02

「綾部さ〜ん!ほら、牡丹!摘んできましたよ!」

看護婦さんが運んできた明るさをこの病室いっぱいにする。
両手いっぱいの牡丹と共に。

「ありがとうございます」
「いえいえ!なんのこれしき!綾部さんが元気になってくれるのなら私は何だってしますよ。」
「重ねてありがとうございます…でも、そんなにいっぱいの牡丹、ここには…」
「あ…」

どうしましょう、と頬にてをあててその場でおろおろする。
そしてすぐに動きを止め、花瓶を持ってきますね、とばたばたと病室を出て行った。
忙しい人だな、と牡丹の残り香に浸りながら苦笑した。

「お嬢さん」

ぴくり

この声は、昨夜きいた

「兵隊さん…?」

振り返ると、窓辺には昨夜の兵隊さんがいた。
前とは違って明るいので、顔がよくみえる。
やっぱり美男子に分類されるであろう顔立ちだった。

「僕は日本男児だと言ったでしょう…」
「うーん…やっぱり女に見えるよ」
「…あの…」

怒りますよ、と言いたかったが、この人にそう言われてもあまり怒りがわいてこなかった。

「れっきとした正真正銘の男です」
「あはは、ごめんごめん。でも男にしとくには勿体ないくらいの美人だからさ」

少し眉をあげ、もう一度宣言する。

「そんなことを言いにきたんですか?」

はあ、とため息をついてみせる。
そしてくすりと笑った。
兵隊さんも笑った。

「お嬢さん」
「お嬢さんじゃありません」
「お名前は?」

正直、言ってもいいのか迷った。
きっとこの時点で僕はこの人に惹かれていた。
だから、言ってもいいのか迷った。
だって、どこの誰かわかってしまったらまた、
会いたくなってしまう。

「お嬢さん…?」
「お嬢さんじゃない……僕は、僕は…」

「綾部喜八郎です」

「喜八郎かあ、字は?」
「…喜ぶに、八に、郎」
「おお!いい名前だな、喜ぶに末広がりか」
「へ、兵隊さんの名前は?」
「俺?俺は久々知兵助。よろしくな、喜八郎」

とくん

名前を呼ばれ、心臓が大きく跳ねる。
どこの乙女だろうと自分でも思ったが、だがこの気持ちは溢れて止まらない。
でも今の僕にはこの気持ちが何なのか、わからなかった。

「じゃあ俺学校に戻らなきゃ。」
「そうですか…お気をつけて」
「ああ、…ありがとう。」

「綾部さん?」
「あ」

振り返ると今度は看護婦さんがいた。
牡丹のささった花瓶を抱えている。

「どなたかとお話ししてらしたんですか?」
「いいえ…外を眺めていたんです。」
「そうですか。見てくださいよ、牡丹!一輪だけにしたんです。なんだか綾部さんにはたくさんよりもこっちのほうが似合う気がして。」
「ええ、騒がしいよりは静かな方が好みなので嬉しいです。ありがとうございます。」
「いえいえ!綾部さんが少しでもお元気になってくれれば私も嬉しいですから!」

ここに置きますね、と窓辺に花瓶を置き、看護婦さんは出て行った。
僕はしばらくその牡丹を眺めていた。
紅く、凛と咲く牡丹。
堂々としていて、流石花の王女といったところだ。
西洋には薔薇という、またとても綺麗で気品のある花があるらしいが、きっとそれでも僕は牡丹の方が好きだろう。
だってこんなにも美しく儚い花は、牡丹だけだろうから。




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