「…………っ」



自分の気持ちを押し殺したまま

流氷から見て、ぎこちなく見えないよう、招かれるまま俺は流氷の部屋に腰下ろす

『甘いの、大丈夫?』っと
聞きながら俺の顔を覗いた流氷に
何故か緊張して、『別に』っと
答えてしまった自分を恥じた



「…何やってんだ…」



なにやら流氷はその後
パタパタっと部屋を後にして、

一人残された俺は
そのまま、すぐ後ろにあった
流氷のベッドに身を投げる

ギシッと少しだけスプリングが軋む音がしたと同時に、鼻を掠める
あいつの匂い



「………っ」



ふわり、と柔らかい布団に
優しさと抱擁にも近いその匂い

それに微睡みながらも
ギリギリ、自分を追い詰めていく痛みに力強く目を瞑った




あいつから見たら俺は、
ただの友達、チームメイト。
俺からの行動なんて
気にもしなかったんだろうな…

俺がどんな気持ちで
お前といた、なんて

全部、全部一方通行で
結末は、なんてあっけらかんと突き付けられる

そんな上手くいかねぇことは
わかってたさ




「お待た…せ……?」



キィッと扉が開き、
流氷で来たことが判った

だけど俺はもう限界だった。
今、流氷を見たら叫んでしちまう
罵倒しちまうかもしれねぇ

口を開いた流氷に返事もせず
俺はそのまま、動かないことにした



「………」

「………」



カシャンと小さく食器がテーブルに置かれる音がして、食べ物だろう

流氷はそのまま口を開かず
代わりに空間には俺と流氷の呼吸音だけが流れる



「よい…しょ」



ふいに声と共に腰を下ろした流氷。
ポスンっと毛布が弾み、
肌に感じた熱気に流氷が近くにいることを察した

『なんで』っと頭に疑問を浮かぶよりも先に、頬にくすぐってぇ感覚



「……綺麗…」



淡い人肌の温度を感じ
直ぐに流氷に撫でられてるんだと判った

遠慮がちに指先を顎まで滑らせて
流氷の声は、何故か恍惚に感じ取れた



俺と流氷の体温が微かに混ざりあい

流氷の呼吸一つで
俺の神経は侵されていって…

その中、グツグツと俺の中で
欲情と独占欲が煮えたぎる





流氷はもう、他人のもの

なら、そいつから
流氷を奪えばいい

俺だけの、流氷にすればいいんだ







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