしい。
ならば形だけでも私はしぶしぶ了承したという流れにしておきたいと思った。ずるいのは承知の上だ。


「…鍵は、……流石に閉めていいんだよね?」
「ん、もっと駄々こねるかと思ったわ、今日は随分とものわかりええね」


珍しい、と少し訝しげな表情で見つめられるが私にはいかにもマネージャーっぽい理由もある。


「御堂筋くんの勝利のために必要な事なんでしょ」
「それもそうなんやけど」
「私は勝ってほしいから」


本音半分、建前半分である。
勝利を貪欲に求める御堂筋くんは何より好きだ。いつもの彼からは想像もつかない程にガツガツしていて男らしさに何だか胸がぎゅう、となる。
キミも大概やな、と呟き御堂筋くんは近くにあったベンチに腰掛けた。すらりとしたその女子顔負けの白い足を開いた間に私は座らせられ、これからどうすればいいか何となく想像がついた。

そんな感じで今に至るのだが、いい加減顎が疲れてきた。地味にしんどいのだ。
口の中も変な味がする。


「…ん。もうええわ」


おでこを押されて彼のそこから顔を離される。…御堂筋くんイってないけどあれかな。下手すぎて興ざめだわーもういいわーみたいなあれかな。
などと心配になっているといつの間にやらタオルを敷いていたらしい床に転がされたが、御堂筋くんにしては優しい手つきで珍しいな、と考える私はこの時冷静な判断力に欠けていた。
ずっと口にものを咥えていたせいで脳に酸素がいっていなかったのだと思いたい。ぼぅっとした私はあれよあれよという間に御堂筋くんに組み敷かれる形になったのだった。
心なしか息が荒く頬もうすく紅潮しているように見える御堂筋くんに見下ろされ、呑気にも「あぁ御堂筋くんも人間なんだよなぁ…」と当たり前のようでいてどこか忘れがちな事実を再認識する。
ストイックな御堂筋くんの、裏の部分を暴いてみたい。知りたい。そういった知らない部分にどうしようもなく惹かれる。
抵抗は、しようと考えもしなかった。















数度感触を確かめるようにゆっくりと動いた後、掻き回すように中を何度も突き上げられる。


「う、ぁんッ…!?やっ、いきな、り…っ!」
「大丈夫やから、力ぁ、抜き…や」


痛かったところが彼のものと馴染んで来てそれは段々と水気を帯びた音に変わっていくことで嫌でも分かってしまう。聴覚すら犯し尽くされるような感覚に落ちて行く。
それに伴い御堂筋くんの動きもスムーズになってきて好き勝手に暴かれていった。
ひたすら揺さぶられ、たまに噛まれ、舐められ、ひとつひとつの刺激に体が跳ねる。

……あれ、なんで私こんな事してたんだっけ。


「ゃッ!ぁう、ひッ……ぁ!ぅ、んむ”ッ……!?」
「あんなぁ、なまえちゃん……ちょっと声、大きいッ……、わ」


背後から伸びてきた大きな手で口元をすっぽりと覆われて、ただでさえ呼吸が辛いというのにさらに苦しくなる。
といっても今はガクガクと揺さぶられる動きにどうにか意識を保つので精一杯で抗議の声をあげることも難しい。
彼の体のサイズに合ったあれは私には少し大きすぎるのだと思う。
そもそも私はそんなに体が大きくないのでいっぱいいっぱいの状態なのだ。長身の御堂筋くんに覆い被される様は押し潰されているようにも見える。
まるで獣の交尾を思わせるこの格好も、オスとしての御堂筋くんに支配されているようで高ぶる気がした。
私にのしかかる御堂筋くんの表情はきっととても扇情的なのだろう。ロードに乗ってる時にも負けないくらい男らしいんだろうな、といくら想像を膨らませてもこの体勢では見えないのが惜しい。
色々と言いたい事はあるものの、御堂筋くんが気持ちいいならこの苦しさも悪くないかもしれないな、と熱に浮いた考えがかすめた。


