02 「じゃあ保健委員は三反田で決定!」 「やったー!!」 「浦風は余りの風紀委員な」 生まれてこの方不運続きの数馬に委員会選挙で負けた。 なりたかった保健委員を取られて、一番嫌だった風紀委員になった。 「そんな…まさか…」 絶句する俺に、保健委員の数馬が爽やかに僕をさとすように言った。 「まあ〜?ほら、人にはさ、調子の良いときと、悪いときがあるからさ!元気だせよ藤内!君は風紀委員なんだ!頑張れよ!!」 ばんっと背中を叩きながら。 「君の分まで保健委員として僕がんばるからさ!」 後のことを知っているから今は風紀委員でよかったと思えるけど、 このときの数馬は本当にうざかった。 この世界さえ呪えるとおもったほどに。 「第一回目の委員会は今日の放課後、早速あるからな。忘れずに出席するように!」 連絡事項を伝える先生さえ、このときは憎く感じた。 「風紀委員の教室は……ここであってる…よな?」 委員会開始の4時五分前、僕は風委員会指定の教室、生徒指導室の扉を恐る恐る開いた。 校長室よりも怖く感じた部屋だった。 「失礼しま〜す…」 隙間からそろりと中を覗いてみると、 「お?一年生か?」 スラリと身長が高く、顔も整っており、髪も黒くつやつやした、男の先輩が話しかけてきた。 超イケメン。 綾部先輩もなかなかかっこよかったけど、この先輩に勝てる人は居ないんだろうなと思った。 「はい!三年は組、浦風藤内です!よろしくお願いします!」 物凄く緊張した。 最後のほうは声が裏がえった気がする。 「おおきな声で挨拶できるのか、偉いぞ藤内。さあ、入った入った。」 先輩の勧めるがままに、僕は中央のソファに腰を下ろした。 「さて、ようこそ我が風紀委員会へ」 言いながらイケメン先輩は向かいのソファに座った。 「私は委員長の立花仙蔵。六年い組だ。」 よろしくとのばしてきた手をつかみ、一生懸命握手した。 「君、藤内はこの委員会には立候補で?」 長い手足をくみ、ふんぞり返った体制で立花先輩が僕に質問した。 「いえ!あの、じゃんけんで負けまして…」 僕は正直にいった。 「ふむ。それは不運だったな。他に希望していた委員会は?」 あごをさわりながら、僕を値踏みするよるにねめ回された。 「あの、保健、委員会を希望してました!」 「ほう、保健を。それなら幸運だったな。」 「えっ?」 「保健委員会はな、別名不運委員会と呼ばれている。不運な生徒が多くあつまるのでな。」 このとき、数馬が保健委員に当選したのはツキが回ってきたのではなく、ただ必然的だったのだと確信した。 そうおもったらすこし緊張が解けてきて、周りを見渡すゆとりができた。 「あの、風紀委員会って、僕らだけなんですか…?」 そのとき生徒指導室には、僕と立花先輩の二人しかいなかったので、そう質問した。 「いや…もうひとり、いるよ。四年生がね。でもあいつはめったに顔を見せないからな。いないも同然だろう。 実質、私と藤内の二人だけということになるな。」 「えっ!?」 「でもまあ年度始めの顔合わせだからな。連れてくるか…。藤内、いくぞ。」 「あ、はい!」 抱いていた鞄を床に置き、立花先輩のあとを追いかけた。 自ら出向くんだったら連れてくる必要ないな、と思った。 口には出さなかったけど。 「さあて、あいつはどこにいるとおもう?」 「えっと、わかりません。」 「だろうな。素直でよろしい。」 まず名前すら知らない人を、どこにいるとおもう?とは意地悪な質問だなと思った。 「どんな人なんですか?」 何かヒントは無いかと、質問した。 「う〜ん?どんな人、……一言でいうと、ふわふわな奴だ。」 「ふ、ふわふわ…?」 「ああ。何を考えているかよくわからんし、いつもどこかさまよっているからな。」 「……そんなひとなんですか」 「ああ。あといつも穴を掘っているな。」 こ…個性的すぎる…。 先輩の足は長いので、先輩が一歩歩くと僕が二歩進む様な形になった。 まずは無難にその人のクラスを訪ねた。 でもどうやらホームルームが終わってすぐにどっかへ行ってしまったようだ。 次にいつも穴を掘っているというグランド脇。 たしかに穴を掘ったり埋めたりした跡はあったけど、ここにも居なかった。 「ど、どこに居るんでしょうね……」 「ふむ…では一旦生徒指導室に戻ってみるか。」 「は、はい!」 結局、だだっ広いこの校舎を一周してしまった。 しかも歩幅があっていないため早歩きで。 元々体力の少ない僕にはキツい運動になった。 「ほら、藤内もう少しだぞ。頑張れ頑張れ」 立花先輩が涼しい顔して横から声をかけてくれたんですけど、歩みを緩める気はさらさらないようで、僕は目を合わせなかった。 「到着」 「はぁ〜…」 ソファになだれ込むように倒れた。 「おかえりなさい、先輩。」 そのとき、頭上で聞いたことのある声がした。 息を整えながら声の主を確認すると、 「あぁ、ただいま喜八郎。」 藤色の髪をふわふわと揺らしている、あの人がいた。 その人はまどに寄りかかりながらこちらをみていた。 「藤内、風紀委員の四年生、綾部喜八郎だ。」 明日は筋肉痛に間違いないと思った。 [目次] [栞] |