「うがぁあああああ!!!!!!」





とある日曜日。
風が程よく廊下を通り
爽やかに窓から照らす

俺はその空間の中
キッチンであるものを作っていた

あとは焼くだけ…っと
オーブンに火を入れた瞬間
リビングにいたおれの叔母さん
(っと言うと怒るので名前で呼んでいる)がいきなり叫び出したのだ



「?、どうしたの…?」

「だみだー…、
モチベーションが上がらねぇ…」


いつものことなので驚きはせず
エプロンを外しながら声掛けると
高校生が勉強に苦戦してるみたいに
テーブルに突っ伏した塑琉奈さん

本当に高校生みたいだな…



「アイデア、浮かばないの?」

「そんなことよりケーキはできたかい!!?麗人くん!!」

「まだです…」



そんなことって…
自分の仕事より食い気とは
さすが塑琉奈さん



「今、オーブンに入れたばっかだよ」

「えぇえー…マジでか、
じゃあ気分転換に商店街行こうぜー」

「商店街…、いいよ」



残念そうに声を漏らしながら
立ち上がり、おれの元に歩み寄る塑琉奈さん

おれは横目でオーブンを見てから
あと一時間を待つ分の暇潰しに承諾をして

商店街へと繰り出した





賑わい、老若男女問わず
活気の溢れていた商店街

少し人混みを掻き分けながら
塑琉奈さんを先頭に
ブラリ、ブラリと足を進める



「ちっ、ライバルめ…
新しいキャラクターもう作ってやがる…てかこんにゃくって!」

「あんまり可愛いくない…」

「…お前って意外とストレートだな」



雑貨屋にある、他社のぬいぐるみを二人で見ていれば

ふとぬいぐるみを手にしたまま
塑琉奈さんは気が付いたように口を開いた


「そういや麗人さ、作ってたケーキ誰にやるつもりなの?」

「……えっ」

「だって、ラッピング用の道具があったんだもん」



まさか聞かれるとは思わなくて
おれは思わず間抜け声をあげてから
ニヤニヤと塑琉奈さんはおれを見つめる



「彼女にあげんの?
はっ、もしかして…彼氏!?
なら紹介しなさい!!」

「ちっ、ちが…」

「麗人も罪におけないねぇー、
ふっふふぅ!!!!」



彼氏、という単語から
不意に過ってしまった彼の姿に
なぜか顔が熱くなってしまう

それに気分良くした塑琉奈さんは
にやけた顔のまま、おれを『コノコノッ』と肘でつついた



「まあ、喜ぶといいね!その相手!」

「…う…うん…!」



からかいながらも、そう笑みを溢した塑琉奈さん。
それにつられて、何故だか綻んで
こっちも笑みが溢れてしまう

なんというか、
綱海さんが塑琉奈さんに
惚れた理由が判った気がする



「…っあ…」

「ん?どした?」



一人感心した後、
ふと辺りをなにとなく見渡して
視界に映った彼の姿に
思わず声が漏れた



「塑琉奈さん、先…行ってて」

「んお?おー、わかったー」



彼を見た瞬間、駆け寄りたい気持ちに刈られて、
足は勝手にそこに目標が定まる

そんなおれに気にすることなく
塑琉奈さんは揚々と『いってらー』っとおれの背に声かけた



おれは人込みを掻き分けて
目立つ紫の衣装を羽織る彼に近付く



「剣城……?」



ずっと動かないままでいる彼に
不思議に思いながらも、
ゆっくり、彼の肩に手を置いた



「よう…」

「散歩…か?」

「まあな………」



彼は振り返り、おれを見た瞬間、
少し伏せ目がちに視線を落とし
やっと彼の足は動き出す

おれもその背に付いていくと
何故だろうか、剣城の背中がとても寂しく見えた

いつもなら真っ直ぐおれを射抜いて
言葉では表さない、歓喜の雰囲気を出しているのに

その面影は
今は掠れ消えていた



「どうか…した…?」

「は?」

「機嫌、悪い…みたいだから」



勘違いかもしれないけど
聞かずにはいられなかった


もし、何かあったなら…
おれにも、それを共有させてほしい…

そんな一方的な気持ちで
歩幅を彼に合わし、問い掛けてるも
彼は口を開こうとはしない


やっぱりお節介だったかな…



「………」

「…あ、」




無言で歩き続ける剣城を
隣でどうしたらいいかな…っと
悶々と考えてたら

ふと、オーブンに入れていた
スポンジを思い出した



「…そうだ
剣城に…渡したいものがあるんだ、」

「俺に?」



ぴたりっと足を止めて
不思議におれを見つめる剣城

少しだけ、彼の雰囲気が柔らかくなった気がして、口が綻ぶ



「良かったら、家に来ないか…?」





剣城の気分も、少しでもいいから
晴れてほしいんだ









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