07

「はい藤内。」
「わっ」

放られたのは赤い腕章。
なんだかずっしりと重い。
風紀委員と黒い糸で、その文字の縁を金の糸で刺繍が施されている。
腕章の赤より深い紅の糸でくるくると蔦のような刺繍もされている。
そして腕章の端にはこれまた達筆で学園の名前が刺繍されていた。

「腕につけてね」
「はい……立派ですねぇ」


「………それね、立花先輩のお手製だよ」
「へぇそうなん……えぇ!?」

びっくりだよ。
びっくりだよ!
びっくりだよ!!

器用そうだとは思ってたけれどこんなものを作ってしまうなんて…。

びっくりだよ。

「いつまで口開けてるの。時間なくなっちゃうよ。」
「あ、はい!」

綾部先輩に続いて廊下にでる。
腕章を付けているだけで、なんだか誇らしいような照れくさいような。
何だかいつもとは違う学校を歩いている気がした。

「藤内クン」
「はい?」
「その腕章にはね、特別な力があってね。」
「力、ですか?」
「そう。…藤内クン」
「はい?」
「焼きそばパンを買ってきたまえ。」
「ええ!?」

何を言い出すんだこの人。
お昼休みになってもう15分は経つが、いまだに購買に殺到する生徒は少なくない。
ましてや時間が経った今、人気の焼きそばパンがあるだろうか?
あったとして、僕に買えるわけはない。

「む、無理ですよ…今時分に…」
「いーから。」

ぽんと背を押され、しぶしぶ購買へ突入する。
綾部先輩は後ろで見守ってくださっているようだ。
さてどうしたものかといざ踏み出したらまあこれはどういうことか。
今まで乱闘を繰り広げ騒がしかった購買がしん、と静かになる。
そして購買のレジまでの道がさぁっと出来たのだ。

「え、あの……先輩?」

少し怖くなり後ろを振り返る。
綾部先輩はツンと背筋を伸ばし片方の腕を後ろに回し、もう片方は僕に向かって振っている。
渋々僕はレジへと歩き出した。
渋々、素早く。
焼きそばパンを下さい、とダメ元で聞いたのにそれはちゃんと存在して、仰天しながらも僕はパンの代金をちゃんと払ってそこを早々に立ち去った。

「はい、これ…」
「ん、良くできました。」

後ろで控えていた綾部先輩にブツを渡し、
心臓が飛び出るほど緊張したはじめてのお遣いは終了した。




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