古王と首輪付き



Sink,Thinker.



「まさか中身がこんなだとはなァ」

無精に髭の生えた顎に手をやりさも愉しそうににやつく男は、顔や仕草こそ面白そうにしていたが、どこか普通では無い雰囲気を確かに纏っていた。
―が、今は新しい玩具を手に入れた子供のような締まりのない顔をし、目の前で明らかな膨れっ面をしている少年を見下ろして居た。

「…小さくないです。」
「まだ何も言って無ェだろ。」

分かり易く不機嫌な顔をした青い保護(パイロット)スーツの青年は、――この見た目と幼さは"少年"と言ったほうがしっくりくる――男より頭ひとつ半ほど小柄で、頬に笑みを貼り付けたまま屈んで顔を覗き込んできた男を斜に睨んだ。

「――まァ、それはそれとしてだ」
「……っ…!?」

男が不意に少年の枯れ枝のように細い腕を掴み、ぐるりと自身の背後に放り投げた。
男の背後には古ぼけてはいるが広いソファーがあり、中途半端な格好で放られた少年をばふんと埃とクッションとでとりあえずは怪我も無く受け止めた。

「明日から忙しいぜ?寝といたほうが良いってこった。」

まだ目を白黒させていた少年に、続けて薄手の毛布が2、3枚飛んでくる。

ひらひらと手を振り立ち去ろうとする背に、おもむろに少年が声を投げた。

「――あの。××××××××××××××××× ――?」

自身が何を言い出すのか、少年にも分からなかった。ただ、何故か、あの寂しそうな広い背に声を掛けなければならないような気がしたのだった。

「――…」

肩越しに振り返る男のモスグリーンの眼がふらりと揺れたように、少年には見えた。
その揺れた眼の奥に底知れない何かが見えたような気がして、少年は慌てて正面からかちあった視線を逸らす。

「―――っ…スイマセン、……俺、何を……忘れて、ください。」

俯き、毛布を被ろうとする少年の手を、唐突に、少年のそれより一回りも大きな浅黒い骨ばった手が掴んだ。

はっとして仰ぐと、予備灯の薄暗い灯りを遮って男が立っていた。
固まる少年をよそに、男は煙草の匂いがする程近くに顔を寄せ、少年の耳元でにやついた低い声が纏わり付くように耳に響いた。

「そうだなァ、――慰めてくれよ。」

余りに低い、鼓膜から内に張り付くような声に、少年は思わずびくりと肩を震わせ、すぐそばにある、笑うように細まったブラウンがかったモスグリーンの眼を見詰めたのだった。


(未

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