*『思考者は空に落ちる』の終わり方
*とりあえずカーパルス占拠ノーマル
*独善的首輪付き独白






だから放ってなんかおけない。
あんなに楽しそうにわらう人を。
どうして放っておけるのだろう。



「“キング”、大丈夫ですか。」

荒くて浅い呼吸。
気を抜けば直ぐにでも意識を手放してしまいそうな程、彼の傷は濃く、深かった。
けれどもやっぱり、いつもの通り彼は楽しそうにわらった。口の端をぐっと吊り上げて、これ以上おかしい事なんて無いというふうに、わらった。

「大した事じゃあ無いなんてのは、見りゃあ解るだろ?」
「――ええ、そうですね」

無意識のうちに彼の手を握っていた。
ゴツゴツと節くれ立った、男っぽい、らしい、俺が好きな手。
元々あまり血色の良くなかった彼の厚い皮膚は、輪をかけてその色を失いつつあった。

「嫌ですよ、俺を独りにしたら」
「大丈夫だよ、お前ならなァー…」
「大丈夫じゃありません。嫌です」

またわらう。
がぼりと咳き込み、内臓を含んだ血を吐くと、彼はぐらつく上半身を起こし、そうして唐突に、俺を抱きすくめた。

思わず息を呑む。
じくりじくりと命の廻る音がダイレクトに伝わって、眩暈がした。ケミカルグリーンの燐光が、俺をわらった気がした。
愛おし過ぎて聴こえた幻聴は、あまりにも確かな質量と、むせかえるような血の匂いを含んで居た。

「…“キング”…?」





地に、海に、どうと墜ちた。
鉄塊と化したネクストが黒煙と火花を吹き上げる。

俺はただ彼と空が愛おしいだけだった。
それを邪魔するのは何者でもただ許し難いだけだった。それだけだった。

俺は風の名をもつ俺の相棒と飛ぶ。
ライフルが吐き出す声を、ミサイルが乾いた大気を引き裂く叫びを聞いていた。




「はっ――戦争屋風情が、偉そうに。
 選んで殺すのが、そんなに上等かね」




左腕の、どこか騎士の盾を思わせる兵装にサンセットオレンジの刃が生成される。
それを左ななめ上に斬りあげる。
直前にVTFミサイルをまともに受けていた白いネクストに、コジマ粒子は未だPAをはり倦ねていた。
火花と煙を吹き上げるコアにサンセットオレンジの刃が食い込む。
AMSからフィードバックした情報には中身の感触も含まれていた。

ケミカルグリーンの粒子が炸裂する。
破損した整波装置がなんとか寄り集めて再展開したPAと、俺の機のPA同士が干渉している。
ばくりと口を開けた傷から突撃銃を捻込み、

『―――っ!!!』

1マガジン分を撃ち込む。
AMSから伝わっていた感触の割に未だ息があったらしい。浅かったのだろう。
けれど、今ので終わったのが解る。
白くくすんだネクストからがくりと力が抜け、鉛色の海に引きずり落ちていく。

「     」

どちらが言ったのだろう。幻聴かな…
どこからか洩れた呟きが消えるか消えないかという

『貴様ぁっ!』

クリアブルーのハイレーザーがPAを貫通して霧散する。真鍮色のネクストがOBでこちらに突っ込んで来る。
機体を浮かしていなす。
擦れ違う瞬間、真鍮色のネクストがブレードを展開・こちらも応戦する、スカイブルーとサンセットオレンジのブレードがじりじりと歯軋りするような―――赤土色のネクストはタフでマッシブに戦った。男らしい、とはこういうことを言うのだろうな。ミサイルとバズーカの扱いが素晴らしく巧『若いな…惜しい』殺到するミサイルを撃ち落とし、アルテリア・カーパルスの外壁に当てて被弾を最小に抑える。まだ余裕に動けた。あの赤土色のネクストよりは動けるだろう。深海色のネクストは余程尖っていた。オレはこの人を知っているような気がする――レーザーバズーカとも呼ぶような兵装と、恐ろしく素早い精密な動作は彼が徒者でないと彼の乗っているACからもよく分かった。あんなにびしびしとしたACを誰が、どのくらい乗りこなせるものなのだろう。少なくとも、オレには無理なのだろうな。

どうしてそっとしておいてくれないのかな。一体オレとキングが何かしたのだろうか。どうしてこの人たちはこんなに『怒って』―――怒りの感情は、…そうなのだろうか。よくわからない…キングは怒るなんてことがなかった。『貴様…は、どうしてっ…こんな……っ』『若い…あまりに、…しか、し…何という……』『こんな、事がっ…』言葉というせりふはあまりにオレの耳には残らない。ACの軋みはまだ理解出来る。キングとナイトのことばは、それだけは真実で、真実だった。ただ受け取った。オレは彼らのことが好きだった。これはシンプルなんだろう。好きだったんだ。だからわかった。





こんなのってあんまりじゃあないですか。俺を俺たらしめたのはあなたなのに、俺を残してゆくのですか。あなたが俺を俺にしてくれたのに、これからぜんたいどうしたらいいというのですか。あなたの居ない世界がこんなに無意味だなんて想像も出来なかった。これからぜんたいどうしたらいいというのですか?――ああ、そうか。――あなたが出来なかったこと。あなたがしたかったこと。それは俺にも出来る。じゃあ、だから、ああ、そうだ。だから、ああ、ああ――そうします。そうしなければならない。だから、俺は空に憧れていたのかも知れません。あの空。あなたと一緒に居るのなら、何もこわいことなんてあるはずが無いから。あなたがしたかったことを、ああ、ああ、――そうだ。みんな落とす。なんでこんな簡単な事を――"キング"、もう少し、待っていて下さい。必ず、やりますから

(未

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