「や、……みど……ッ、みどく、もうッ」
「ン、もうちょい……もうちょいやか、ら……」
「ぅあ!?ぅ、……ッ!!やぁ、嫌だよッ」


逃がすまいとするかのように腰をガッチリ抱え込まれる。というか思い切り抱きつかれていると言った方が正しい。
そうして捕らえてからガツガツと力まかせに腰が振られる。


「ひぁ、ッ、あッ!?これッや、だっ!」
「はっ……、ン……、なまえ、はぁッ」


もう少しというのは本当なようで、今迄よりさらに強く腰を打ち付けてくるたび私のお尻と御堂筋くんの腰あたりがぶつかって肌と肌の生々しい音が響く。痛い。
いかにもこういう事に慣れていませんよ、という感じのあまりに無茶苦茶なゆさぶりと頭上から聞こえる荒い息に私も興奮していて、もうほとんど何も考えてなどいられなかった。


「ふぅッ…、…!!あ、……はぁっ…んん……!」
「っぁ……、……、なまえっ……なまえちゃん、すごい、ッく」
「ふぁ、ッ!?」


最後に一番強く奥に押し込まれ、御堂筋くんの押し殺したような掠れた声が聞こえたと思ったらそのまま体を震わせた。御堂筋くんの勢いの良い熱い精液を受けるたび敏感になったそこが満たされていき、意識がぼーっとする。数回にわたって出し続けられるそれを、ただただ奥で受け止めるしかできない。きもちいい。


「は……ッ、はひ……」
「……、は、ぁ」


浅い呼吸を繰り返す二人ぶんの音だけに包まれる。
ゆっくりと引き抜かれるというより引きずり出されるといった方が近い感覚に思わず私も体を震わせた。
栓をなくしたそこから太腿を伝って御堂筋くんが出したものがどろどろと溢れてきていて熱い。どうせ普段もろくに抜いてないのだと思う。すっごく濃くて量も充分だ。きっと今私の中はたぷたぷになってしまっているに違いない。
激しさに疲弊した私は、ゆっくりと沈む意識を拾いあげる術を持っていなかった。













なまえが脱力し倒れそうになり、力の抜けた体を慌てて抱え込んだ。失神でもしたのかと焦って顔を覗きこむがどうやら眠っているだけらしいと分かり安堵する。
と同時に、罪悪感めいた何かががこみ上げてくるが、そっちは無視する事にした。
なまえの頬に伝った涙のあとはまだ乾いていない。


「……。」


そこかしこはだけた自分の服を軽く整えてからなまえの内腿に伝う情事の痕をティッシュで拭き取り身支度も済ませる。ちなみに、ブラジャーのホックを留めるのには大変苦戦させられた。
すっかり力の抜けた体は温かく柔らかい。今しがたしたばかりだというのに変な考えが頭をよぎりそうになったのを見て見ぬ振りで誤魔化した。
このまま寄り添っているのはどうにも落ち着かない。立ち込めた性臭をどうにかせねばと重い腰を上げ、部室の窓を開ける。
部室から事後の匂いがするのは非常にまずい。というかそもそも神聖なる学び舎で淫行という時点で既にまずい。軍法会議モノだ。
情事のあとを残さぬように、なまえが起きた時には夢だったのかと錯覚するくらいには部室を元通りにしようと意気込みのそのそと後処理を始める。
しかしそうして気を紛らわせても、やはり自分の下で乱されるなまえの姿が脳裏に焼きついて離れそうもなく、思わずこぼれた溜息は誰に聞かれることもなく消えていった。














目が覚めた時、最初に見えたのは薄暗い部室の天井だった。電気は消えている。


「なん、で、真っ暗……」


自然と口から出た声はちょっとかすれているのが分かり、とりあえず水飲みたいなあ、と一人考える。


「電気ついてたらボクらおんのバレるやろ」


一人じゃなかった。
独り言に不意に返された答えに目を見開いてから、ああそういえばとさっきまでしていた事を思い出し納得した。
正確には思い出すというより認めたという方が合っているけど。
暗闇に溶け込むようにして少し離れたベンチから御堂筋くんがこちらを見ていた。
一瞬幽霊とかの類かと緊張が走り体が強張ったのも仕方ないだろう。なんていうか、闇と同化しているかのように見えたのだった。
その景観はちょっとしたホラーではあるが、とりあえず人間であることに安堵を覚え息を吐き出す。

