03

「あ、綾部先輩…」
「やあ。藤内。」

ふっと、先輩が微かに口元を緩ませて、僕を見た。

「知り合いだったのか?」
「えぇ、迷子を送ってあげたんです。」
「ほぅ、良い行いだな。だが委員会にはきちんと出席するように。」

と言って立花先輩が綾部先輩の藤色の髪を撫でた。
立花先輩は良いことをすると褒めてくれる人だった。

「……っ」

うざったそうに、でも少し嬉しそうに綾部先輩は手を振り払った。

「さて」

ぱんっと手をたたく。

「委員が全員そろったところで改めて委員会を始めよう。」
「藤内」

綾部先輩に呼ばれ、隅の小さなキッチンに移動する。
なぜ生徒指導室にあるのだろうと不思議に思っていたら、「私が付けさせたのだ。お茶は何時でも飲みたいだろう?」と立花先輩が教えてくれた。
そんなばかな……。

「立花先輩の言動にいちいちリアクションしてたら頭がおかしくなるよ。」
「喜八郎……?」
「何でもないです」

つまり、立花先輩は何でもありだということを学んだ。

「それでね藤内、お茶出しはいつも一番下級生がすることになってるんだ。今日は僕がやるから、よく見ててね。次からは君がやるんだよ」
「はい」

僕にわかりやすく説明しながら、手際よくお茶を注いでいく。
綾部先輩の横顔をちらと見る。
やっぱり綺麗で整った容姿をしている。
中性的な容姿で、思わずドキッとしてしまった。

「はいこれ、持ってって。」
「はい」

綾部先輩が注いだお茶をお盆にのせ、長机へと運ぶ。

「ど、うぞ……」

自分で淹れてないお茶をどうぞと勧めるのはどうかと思ったが、無言で置くのも変なので言ってみる。

「ああご苦労。」

そういって立花先輩はお茶を一気に飲み干した。

「ふぅ、さて。じゃあ今年の活動予定を決めていくぞ。」

綾部先輩が僕の隣に座る。
いい匂いがしたような気がした。

「まず明日から、風紀を乱す奴らを片っ端からとっちめる。」「!?」
「どうした藤内?」
「いや、どうしたって……いえ……なんでもないです……」

風紀を乱す人を正すのは確かに風紀委員の仕事だが、立花先輩の野蛮なものいいでなぜか相手が流血しそうな気がした。

「不届き者を見つけたら私に知らせるように。藤内だと上級生には注意できんだろう?」
「はい、わかりました。」

絶対知らせちゃいけないとなぜか強く思った。
「あと廊下を歩く時はこれを付けるように。」

立花先輩から風紀委員の腕章を頂いた。

「それを付けていれば誰しもが道をあけてくれるようになるぞ。」

いったいこの学校の風紀委員はどういう扱いをされているんだろう……。
今更ながら自分はとんでもない委員会に入ってしまったのだろうと思い始めた。

「じゃあ委員会終了!」
「早ッ!」
「立花先輩が飽き足ら終わりなんだよ。」
「はぁ……」

なんちゅー委員会だ……
なんて口には出さなかったが、これでいいのか?

「まぁ後は適当に喜八郎に教えてもらってくれ。」
「はぁ…」
「じゃ。」

そう言い残し立花先輩は出て行ってしまった。

「…藤内」
「あ、はい。なんですか?」
「…部活は?」
「あ、今日は無いです。」

まだ仮入部期間だがもうどの部活に入ろうかはだいたい決まっている。

「じゃあ、一緒に帰ろうよ。家、どこらへん?」


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