泡沫


▼<返礼>
ホワイトデー。バレンタインほどではないけれど、ジェラートにとっては稼ぎどきである。
この時期に意中の相手とアイスクリームを食べたい、バレンタインのお返しにアイスクリームを贈りたい、なんて考える男が果たして存在するのか定かではないが、いつもより稼げる可能性がある、このようなイベントには便乗するタイプだ。
ジェラートは暫く一人で黙々と新メニューの案を出していたが、あまり面白い――良くも悪くもNoceらしい味のアイスクリームが浮かばず、気分転換にびりびりエリアまで足を運んでいた。

「あっ!」

魔法とは無縁の生活を送ってきたジェラートにとって、この商店街は面白い店で溢れている。
ここ、porte bonheurもそんな店の1つだ。店の扉を開けるとそれに気付いた小さな店主があっと声を上げる。

「いらっしゃい! 今日は買い物?」
「買い物というわけじゃありませんけど、まあそんな感じです。ホワイトデーも近いですし……」

此処で扱われているお守りでも見て自身のアイディアを膨らませようかと、と続けるより先に「好きな人でも出来たの?」と目を輝かせる店主……コリンに溜息をついた。
彼はよくNoceにも顔を出してくれる、いわば常連客のような存在だ。店に来てくれたときはくだらない話で盛り上がることもあるし、新作の試作品を振る舞うこともある。少なくとも険悪ではない。寧ろ関係は良好だとすら言える。
そんな彼ならば嘘をつくのが得意ではないジェラートに好きな人が出来たとなれば自分が話題にするまでもなくばれてしまいそうな気がした。

「違いますよ。仕事の一環です」
「じゃあ敵情視察?」
「かもしれませんね」

全く考えてはいなかったが、確かにこれは敵情視察ということにもなるのかもしれない。
とはいえ普段から恋のお守りを扱うコリンと同じ土俵で真面目に戦うつもりなどないのだが。Noceはただでさえ寒くなると売り上げが落ちるのだ。

「ここの商品を眺めていると何となく面白い新作アイスが思い浮かぶ気がして」
「まさか魚介アイスをここの商品をヒントに作った……とか言わないよね」
「ああ、あれは前に海を見てふと思いついただけでこの店は何の関係もないです」

海を見てどうすればあんなゲテモノ――否、不思議な味のアイスクリームを思いつくのかとコリンは首を傾げた。

「まあ、何でもいいじゃないですか。ということで、商品見せてもらいますね」

お守りに込められた願いが、インスピレーションを刺激するのかもしれない、なんて。
そんなことが本当にあり得るのかは定かではないが、ジェラートはそんなことを思った。

2016/03/18 20:32


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