最終下校時刻はとうに過ぎてしまっていることは確認するまでもない。
早くここを出なければと気持ちが焦るが私には聞いておきたいことがある。
ねぇ、と黒い影に声をかけるとなんや、と返ってきたが目を合わせてくれない。


「もしかして、他の選手にもこういうサポートしなくちゃならないの…?」
「ザクは自分でやればええ」
「御堂筋くんのいうザクっていうのじゃない人にはするんだ」
「…何て言って欲しいん?」
「別に」
「あ、そ」
「ていうか真っ暗じゃん」
「…送ってくわ。ボクの過失やからね」


やはり合わない目線にもどかしさを感じたのは気のせいではない。


「……ねぇ、どうして意地張るの」
「……何がや」
「少し他とは別の扱いしてるでしょ、私のこと。どうしてかなって、聞きたいんだよね」
「なっ……キ、キモッ……いわ。何言うてはるのか自分分かっとるんー?」
「分かってるよ、そんなの。で、別に特に何も思ってないって?」
「……せやけど?キミィは我が部のマネージャーやけど、なん?違うん?」
「…ほんとに意地でも教えてくれないつもりなの?御堂筋くんは自分の気持ちを認めて、受け入れると重くなるからってそれも捨てちゃうんだ。でもそうして見ないふりするのってなんだか強さとかじゃない気がするよ」


ここで強気で畳み掛ける。あそこまでした以上、なんとなくでこのままいる訳にはいかない。
今聞かなかったら、きっと今日の事を後悔する時が来るはずだからだ。


「……」
「そう。じゃあいつも私が部室の鍵閉めるまで律儀に待っててくれるのはどうして?御堂筋くんは休み時間いつも何か書いてるか寝てるかいないかのどれかだけど、日直のペアがサボってた時に黒板消しとか手伝ってくれたり気にかけてくれたのは?あとこれは気づいてないかもしれないけど石垣くんとかと話してるといつもこっちチラチラ気にしてるよ?」
「……!?は、ボク、が……そんなん、別に……何もないし普通やろ。なまえちゃんがおかしいわ気にしすぎとちゃうの」
「……ふーんそっか!!今度から石垣くんと帰るからもう待っててくれなくていいよ!電話すれば夜道危ないから〜ってすっ飛んで迎えに来てくれるし!紳士だからね!……もしもし、石垣く…あっ」
「ボクが送る言うとるやろ!」
「いいよ石垣くんがいるから……ケータイ返してよ」
「……うっさい。キミはボクと帰んのや」
「……それは、どうして?」


沈黙が、じれったかった。これでまだハッキリしてくれないようなら、私の気持ちも壊れてしまうような気がした。
人とあまり関わりたがらない御堂筋くんが私とは一緒に居てくれたくせに。今更どこに言葉にするのを躊躇う理由があるんだろうと言ったら、自転車をやるのに不要…というか邪魔になるものを自分が抱え込んでいる事を認めたくないからじゃないかなと考えてみたけれど。
というかこの態度からしてきっとそうだなという確信が持ててきたけれど。

私が手を伸ばしても高く掲げられたケータイには到底届きそうもないのは一目瞭然だからきっと油断していたのだろう。
御堂筋くんはむすっとした表情のまま無駄だとでも言いたげにこちらを見据えるのみ。
でも残念、私が伸ばした手はケータイじゃなく彼の頬へ。これは不意打ちだったろう。
そのまま隙のあるうちにぐいっと多少強引に顔を寄せれば目の前のまあるい瞳が揺らいだのを見逃してはあげなられない。
そろそろここらで私も逃げるのはやめだ。


「ねえ、教えてよ」


息の詰まりそうな沈黙のあとで、彼の薄い唇が微かに開かれた。
次に紡がれるだろう言葉を、私は期待して待つ。







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