夢小説 弱虫ペダル | ナノ




年下が上手





「う……」
「大丈夫ですか先輩、もっとこっち寄って下さい」
「ありがとう、ユキちゃん〜……」
「ちょ、本当に大丈夫ですか?」
「平気平気、えと、ちょっと疲れただけだよ。にしてもこんなに混むとは思わなかったね〜、流石に」
「あー…確かにこれは想定外でしたね…」


いわゆる敵情視察で他校まで行った帰り道の電車。
差し込む赤い日が車内を染めている様は綺麗だけれどそれをゆったりと眺めてセンチメンタルになっている余裕はあまりなかった。
段々混み合ってくるからもしやとは思ったが私達は運悪くラッシュの時間帯に重なってしまったらしい。
人酔いするから人混みは苦手だが長身のユキが私を庇うように立ってくれているため、今のところ苦しいとかはない。
日常の様々な場面でさり気ない気遣いの出来る子である。
超頼もしい。偉いよユキ。
友達に言わせればこういうのが彼氏力高いと女子の間では専ら評判らしい。
なんとなく頷けたけど私にとっては男の人というよりちょっとプライドの高い可愛い後輩くんだ。

ユキはとてもモテるっぽいのに彼女がいないっぽい。
直接本人に聞いた事などないから、「っぽい」。
まぁ色恋沙汰にうつつを抜かしているような暇があったら打倒荒北くんという目標のため練習に明け暮れているんだろうな、とか他愛のないあれこれをぼーっと考えていた時だ。


「あっ」
「わ、んんっ!?」


突然の圧迫感に一瞬息が詰まるが、なんとなくどういう事か察して落ち着きを取り戻した。
それにしてもなかなか痛いが。
今の駅は別段混むらしく、ドアが開きちょろっと人が出て行ったと思ったら次の瞬間、一気に人の波が押し寄せてきたようだった。
その結果、予測出来なかった衝撃にユキがよろめき彼の目の前にいた私は見事に押し潰された。
しかしユキが一瞬の判断で上手く人並みから庇うように立ってくれたらしく、とりあえずは無事といえる。
大きなユキにすっぽりと覆われ、視界は白いワイシャツでいっぱいで、
頬に密着したユキの鎖骨あたりの体温を妙にぽかぽかと感じた。
肌と肌でくっ付いた部分はなんだか熱い。
潰されたまま特に文句を言うでもなく普通にそのままな私とは対照的に焦ったような声が頭上から降ってきて、やはり後輩可愛いなとよく分からない萌えに襲われた。


「すいません…!!今、退きますから…!」
「私は、大丈夫だから、ん、…あんまり動かないで」
「な、なんでですか。凄く辛そうなんですけど」
「いやあの、」


胸が、と小声で囁く。
ドアとユキにぎっちりはさまれたこの状況で身を捩られるとユキの堅いお腹や胸板にぐりぐり押されて色々、というかはっきり言って胸が痛い。
それにこの混雑だ。
方向転換も出来やしないような状況ではこうしているしかない。
それに気付いたユキはあ、と小さく声をあげてそれからすみません、と耳を赤くさせてもう一度呟き、動かなくなった。
幸いにもこの身長差なのでお互い顔は見えないが、なんかだ気まずくさせて大変申し訳ないなと思いつつ、この混雑はいつ解消されるのだろうと考える。
私も私でバランスの悪い妙な体勢のまま固定され足が少しばかりキツい。
することもないのであーいつ空くのかなこれ、
まさかこれ以上混まないよね、ていうかさっきの拍子でユキが咄嗟にドアに手をついたせいでなんかいわゆる流行りの壁ドンみたいな体勢だなあ、
友達に見られたらからかわれるだろうな、
誰も乗り合わせていませんように…と現実逃避気味に考えることに専念する。
お腹付近のなかなか際どい所になんだか思いっきり存在を主張しているものが当たっているが私はスマートにそれをスルーする。
内心冷や汗かいてるし正直居心地はあれだけれど顔に出さなければ問題ないはずだ。
せっかく守ってくれているのに申し訳ないし、それに流石に下手に突っ込んだらユキが傷付くだろう。
なんてったってプライドが高い。
しかしユキはさっきから何か言いたそうにあからさまにそわそわしているので顔色を伺うつもりでちらりと視線を上げると、真っ青な顔をしたユキと目が合い少し驚く。
何かフォローしなくてはと思うも生憎この状況で言うべき言葉なんて知らない。
…こういう時、なんて言うべきなんだ。


「あ、あの…ですね、ユキちゃん…。なんかさ…大丈夫だよ」
「ごめんなさい、違うんです、ほんとすいません…、ごめんなさい…」
「い、いや…そんな気にしなくていいよ。全然、おっ、怒ってないし。男の子だからこういうの仕方ないんだよねうん、分かるよ」
「ごめんなさい…」


平然と私こんなの気にしていませんよ風を装おうとしたがばっちりどもってしまい後悔が押し寄せる。
できない年上で申し訳ない。










それからは、私達が降りる駅までそのままの状態だったせいで、帰り道の気まずいことと言ったらなかった。
冷たい夜風が火照った頬から熱を奪っていく。
静かな空間に2人分の靴音だけが規則正しく鳴っていて、それが余計に寂しい雰囲気を醸し出す。
さっきから全然目が合わないからユキは重症のようであるが、日が落ちて随分経っているから真っ暗で、どんな顔をしているかまではよく見えない。
私が考え事をしながらぼーっとユキの横顔を横目で見つめていると、急にユキが立ち止まったからビビって無意識に一歩後ずさる。


「先輩、…あの」
「えっ、あ、もういいよ大丈夫!私気にしてないから!」
「え?」
「あ…あれ?」
「…荷物持ちますよって、言おうとしてました」
「早とちりだったねごめんね!?」


これは恥ずかしい。私超気にしてます!と主張しているも同然な勘違いぶりに涙が出る。
折角の気遣いをまたもや無駄にしてしまった。どこまで駄目な奴なんだろうか。


「荷物は大丈夫だよ!そんなに重くないから…あ」
「オレも片手空いてますし、いいんですよ」
「ありがとう…」
「いいえ。…まぁ、ついでにさっきのを弁明させて貰いますけど」
「ん!?あ、はい、どうぞ」
「男の子だからああなるのも仕方ないって先輩言ってくれましたけど、少し違いますから」
「…そっか、ち、違うんだ」
「男だからって女子になら誰にでもあんな風になる訳じゃないですよ」
「え、そうなの?」


単純に初耳だったから聞き返しただけなのだが、それがいけなかった。
立ち止まったままに話は続いていく。


「まあせめて気になる人とか、…好きな人とか。そうじゃなければあんなあからさまに反応しないもんですよ、基本」
「へー…」


私はこれをどう受け取れば良いのだろう。
夜風に冷やされた体がもう一度熱を取り戻していくのがわかって、恥ずかしくなった。
そっぽを向いていたユキはいつの間にかこっちを見据えている。
どうやら何か返さなければいけないらしいが、気の利いた言葉など咄嗟に出てこなかった私がした返事は、「お、男の子ってすごいね!」という間の抜けたものだった。
ダメダメである。







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